スポーツデータを活用したビジネスモデル
最後に再び大野氏が登場し、スポーツデータを活用したビジネスの実際について語った。
試合の中継やスポーツ番組を視聴する際に、スマートフォンやタブレット端末が使われるようになってきた。こうした視聴環境の変化の中で、どのようにコンテンツをつくっていくのか、コミュニケーションをはかっていくのか。そこにもスポーツ競技データを活かす機会がある。
データスタジアムは、今春WBCを中継したTBSとアプリを共同開発。このアプリでは、中継を見ながら配球の状況、ピッチャーとバッターの過去の対戦成績などを手元で見ることができる。昨年の日本シリーズでは、ゲーム会社のコナミにデータ提供という形で協力し、各回が始まる前にクイズを出す試みを実施した。「この回にヒットが出るか」「三振が何個とれるか」などを質問し、過去のデータを表示しながら予想をサポート。野球の試合中継では、回と回の間のCMタイムに視聴者が離れてしまう場合もあるが、この試みによってその時間帯にも視聴者の興味を引き、次の回も集中して視聴者が見てくれるという効果があったという。
メタ情報の活用が、タイムシフト時代を変える
データスタジアムが入力している各種データは試合の映像に、さまざまな付加価値を与える「メタ情報」。試合の映像と組み合わせることで、特定のシーンを検索することが可能になる。この組み合わせはプロ野球でさかんに活用されており、試合前に相手投手との過去の対戦映像を確認している選手も多いという。また、一般の視聴者向けには、スポーツ中継が終わったあとに見逃したシーンを検索して視聴できるサービスも充実させている。
大野氏は「いまは“全録時代”と言われ、タイムシフト視聴が広がっている。自分も広告業界にいた経験から、今は大きな転換期だと考えている。しかし、時代の流れに合わせて、我々の競技データをメタ情報として活用することで、新たな可能性も生まれるのではないかという提案もさせてもらっている」と語った。さらなる応用としては、見逃したシーンの検索、「○○選手が打席に立った」と知らせてくれるアラートサービス、好きな選手のダイジェスト映像が見れるサービスなどが考えられる。
また、球場の来場者にもサービスを提供。西武球場では今春から、スタジアムでスマートフォン片手にピッチャーとバッターの対戦データを見られるようになっている。
技術の進歩で、これまで取得できなかった守備データも入手可能に
技術の進化はこれまで取得できなかったデータの取得も可能にしている。野球で導入されている「トラッキングシステム」では、球場に設置されたカメラから取得した映像をもとに投球座標や投球角度などの各種情報を自動的に取得することができる。
メジャーリーグでは、すでに投球データを取得するシステム(PITCHf/x)を全球場に導入。変化球についてはどのくらいの角度で曲がったから「カーブ」、どのくらいのスピードでこのくらい落ちたから「スライダー」という判定を自動的に行う仕組みも生まれている。さらに、キャッチャーが構えたところからどのくらい動いたかを取得することでピッチャーのコントロールを客観的に評価することも可能だという。
サッカーでも同様のシステムが導入されている。これは軍事技術を応用したもので、専用のカメラとソフトウェアを使って、ピッチ上の全選手、審判、ボールの動きをリアルタイムでデータ化することが可能となっている。日本では、テレビ埼玉が実用化しており、NACK5スタジアム大宮にカメラを設置し、マッチアップする2人の選手のホットゾーン(プレー頻度の多いエリア)をリアルタイムで中継画面上に表示したり、試合中の選手の走行距離のデータを紹介することで中継をより楽しめるようにしている。
大野氏は「データを作るだけでなく、それをいかに顧客サービスに発展していくのかがビジネスのポイント。現場のニーズにこたえたり、活用のアイデアを提供することでビジネスを広げていきたい」と語った。スポーツの世界にも広がるデータ活用の波。今後もさらに多くの競技に広がっていきそうだ。
