カルチャーこそがクリエイティビティ発揮のカギ
カオスパイロットのクリスター校長とランチをする機会を得ました。彼は、知的でエネルギッシュで気さくな大男。自校の理想と内容について、熱く語ってくれました。
「ビジネス思考とクリエイティビティ思考を兼ね備えた人材を輩出したいのだよ」と語る彼を、筆者はさえぎって質問をしました。「“デザイン思考”というよりは“クリエイティビティ思考”なのですか?」魅力的な笑顔で少し答えに窮した彼は、「Let’s see(それは、ね)」としばし考えながらも、こんな風に答えてくれました。

「IDEOを始めとする“デザイン思考”は、カオスパイロットでも教えているし、IDEOの社員が講演をすることもある。“デザイン思考”的な方法論は、カオスパイロットの教育でも重要なものだ。だけど、あえて言えば“クリエイティビティ思考”の方が、ピタッと来るかな。デザインと言うと狭い意味にとってしまう人もいるし、我々はビジネスや社会活動におけるクリエイティビティこそを大事にしているからね。」
そして、2年次に行われると言うアウトポストというカリキュラムについても、教えてくれました。アウトポストとは、2年生全員35名ほどと学校スタッフが、外国のどこかの都市に3か月ほど滞在し、現地の企業やNPOなどをクライアントに、実際のプロジェクトを運営するというもの。
訪れる都市は、その都度異なり、南米の都市のこともあれば上海だったりもすると言います。来年2014年3~6月には、南アフリカのケープタウンに出かけるとのこと。カオスパイロットは20年の歴史を持っているので、卒業生が世界各地にいて、だいたいは卒業生の協力で現地のクライアントを探しているようです。学生たちにとっては縁もゆかりもない未知の都市で、実際にプロジェクトを動かすことで、さまざまな困難の乗り越え方やリスクの取り方、成果の挙げ方などを、まさに“実践的に”学ぶことができるのです。

この記事を書くことを告げて、クリスター校長に日本の皆さんに向けてのメッセージをいただきましたので、ご紹介します(大意)。
「カオスパイロットは、教育界のパイオニアであり続けています。ひとつには、文化的プロジェクトのマネジメントで。そして、起業家精神とリーダーシップ教育で。クリエイティビティの視点で考えると、学生(参加者)に対して学校自体が何かを提供するというよりは、彼らのクリエイティビティが解き放たれ、それぞれの個性に基づいて開花するようなフィールドを用意するといった方が適切でしょう。
我々の教育では、構造よりもカルチャーに重きが置かれています。それは、カルチャーこそクリエイティビティ発揮のキーだと考えているからです。学生(参加者)を、強さと弱さの両面を持つトータルな人格として捉え、“個人”を大切にしています。失敗を許容し、リスクを恐れず、未知の事柄に挑戦することを奨励しています。我々の教育方法は、理論の練習にとどまることなく、“実際に行う”ことを基本とし、実行を目指します。クリエイティビティは、発揮され実行されるべきものなのです」
チェンジメーカーを育成するカオスパイロット
いかがでしたでしょうか。クリスター校長から日本の読者の方々へのメッセージ。筆者には、学生(参加者)<students/participants>という表現が、生徒ひとりひとりを、大人として個人として尊重していることの象徴のように感じられました。
また、カオスパイロットは、「デザイン思考」(あるいはクリエイティビティ思考)の理論化よりも、その実践を通して、彼らがチェンジメーカーと呼ぶような、実際に社会やビジネスにイノベーションを起こし得る人材の教育に邁進していることも、よく理解できました。
「デザイン思考」教育の雄、デンマークのKaospilots(カオスパイロット)。私がここを訪れるきっかけとなったのが、日本の外資系広告代理店に3年勤めたあと、単身デンマークに飛び込んだ日本人女性、大本綾さんです。
次回第3回は、大本綾さんへのインタビューを中心に、彼女のカオスパイロットでの毎日や、それまでの経緯を紹介します。