顧客が言う通りの商品を作ることは、正解ではない
事実、「これだけ頑張っているのになぜ理解されない?」「これだけ安いのになぜ売れない?」と悩んでいるマーケターは多いだろう。「日本国内で清涼飲料水は、1年間で2,000種類以上が新発売されています。しかしこの12か月間で新発売された清涼飲料水を10種類言える人は、恐らくこの会場にはいないでしょう。これは、マーケターが頑張って価値を作っても、そのほとんどがスルーされてしまっているということです」と永井氏は指摘する。
しかし、だからといって、顧客が望む通りの商品を作ればいいかといえば、そうではない。例えば、今日販売されている日本メーカーのテレビリモコンは、「スキップする」「予約を確認する」といった、非常に多くの機能を備えている。それはメーカーが消費者の声を丹念に拾い、開発した結果出来上がった商品だが、消費者は果たしてこれを欲しいと思うのだろうか?

ここで永井氏は、世界のテレビメーカーが販売するリモコンの写真を並べる。「一見しただけで、韓国や米国に比べて、日本メーカーがいかに顧客の要望をそのまま取り入れてきたかがわかるでしょう。日本のメーカーは、どんどん機能を増やした結果、どのメーカーも似たようなリモコンになってしまいました。それは日本のテレビメーカーは、『ライバルは他のテレビメーカーだ』と思っているからです。
しかし、海外のリモコンは形が違います。例えば韓国のLGのリモコンの形状は、シンプルな流線型のデザインです。そして、LGのシェアは向上しています。なぜ、LGはこのようなデザインなのでしょうか?
この10年で、テレビの視聴時間が増えた人はあまりいないでしょう。むしろ減った方がほとんどではないでしょうか。かつてテレビを見ていた時間は、今日ではスマートフォンに置き換わっています。LGはスマートフォンをライバルと考え、スマートフォンよりも使い勝手の良いものを作ろうとしたのでは。合理的な消費者視点の考え方です」
顧客の言いなりになると、価格競争に陥る
顧客の言いなりになると、どの会社も似たようなものを作ることになる。その結果、差別化できず、価格競争に陥るのだ。価格競争が恐ろしいのは、3つの理由がある。まず一番安く作れるトップシェアの会社しか生き残れない。例えば、世界における日本のテレビメーカーの合計シェアは1999年以降ほとんど変わらず20%だが、韓国メーカーは7%から41%にシェアを急拡大し、いまや日本メーカーの2倍のシェアを持っている。つまり、1999年ならば日本メーカーは韓国メーカーと価格競争をして勝っていたが、今は負けるということだ。
二つ目の理由は、最安値目当ての顧客が集まってしまうこと。そして三つ目の理由は、定価で買う優良顧客が去ってしまうことだ。
「価格勝負は企業にとって麻薬のようなもの。一時的に体力は向上するものの、企業を蝕んでしまうのです。日本メーカーの多くは、顧客の言いなりになることで自ら低価格競争を招き、疲弊しています。私たちはもう一度、マーケティングの原点、つまり『顧客の価値を創出する』というマーケティングの不易の部分に立ち返らねばなりません」