企業によってオムニチャネルの定義は異なる
パルコの事例から浮かび上がってきた「WEB接客」というキーワード。これを受けて、「オムニチャネル化で接客が変わってきている」とモデレータの西村氏は指摘する。では続いて、東急ハンズの取り組みについて追っていこう。

パネリストとして登壇した長谷川秀樹氏は2008年に東急ハンズに入社。2013年5月には、同社の情報システム部門をスピンオフして設立したハンズラボの代表に就任。そして2014年4月から執行役員 オムニチャネル推進部長に。また東急不動産ホールディングズのマーケティングIT戦略部長も兼任している。いわば「情報システム部長」「通販事業部長」「SI事業者代表」「マーケティング戦略部長」の4つの顔を持っている。
一般的にオムニチャネル化の定義は、店頭やネットを問わず、あらゆる場所で顧客と接点を持ち、購買の機会や体験を提供することだが、ここで長谷川氏はセブン&アイとカメラのキタムラの2つの事例を提示する。
●セブン&アイ
セブンネット購買商品をイトーヨーカドー・セブン-イレブンの店頭での受け取りが可能に(送料無料)
●カメラのキタムラ
店頭での接客に徹底。高額な商品は店頭在庫ではなく、ネット専用倉庫から取り寄せ、顧客に販売する。売上の約40%をこのパターンで販売。
「セブン&アイの事例は、グループシナジーを強化している取り組みです。一方でカメラのキタムラの事例は、同じオムニチャネルの施策とはいっても、セブン&アイの施策とは方向性が異なります。つまり、小売業とは言っても、企業によってオムニチャネルの定義は異なってくるのでは」と長谷川氏は指摘する。
東急ハンズのオムニチャネル戦略における3つのポイント
では、東急ハンズにとってのオムニチャネルの定義とは何なのだろうか。かつて店舗営業のみをしていた時代を振り返って、「当時は店舗とECは対立し、相反するものとして認識されていました。店舗としては、ECに店舗の売上を取られてしまう、という危惧を持っている時代でした」と長谷川氏は語る。それがスマートフォンの登場により、生活者は店舗に行かなくても、移動中やすき間時間に買い物をすることが可能になった。そのような環境の変化を受けて、東急ハンズではオムニチャネル時代の購買行動を考える上で「お取り置き」「承り」「一目ぼれ」の3点に重きを置き、施策を仕掛けているという。
お取り置き
東急ハンズのネットストアに、ある日特に告知をせずに「店舗で受け取る」ボタンを設置した。すると予想以上の利用があり、約2割の顧客が店舗での取り置きを利用した。また店舗での受け取りの際に「ついで買い」が起こり、店舗では平均で取り置き額の1.2倍の購買があるという。

「店舗で受け取るボタンを設置するまでは、お客様は商品を家まで届けてもらったほうが楽という仮説を持っていたのですが、案外お客様は店舗に足を運ぶのは苦にしていないことがわかりました」(長谷川氏)
承り
在庫の有無を店舗ごとに把握できる店内商品カタログを設置。一部店舗での実施だが、欲しい商品がなかった場合は、顧客は再来店して受け取るか自宅配送かを選択することができる。店舗決済か代引きかも選べ、商品の受け取りのタイミングを顧客は選択することができる。
一目惚れ
先日11月26日に、同社は「東急ハンズアプリ」をリリースした。同アプリには「一目惚れ」スキャン機能が搭載されている。(関連ニュースはこちら)

「店舗に来て、いいなと思った商品があっても、その場では購入に至らないこともあります。その場で購入が決められない時に、アプリで商品の写真をとっておく。後になって、やっぱりあの商品が欲しいなと思った時に、欲しいものリストの中から購入し、自宅配送や店舗受け取りができます。
店舗を起点とする企業は、これまでは店内でしか購買のタイミングがありませんでした。つまり、店外では購買のタイミングがなかったということです。でもこれからは、購買のタイミングはお客様が店舗を出た後もずっと続いていきます。ここをチャンスに変えていきたい」(長谷川氏)