SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

FEATURE

「イノベーションを起こすために必要なのは、編集・デザイン力だと思う」、エンジニア竹中直純の仕事


おカネ、法律、現実の世界に立ちはだかるハードル

竹中:ソフトウェア技術者として言うと、僕が25年くらい、いやもっとだ、30年くらいプログラマやってきて思うのは「終わらせる力」。「リリースする力」なんですよ。それがないと、どんなにブログで「Pythonの新しい技術はこんなにすごい」って紹介記事を書いたとしても、それがどんなに詳しくても、その人にリリース力がなかったらゼロなんです。

 プログラマに限らず、友澤さんがおっしゃったいろんな力を全部ともなって最終的には着地しないといけない。すごく月並みな話ですけど。

 この流れでちょっと違う話をしていいですか? イノベーションを起こそうとして、すごいがんばってつくって実際に着地させたものに「モリタポ」というのがある。これは完全に“円”と同じものをヴァーチャルにつくった。まさに、英語の"virtual( 実質上の、事実上の)"という意味でつくるということを目指していて、初期の設計では、誰から誰に(モリタポを)やりとりさせたかはまったくわからないようなつくりになっていたんです。昔のeキャッシュみたいなものの、次の世代の一番最初だったんですけど、結局、日本国が資金決済法を改定して、モリタポを「前払式支払手段」と認定し、半分供託金を得て積めというようなことを言われたんです。それで技術的なイノベーションとか、貨幣論的なところでいう新しい部分を実質的に全部つぶされたんですね。そういうことも起こるんですよ。

友澤:法律は結構でかいですね。

竹中:そうなんです。僕らは法律の中で生きているので。「技術者は自由だ、なんでもできるぜ」みたいに若いころの僕は思っていたんですが、実際にそんなことをが起こるとは……という感じがあります。

 カネの話とも関係してるんですが、いくらすごいことを考えていても、実現するには材料を仕入れて、製造して、在庫をもって売らなければならない。そうなったときに、銀行とかベンチャーキャピタルが、経営者やイノベーターの視点で考えてくれればいいんですが、正直に「3年間くらいは赤字です。そのあと必ず確信を持って黒字になります」と言うと、「そんなゆっくりした投資はできないよ」と言ってお金をくれないんですよ。それは全然イノベーションにならない。そういうことは結構経験していて、真に自分ですごいと思っていることが実現できない悔しさというのはおカネ方面から来ることが多いですね。

「馬鹿」と言われながらも、法律を変えた

 どこまでも続くかと思われたふたりの議論にも終わりの時間が迫っていた。友澤氏は最後に会場からの質問を求めた。

質問者(男性、広告代理店勤務):実際にものを作るとき、一番最初はどういうふうに生まれてくるのでしょうか。

竹中:絵描きとか音楽家に近いものがあると思うのですが、プログラマには「手くせ」というのがある。好きな言語とか、アルゴリズムとか。それを暇なときにいじっていると、ひとつの機能のブロックができる。「これ何かに使えないかな」と考えると、自分が日々思っている問題意識が浮かんできて、「ここにはめれば役に立つんじゃない?」という感じでつくるとうまくいくことが多いんです。

 サービスとして実際に動いているWorking codeがあり、人との出会いがあってプロジェクトが始まるレベルから、すごく最適化された10行くらいの関数が役に立つということもある。プログラマの視点でいうと、いろんなことが起きているのが今の世の中なんだなと思っています。そういうところにリアリティを感じて僕は生きています。それがお金になったり、自分の生活を良くしたりというのが本当に起こっている。テレビ番組を全部録画できたら自由になるのにと思ったら録画機をつくればいいし、日本円むかつく!と思ったらモリタポつくればいいし。そういうことを何年か単位でやり続けています。

 広告業界でいえば、「F1層」と言われてる層がありますけど、あの層そのものの定義を変えるということはプログラマとして見るとすごく面白いこと。もし僕が電通みたいな会社に行ったらチャレンジすると思う。

質問者(女性、求人会社勤務):私は求人関係の事業会社にいるのですが、すでにあるサービスをちょっとずつ変えていくみたいな仕事がどうしても多いんです。イノベーションを起こそうと思っても、はしっこのことになってしまって、大がかりなことがまったく思いつかない、固定観念の塊みたいになっている。イノベーション的なことを考えるときにおすすめの方法とかあったらアドバイスがほしいです。

竹中:一番でっかいことを考えればいいんじゃないですか?

友澤:私がリクルートにいたときによく言われていたことなんですが、ものごとの中心には「Why」があって、「What」があって、そのまわりに「How」がある。でも「How」の話をすると、そこで思考が止まっちゃうんです。その手段をやるかやらないかの選択になるので。「それってそもそもやったほうがいいんだっけ?」とか「それってなんでやってるんだっけ」ということを、マーケティングやクライアントとの向き合いの中でやっていくと、意外と課題解決されていくのかなと思います。

竹中:僕がでっかいことを考えればと言ったのは、ひとことで言えば、労働基準法の意味を考えればいいんじゃないんですかね。どういう労働基準法、もしくは関連法律があるべきなのかというのを、法律をつくるつもりになって考えて、経営者とのコミュニケーションの中できちんと言っていく。そうすることで、微々たるものかもしれませんけど、世の中が少しずつ変えられるような気がします。そういうことを僕は昔、「馬鹿!」って言われながら考えて、著作権法が実際に変わりましたから。

友澤:そうなんですか!

竹中:はい。MAA(メディア・アーティスト協会、2000年に解散)というチームがあったんですが、JASRAC(日本音楽著作権協会)の独占を防ぐというか、ほかの参入を許すために岸さん(岸博幸氏)と僕で案をつくって圧力をかけて……。そういうことは別に大したことじゃなくて、筋道がわかっていればできるんですよ。

友澤:それをやりぬく、考え抜くということが大事なんですね。

竹中:そうです。自分のことだと思って考えることがすごく大事なんです。頭おかしいって言われますけどね(笑)。でも、できるんで、やってみてください。

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
FEATURE連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2013/10/23 19:28 https://markezine.jp/article/detail/18549

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング