「ID野球」と「セイバーメトリクス」、日米の手法の違い
ベースボール事業部 アナリスト
金澤 慧氏
続いて、データスタジアム株式会社 ベースボール事業部 アナリスト 金澤 慧氏が登壇。野村克也氏が提唱したことで知られる「ID野球」と映画『マネーボール』で一般にも知られるようになった米国の分析手法「セイバーメトリクス」の2つを比較しながら、野球データ分析の事例を紹介した。
ID野球は「Important Data 野球」という和製英語で、日本発祥の野球データ分析アプローチを指す。戦術視点が強く、スコアラー、コーチが次の試合をどう戦うかのためにデータを分析する、ミクロ視点からのアプローチだ。相手の弱点を探り、選手のプレー選択、監督の選手起用の選択肢をしぼり、今ある戦力を最大限に生かすために分析が行われる。
一方、セイバーメトリクスはアメリカで主流となっている分析視点。こちらは映画で紹介されたとおり、戦略視点が強く、ID野球よりも大きめのマクロ的な視点でのアプローチだ。ID野球の場合は「一試合をどう戦うか」にフォーカスしているが、セイバーメトリクスの場合は、球団の編成や、1シーズンにわたってどう戦っていくかが焦点。統計的な手法を用いて選手の能力を正確に評価し、戦力を整備していくことでチームを強化し、勝利に導いていく。
野球の通説をデータで検証!
金澤氏は、「統計的な視点とはどういうものか」を説明するために、「野球は9回2アウトからが勝負」「無死満塁からは点が入りにくい」といった“野球の通説”が本当に正しいのかを、実際のデータをもとに分析してみせた。
「野球は9回2アウトからが勝負」は本当か?
「9回2アウトからが勝負」について、金澤氏は、7回終了時点で負けていた場合、そのあと逆転して勝つ確率はどのくらいあるのかというデータを示した。2010年は8%、2011年は6%、2012年は6%となっており、このデータを見るかぎり、勝つ確率は高くない。しかし、何点差で負けているかも重大な要素だ。2012年のデータでは、1点差で負けているときは16%、2点差では3%、3点差では2%。このように「データを統計的に見ていくと、主観的に考えていたものとはちがう事実が明らかになる」と金澤氏は言う。
「無死満塁からは点が入りにくい」は本当か?
続いて、もうひとつの通説「無死満塁からは点が入りにくい」についても分析を行った。ここでは「得点期待値」と「得点確率」というふたつの指標を使う。考えられるシチュエーションは、出塁が「ランナーなし」「1塁」「2塁」「3塁」およびその組み合わせで8種類、さらにアウトカウントが3種類。8×3=24種類の状況が想定できる。円の大きさは機会数を、色はアウトカウントを示しており、無死満塁は起こりにくい状況のため円が小さく表示される。右上にいけばいくほど点が入りやすい状況にある。
2012年のデータでは、一番右上にあるのが「無死満塁」得点確率は86%、得点期待値は2.1点。つまり「無死満塁」はデータ上で見ると最も点が入りやすい状況と言うことができる。
ワンプレーの価値を得点で示す「セイバーメトリクス」
金澤氏は続いて「セイバーメトリクス」における分析の具体例を示した。セイバーメトリクスはひとつひとつのプレーの「得点」を算出し、それをもとに客観的に評価する。
たとえば、「二塁打」の価値も点数で示すことができる。無死走者なしの場合の得点期待値は「0.367」。ここで二塁打を打って二塁に進塁すると、無死走者二塁の場合の得点期待値は「0.883」となり、結果的に得点期待値は「0.516」増加する。「これが二塁打の価値だと言うことができる」(金澤氏)。この指標をもとに、ワンプレーワンプレーの打撃結果の価値を評価する。
データスタジアムでは、これまで取得できなかった守備データの取得もスタート。守備範囲をゾーンに分けて、だれが捕球したかしなかったのかをデータ化している。これによって、攻撃面および守備面での選手の貢献度を客観的に評価し、チーム全体の補強ポイントを可視化することが可能になる。
ID野球とセイバーメトリクス、日米の野球の違いはあるが、最近では日本でもセイバーメトリクス的な手法を取り入れる球団も出てきているという。日本式のID野球とセイバーメトリクスの融合が、今まさに始まっているのかもしれない。
