アップル神話の終焉? 新たな一手「Beats」買収
最後に。もうひとつの流れとして見えたのは、アップルのiTunesストアが絶対的な存在でなくなったという事実。無論去年一年の業績だけで、iTunesストアの雲行きが怪しくなるとは言い切れません。しかし、2013年米国はiTunesストアが始まって以来初めてデジタルダウンロード売上がマイナスに落ち、音楽好きなリスナーの行動が変わってきていることを示しています。
アップルは昨年から、これまでダウンロード一辺倒だった音楽戦略の路線変更を試みています。まず無料の音楽ストリーミング「iTunes Radio」をiOS向けに開始しました。これはリスナーが好きなジャンルやアーティストなどを解析し自動で最適な曲をレコメンド再生してくれる、パーソナライズド・ラジオ機能を持ったサービスです。
アップルはiTunes RadioがiTunesでの購入を促進、さらには広告収入モデルの導入を図っています。しかし、さすがのアップルも短期間でターンアラウンドできるほどの戦力を現在は持ち合わせていません。

そこでカギとなるのが、昨日(5月28日)に発表された高級ヘッドフォン「Beats by Dr. Dre」を提供するBeats Electronicsの買収です。Beats by Dr. Dreは若者の間で絶大な人気を誇るブランドであり、Beatsはヘッドフォンブランドでありながら、別会社Beats Musicで定額制音楽配信サービスをすでに展開しています。この領域に軸を持たないアップルにとって、これも好都合になるかもしれません。
さらにBeatsを運営するのは、ドクター・ドレーとジミー・アイオヴィンという二人の音楽業界重鎮。そのビジネスセンスやネットワーク、クリエイティブで、ヘッドフォンブランドを大成功に導いた実績は、まさに業界きっての切れ者の成せるわざといえるでしょう。
アップルはBeatsブランドのヘッドフォンメーカ―と音楽サービス会社2社を30億ドルという同社最高の金額で買収しました。この買収はアップルにとって大きなチャレンジになりそうです。巨額の金額で外部企業を取り込んだことは、アップルが音楽ビジネスの戦略変換を社内で推進して、音楽のイノベーションを早急に手に入れたいという野望がうかがえます。
これまで無敵と思われてきたiTunesのビジネスモデルが崩れるかもしれない局面に立ったアップルが次に取る手段は一体何なのか? 彼らの動き次第では世界の音楽ビジネスに近い将来、大転換期が訪れるかもしれません。
編集部注:アップルが買収したのはBeats ElectronicsとBeats Musicの2社であることを補足しました(2014年5月29日)