フェスとIT業界が組んで新たなチャレンジのドアを開く
海外の音楽フェスでは、すでに数年前から多くのライブストリーミングが行われています。毎年ライブストリーミングが注目されるのは、前出のコーチェラ・フェスティバルです。このフェスは世界各地から参加者が集まるほど非常に高い人気を誇るため、チケットが毎年数時間で売り切れてしまいます。フェス運営者は参加できなかった人に向けて、3つのステージを同時にライブストリーミングすることが定番になっています。音楽好きはこれで自分の好きなアーティストが出演するステージを見て楽しむことができるようになります。

特筆すべきことは、これらのライブストリーミングはイベント運営者だけが運営しているのではなく、グーグル(YouTube)やデルなどのIT企業からの技術支援を受けて実現していることです。また昨年はモトローラなどYouTube配信にスポンサー企業がついており、特に若者が多い視聴者に向けて自社のブランド価値を高める広告としての機能も果たしています。
ライブストリーミングによる新しい試み「UNSTAGED」
ではライブストリーミングは今後、音楽ファン同士やビジネスとのエンゲージメントを変えられるでしょうか?
そのヒントになるかもしれない面白い試みを試しているのが、アメリカン・エクスプレスがYouTubeと組んで行っているライブ音楽配信プログラム「UNSTAGED」です。

UNSTAGEDは、アメリカン・エクスプレスがスポンサーとなり、人気アーティストのライブコンサートを配信しながら、楽屋裏の様子やステージを360度好きな角度から見たり、複数台のカメラから好みのアングルを選べる視聴スタイルなど、音楽ファンが自宅やスマホでライブ音楽をインタラクティブに楽しめる仕掛けを用意しています。さらにアメリカン・エクスプレスのブランドの世界観を表現した特別コンテンツや、デイヴィッド・リンチやスパイク・リーなど有名監督が制作したプロモ動画など、エクスクルーシブなコンテンツも楽しめるようになっています。
さらにTwitterとのパートナーシップによって、ライブ動画配信中につぶやかれたハッシュタグが一定の数に達すると、特別コンテンツが視聴可能になったりするなど、楽しみながら視聴できるライブストリーミングになっています。
ライブ体験はもはや会場だけにとどまらない
日本では前出のナイン・インチ・ネイルズが初めてと言っていい事例になりましたが、オンラインやソーシャルメディアが普及したことによって、音楽フェスの聴き方や接し方が確実に以前に比べて多様化し、もはや会場内だけにとどめておくことが難しくなってきました。注目が高いフェスであればあるほど、多くのファンが集まりインタラクションが生まれ、メディアや企業からも注目を集めやすくなります。
音楽フェスは、アーティストやレコード会社、音楽ビジネスだけでなく、これからは企業にとっても消費者とより良い体験を共有する場所となり、自社製品やブランドの魅力を感じてもらう絶好の機会になっていくでしょう。ですので、来年の日本の夏フェスでは、これまでに見られなかったテクノロジーが使われ始めたり、企業との連携による革新がおきる新しい音楽体験の場に変わって行っているかもしれません。