音楽と写真、プレイリストを使ったキャンペーン
Spotifyを使ったふたつめの事例は、Spotifyのプレイリストを使ったキャンペーンです。コカ・コーラはFacebookの写真を使ってSpotifyプレイリストのオリジナル・カバー写真を作成できる夏期限定のキャンペーンを実施しました。ユーザーは夏の思い出を写真で共有するだけでなく、好きな音楽でSpotifyプレイリストまで作って共有することができる。この仕組みを、コカ・コーラはSpotify音楽アプリとマイクロサイト上で実現しました。

パーソナルな写真と音楽を組み合わせることで、画像だけだったストーリーに音楽というエッセンスがプラスされて、写真好きだけでなく音楽好きな人もキャンペーンに参加したくなるキッカケが生まれます。よりパーソナルな体験を実現したことで、ターゲットとの関係の強化につなげることが可能になったキャンペーン例です。
Spotifyを使うメリットとは?
これらのキャンペーンにSpotifyを使うことのメリットはいくつか挙げられます。ひとつはSpotifyを使うことで、音楽好きなターゲット層との関係を直接作れる機会が生まれます。企業が独自に音楽を使ってゼロからマーケティング活動を行うとすれば、膨大なリソースと時間が必要になります。すでに世界でアクティブユーザー2400万人を抱えるSpotifyであれば、消費者との接点を持つことが可能です。そして、前述のように広告以外にも多岐にわたるエンゲージメントが可能となるので、ターゲットに適した施策を行えることが、Spotifyで音楽マーケティングを行うことの強みです。
メリットのふたつ目は、2000万曲以上の音楽カタログを持つSpotifyを使うことで、利用できる音楽へのアクセスが無限に広がり、キャンペーン参加者に幅広い選択肢を提供することが可能になる点です。企業が独自に準備したコンテンツでは一部の音楽ファンにしか届かない魅力も、音楽カタログへのアクセスを開放することで、より多くの音楽ファンが参加し共有しやすい環境を作ることができます。またその一方で、企業によるキュレーションやレコメンデーションによってブランド力を高められる、といったメリットも生まれます。
Spotifyを使った音楽マーケティングの課題
ここで、Spotifyを使った音楽マーケティングを行う場合のデメリットについても触れたいと思います。まず現時点でキャンペーンを行うことができるのは、Spotifyがサービスを展開している国に限られてしまいます(執筆時点で、日本でのサービスは提供されていません)。前述のキャンペーン事例はオーストラリアとドイツで実施されたもので、いずれの国でもSpotifyはアクセス可能になっています。
またSpotifyを使った音楽マーケティングを高いエンゲージメントで達成するためには、Spotifyユーザーが数多く存在する必要があります。どんなに注目されるサービスであっても、利用者が少なくターゲット層が存在せず認知度も低ければ、Spotifyのソーシャル機能や音楽アプリも機能しないまま、スルーされてしまう可能性があります。
ここではこれ以上の議論は控えたいと思いますが、Spotifyを使うマーケティング戦略は始まったばかりで、今後も課題の洗い出しとユーザーの観察が、プランニングをする前により一層重要になっていきます。
最後に。コカ・コーラとSpotifyの関係はパートナーシップでの合意にとどまりませんでした。2012年11月にSpotifyは1億ドルの資金調達に成功します。そして、コカ・コーラはこの投資ラウンドに一企業として参加し、約1000万ドルの出資を行いました。コカ・コーラとSpotifyが文字どおり戦略的パートナーとなったことで、今後もSpotifyは音楽マーケティングの分野で世界をリードする企業のひとつとなっていくでしょう。