人材育成のむずかしさ
河田 SEOはまだマイナーな職業。SEOを志す人はどう育てたらいいのか。
渡辺 SEOの人材を育てるのはものすごく大変。SEOというのは、ウェブサイト、ビジネス、マーケティング、プログラミングと密接にかかわっているので、単純に検索エンジンのことだけがわかればいいというものではない。クライアントに対応し、経験を積みながら少しずつ学んでいくしかない。そのときに必ず守るべき3つのルールがある。
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「守らなければいけない一線は絶対に超えない」
ホテルのメニュー偽装もそうだが、SEOでもやってはいけないことがある。 -
「アルゴリズムの裏をかくというアプローチはしない」
検索エンジンに対して情報を適切に提供することがゴールであって、アルゴリズムの弱いところを突くための努力はしない。 -
「順位を上げること自体を目的にしてはいけない」
「ユーザー体験」、何らかのキーワードで検索してサイトを訪れたときに、ユーザーの疑問が解決されることが前提。そのうえでビジネスとして成果をどう出すか。
この3つは徹底して教えている。そうすれば、どう育つにしても変なことはしないと思う。
河田 三澤さんが率いているチームでは?
三澤 我々はインハウスエージェンシーのような立ち位置で、60事業の自然検索経由の売上を創出するというサポートやコンサルテーションを行っている。公用語が英語ということもあり、中途採用がなかなかできないので、3年前から新卒を入れてチームで育てる方針に変えた。最初はレクチャーをして、OJTで業務を見せて独り立ちをしてもらう。あとは仮想クライアントを想定して最終的な成果としてプレゼンさせ、レビューをするというかたちだが、やはり苦労している。ウェブの経験がない場合、いきなりSEOは難しい。
河田 評価はどう行っている?
三澤 SEOチームの最終的なゴールは「我々がいなくなること」。各事業部が自分たちでSEOを活用してビジネスインパクトを出すこと。そのフレームワークとして3つある。
- 「コンサルテーション」 自然検索経由の売上創出
- 「仕組み化」 ツールの導入・サポートなど
- 「R&D」 ツールの開発
部下は、この3つをバランスよく目標設定して、それをクリアしたかで評価する。コンサルテーションなら、自分が担当することでどれだけビジネスインパクトを出せたか。その数値で評価されることが大きい。
将来に向けて
河田 SEOは今後何年かしたらなくなるのか?
辻 50年、100年レベルで考えてもなくならないと考えている。SEOの仕事は、他人がつくったデータベースに、自分がつくったデータを格納する技術と言える。検索することはなくなるかもしれないが、データベースから拾いやすくするような形でデータを格納するという手法は、今後さらに重要性が増すと考えている。
三澤 SEOが制作のプロセスに入って、SEOを主にする人がいなくなるというのは理想的だが、情報のインプットや、検索エンジンや検索ユーザーの動向を追いながら、そこを自社のビジネスにつなげていく仕事は残ると思う。
渡辺 Googleが入力したキーワードの同義語をちゃんと認識するようになったのは、2003年8月。先日(最新アルゴリズムの)ハミングバードが来たが、10年でこれだけしか進化していないのかというのが正直な感想。この先、5年10年でグーグルが完璧な検索エンジンになるかというと、そうは思わない。検索エンジンに対して適切に情報を伝達するというところは絶対になくならない。仕事の内容は変わるかもしれないが、「SEO」、検索の視点でマーケティングを考えるというのはなくならないと思う。

河田 最後に、10年後、自分は何をしていると思うか。
辻 10年後、死んでるという可能性が高い(場内爆笑)。大規模で複雑なサイトのSEOをしっかりやろうとすると、検索以外のこと、ソーシャル、アクセス解析など幅広くかかわることになる。生きていれば、いまと同じようなことをSEOとしてやっていると思う。
三澤 私も、SMXやSESを日本でやりたいと思っていて、個人的に60~70人規模のインハウスSEO担当者向けのミートアップをやっている。一般企業がSEOやSEMを自社の事業成長に活用しやすいように、ノウハウの共有の場をどんどんつくっていって皆さんのビジネスの成長にかかわっていきたい。
渡辺 10年後、SEOの領域がどこまでひろがっているかはわからないが、検索はまだ行われているだろう。デジタルマーケティングで検索の分析の視点が要求されるような仕事をしていると思う。やはり検索エンジンが好きなので。
最後は、渡辺氏が検索エンジンへの愛を語って幕を閉じた第1部「SEOセッション」。この人たちでなければ語れない貴重なエピソード、視点の確かさ。45分を短く感じる密度の濃いセッションだった。続いて行われた第2部の模様は後日お届けする。