コンセプトで悩むより、制作を通して刺激を受けてほしい

――1期を振り返っての感想を教えてください
中村氏:1期生は素晴らしかったと思います。ですが、運営の面では全く思い通りにいかなったと反省しています。BAPAという学校のコンセプトが「全部新しいことをやろう」というものです。世の中には多くの広告業界やクリエイティブ系の学校がありますが、それらとは完全に一線を画するものを目指しています。そのため、カリキュラムも卒業制作も他にないものを意識しました。色々なことに取り組んだ結果、成功する物もあったし失敗することもあった。
失敗の代表的なものは、みんな最後の最後まで卒業制作のアイディアが決められなかったことですね。BAPAの開校期間は3か月ですが、この間のカリキュラムは、実際の現場のワークフローに沿うように組んでいました。つまり、企画を決めて、具体的な演出に入って、設計図を書いて、デザインをして、コーディングをして、音楽や映像を詰めていく、という流れです。卒業制作の流れも同様なので、取り組みに並行して必要なことが学べることを見込みました。
こちらの狙いとしては、講義全体の最初の約30%でアイディアが大筋決まって、次のステップに進んでいるようにしたかった。しかし、アイディアが決まらない。カリキュラムだけが次に進んでしまう状況でした。
――アイディアが決まらないというのは?
馬場:前回は「ファンタスティック渋谷」というテーマでした。海外の人に渋谷をアピールしてください、というものがお題です。このお題に対する解答として「これを僕らは作ります」と方針を立てて、制作に入る必要があります。その方針が決められなかった。
限られた時間で「これを作るしかない」と腹を決める必要があります。しかし、そのための自信を得られない。特に、チームでの制作なので決定がより難しくなる。先ほど言ったように、プロジェクト全体に自分がコミットしないと譲り合いのようになったり、迷ったりします。色々な意見があって、良くわからないという風になってしまった場面も多かったと感じています。
中村氏:正解がないものなので、方針やコンセプトを決めることはとても難しいことです。広告代理店でも部長職がクリエイティブディレクターとして、才能あるクリエイターのアイディアからこれだ、とういものを選び方向性を決めています。
BAPAではコンセプトで悩みすぎるより、パッと作ってパッと世の中に出すというような気持ちで、制作を進めてほしいと考えています。そして、周りの人から意見を聞いて刺激を受けて、より良いものを作ってもらいたい。デジタルの長所は考えたことを、すぐにチームや自分で形にできることです。そのような時にこそ、チームワークも発揮されますからね。
これを実現させるために、メンターが全員の話を聞いて道筋を作ってあげるよう、2期では1期以上に意識してファシリテーションをしています。もちろん、皆さんベスト・オブ・ベストのコンセプトを考えようとしてくれるので、2期でもそれなりの煩悶はあるでしょう。しかし、1期からのひとつの改善ポイントかと思います。
「僕らの時代は終った」学生が提案するユニークなコンテンツ
――講義ではどのようなことをしているのですか?
中村氏:講義の形態も昨年とは大きく変わりました。1期では3時間の講義のうちほぼ座学だったものを、1時間座学、2時間ワークショップという構成にして、ワークショップ中心の講義を展開しています。最近では「Sound of Honda/Ayrton Senna 1989」等を手掛ける電通の菅野薫さんを講師として招きました。ライブインスタレーションをテーマに、座学では作品の舞台裏などを話してもらいましたが、皆さん固唾を飲んで聞き入っていましたね。
ワークショップでは菅野さんが事前に提出した課題に対して、生徒さんが用意した答えをプレゼンしてもらいました。課題は「アーティストの10周年記念のコンテンツ」を考えるというもの。どのプレゼンも面白かったですね。僕らの時代は終った、と鑑平さんと話をするくらい素晴らしいものばかりでした。

――印象に残っている作品はありますか?
馬場氏:10周年記念に空に星を降らせよう、という企画を考えたチームがいました。それだけ聞くと、面白いねで終わってしまいます。しかし、彼らは実際に星を降らせるための手段や、予算までリサーチしてあった。この会社と組めば現実的な予算で実現することができますよ、とフィージビリティを検証して示してくれたんです。
中村氏:流れ星を人工的に作り出せる技術を持つ企業を見つけ出して、企画にうまく組み込まれていたことが評価された点ですね。短期間でよくここまで詰めた! という。
他にも、現役の学生さんが出した企画が面白かったですね。CDアルバムとライブが連動した企画なのですが、先にCDアルバムを発売します。けれど、このアルバムには四打ちのリズムしか入っていないような、ほぼ無音のトラックが複数存在する。これは何かというと、そのトラックに10周年記念ライブの楽曲を合わせると、初めて1つの曲になる。初めてアルバムが完成するという仕掛けです。
音楽をデジタルデータとして入手できる今、CDは前時代的なものになりつつあります。しかし、一方で音楽業界では現在でもCDの売上は大きな指標となっている。そのために、1人のファンに同じCDを大量に買わせるという方法が出現している。そうではない、もっと別にCDを買う意味を作り出したい、という意図がこの企画にはあります。つまり、今までにないインサイトを創出して、10周年記念という企画と融合させている。
本来はこのようなインサイトや買ってもらう意味は、所謂マーケターが考えることだったかと思います。この企画では、人の動きからライブの音源とCDの関係性、コンテンツがどういった役割を果たすかまでが地続きになっている。すごい発想だと思います。
