「意思」を伝えることが大切
では「最愛」ブランドになるには、どうすればいいか。これまでは、競合する商品やサービスに比べて優れている点をメッセージの中心に据える広告が多く見られました。ですが、これからは、ブランドの意思を伝えていくことが重要だと考えています。
例えば、昨年当社の「ごはんにかける ふかひれスープ」の販売中止を求める運動が起こりました。材料に使われているヨシキリザメが準絶滅危惧種であり、フカヒレ目的に殺してはならない、というのが言い分でした。有楽町の店舗前では、抗議活動も起こりました。
これに対し、私どもはプレスリリースを通じて「商品販売を継続する」と発信しました。気仙沼港で水揚げされるヨシキリザメは、主にマグロ延縄漁の混獲魚として水揚げされたもので、ふかひれ以外の部位も余すことなく工業製品に使われています。決してふかひれ目的で捕獲したものではないことを主張したところ、SNS上に無印良品への賛同や支援の声が溢れ、その意見の86%がポジティブなものでした。また、結果的に翌週の売上が4倍に伸びました。池上彰氏は「買物は投票行為」と表現していますが、まさにその通りだと実感しました。
認知から体験へ、フローからストックへ
他にも大切なことはあります。ひとつは、認知を目的とした広告だけでなく、体験を提供することです。スポーツ用品メーカーのナイキは、ランニングした距離、スピード、コースなどをオンライン上で共有する仕組みを作りました。一人でもくもくと走るのではなく、体験を通じて走る楽しさを広げていこうと考えています。
Amazonも同様です。夜注文した商品がには翌日には届いた、という話をよく耳にします。でもAmazonは決してそれを宣伝しません。広告費をかけてサービス認知させるよりも、物流に投資して品質を上げる、という考えなのでしょう。でもそれが「素早く商品が届いた」という良い体験につながり、伝播していくのだと思います。
フローではなくストック、という考えも重要です。これは、スターバックスの「マイスターバックスアイディア」というサイトに見ることができます。「こんなフレーバーを作って」「こんなサービスが欲しい」というアイディアをお客様が投稿し、スターバックスとの会話を通じて商品やサービス開発につなげる、というサイトです。Wifiサービスもこのサイトから生まれたと聞いています。広告は掲載期間が終わるとファンとのつながりがなくなりますが、コミュニティなどを構築することでファンと継続的に会話ができます。その会話を資産としてストックしていくことが重要です。
O2Oの施策といえば、以前はネットのお客さんをクーポンなど実店舗に誘導する手法を指していましたが、いまはネットとリアルを連携させてお客様の満足を上げていく、という方向に変わりつつあると思います。当社は昨年、「MUJI Passport」というサービスを導入しました。ウェブサイトで商品をお気に入り登録する・店舗に来店してチェックインする・購入する・コミュニティに投稿する、といった一連の行動が「マイル」という独自単位で溜まっていきます。これによってお客さまの理解をさらに深めると同時に、購買前から購買後までのマーケティングコミュニケーション全般を統合管理できるようになりました。このような取り組みを通じ、新しい無印良品体験を作っていきたいと思います。
