変わらないブランドのコア、変わる伝え方
友澤:今回は、昨今コンテンツマーケティングに注力しているIBMから、日本市場のブランディングを統括する山口さんをお招きしました。BtoB事業の成功事例サイト「made with IBM」や、アニメ『シュタインズ・ゲート』とコラボしたオリジナル作品(『シュタインズ・ゲート 聡明叡智のコグニティブ・コンピューティング Sponsored by IBM』)が話題になり、直近ではヤフーの新サービス「Yahoo!コンテンツディスカバリー」も活用いただきました。
山口さんはヤフーに在籍されていたこともあるので、昔からいろいろとお話させてもらっていますが、ぜひ現時点の考えをうかがえればと。
山口:こうやって対談するのは新鮮ですね(笑)。よろしくお願いします。
友澤:早速ですが、IBMは世界的な大企業で、かつハードからソフト、さらにサービス提供へと業態を時代によって変えています。そういう企業におけるコンテンツマーケティングを、どう捉えられていますか?
山口:業態が変わっても、ブランドのコアとなる部分は変わっていません。マーケターの仕事は、そのコアを踏まえて「人々に響くブランドストーリーをつくる」ことです。「ブランドストーリー」をいかにうまくつくるか、というのは、つまりコンテンツマーケティングですよね。なので、コンテンツマーケティングはマーケティングの中核だと思っています。
どんなストーリーが響くのかは、時代に応じて変わるので、そこを創り出すのもマーケターの腕ですが、そもそも会社の戦略そのものや製品・サービスの現状と方向性をよく理解しないといけない。難しいですが、それを意識して取り組んでいるところです。
ブランドストーリー発信の強化を目指し組織改革
友澤:ブランドストーリーをつくってコミュニケーションを図るというのは、確かにコンテンツマーケティングそのものですね。
山口:ええ。今、メディアがすごく増えてメッセージが伝わりにくくなっているので、コンテンツマーケティングの概念がとても重要になってきています。当社も昨年、ブランドストーリーをもっと一貫して社内外に伝えていくために、組織を大きく変えました。広告宣伝と広報、デジタルマーケティング、CSRを一緒にしたんです。
友澤:IBMは広報誌の歴史も長いんですよね。早くからコンテンツ活用に注力していた印象があります。
山口:そうですね、1969年に創刊した広報誌「無限大」は、今はデジタル版「mugendai」として運営しています。でもこれも、冒頭で挙げていただいた「made with IBM」やオリジナルアニメも、表現が違うだけで、伝えたいコアの部分は同じ。コーポレート・ビジョンに掲げる「Smarter Planet」、テクノロジーで世の中をよりよくしていこうというコンセプトです。
友澤:なるほど。冒頭でご紹介したアニメ作品は「mugendai」に掲載されていましたが、ユーザーが“見たい”ものになっているのがコミュニケーションとして優れているなと思いました。よく「企業側が見せたいものとユーザーに見られるものは違う」と言いますよね。
山口:まさに、そう思います。ブランド側が「これが響くだろう」と考えるコンテンツと、実際に響くものが違う場合はありますね。
最終的にチャレンジを実現するのは、責任者の情熱
山口:ブランド側は、自分たちのトーンで言いたいことを言うほうがラクなので、そうなりがちですよね。でも、普段と異なるターゲットを対象とするなら、ブランド側が形を変えないといけない。
アニメとコラボしたのは、若い世代のターゲット層を捉えて、新しい市場を開拓するためです。ブランドのコアは変わりませんが、対象によって伝え方が変わるのは当たり前。それをどれだけ柔軟に、今のホットなコンテンツと連携して実現できるかが、すごく重要です。
友澤:ちなみに、ゴールやKPI設定はどうされているんですか?
山口:コンテンツマーケティングのゴールは、ブランドリフトです。大きくは年2回、グローバルで細かく意識調査をして、定点観測しています。プロジェクト単体ではリーチは見ていますが、視点としては中長期的に見るのが大事だと考えています。
それに、細かい数値は次のチャレンジへの説得材料になるわけでもないんですよね。アニメの件でも、米国だとアニメは子どものカルチャーと思われているので、「日本では大人にも響く」と説得しても理解されにくくて。そこは最後は責任者の情熱で、絶対に価値がある、と突き進むしかない。結果的に、今までと違う層からのブランド認知を得ることができました。
「まさにこの人たち!」を捉えているメディアと組みたい
友澤:これまではテレビCMのように、コンテンツと“広く告げる”場がひもづいていましたが、今はメディアが膨大にあって、コンテンツとメディアは独立しています。その状況下での全体のメディアプランニングは、どうお考えですか?
山口:「われわれが理解したいユーザー」をいちばん知っているのはどのメディアか、を常に意識しています。
ブランド側は相手によって形を変えないと、という話をしましたが、ベースには万人に好かれる優等生のような形がありながらも、ちょっととがった人へのアプローチが事業戦略として重要なら、そういう人たちがいるフィールドにやはり優先投資をすべきと思っています。
当社には事業規模も業務も異なるさまざまな顧客がいるので、「まさにこの人たち!」というユーザーをつかまえているメディアと組んで、響くコンテンツを一緒に考えたい。「彼らはこうだから、IBMはこうすべき」という提案がほしいんです。
友澤:前回、キリンの上代さんとも「何をアウトソースするか」という話をしたんですが、今のお話ですと、WHAT・何を伝えるか、はメディアと一緒にということですね。
山口:そうですね。WHY・なぜ伝えるのかというコアの部分をつくるのは、やはりブランド側じゃないと無理だと思います。ただ、当社はグローバルで1社のエージェンシーと長く組んでいて関係が深いので、議論しながら一緒に進めています。
一方でHOW・どうやって伝えるかは、これだけテクノロジーが発達すると、専門家に任せるのが正しいモデルかと。でも、WHYとWHATを握れていないと、HOWが曲がって手前の2つが伝わらないので、しっかり外部と握るのはブランド側の責任です。
「Yahoo!コンテンツディスカバリー」で自社コンテンツを拡散
友澤:HOWの部分だと、ヤフーでも従来の広告“枠”とは異なる、広告主のコンテンツをユーザーごとに最適化してレコメンドする「Yahoo!コンテンツディスカバリー」を先日リリースしました。御社にも早速使っていただきましたが、いかがでしたか?
山口:活用した意図は、最初にお話しした広報サイト「mugendai」のコンテンツを新規ユーザーへ広げることでした。世の中をより良く変えていこうとしている方々の取材記事やIBMでの事例などは、自然と複数のメディアにピックアップされているんですが、これを加速させたいと。
すると、ここでも「響くだろう」と思ったものと実際に響いたものが違っていました。ユーザーも、広告に接触する意識ではなく「コンテンツや情報を消費したい」というスタンスなので、ユーザーが消費しやすいやり方で、ほしい内容を伝えるという方向へ、やはり変えていかないといけないと思っています。
友澤:ヤフーで行動ターゲティングを考えるときも、マーケターが設定したターゲットと、実際に見てもらえる人がちょっと違っていたりすることがあります。
でもそこで一喜一憂せずに、得られた反応のデータを次に活かしていけばいい。コンテンツでも、どの記事がどんなユーザーに見られたかを次のPDCAに活かすことが必要になると思います。これはデジタルだからできることかなと。
山口:やっていかなきゃいけないですよね。デジタルだから得られる反応が、相手によってブランドがどう形を変えるべきかの判断材料になると思います。
時代に合ったコンテンツをつくり、そこに責任を持つ
山口:ただ、運用にばかり振れても不十分で、会社としてなぜこのコミュニケーションが必要なのかは絶対に押さえておくべき。両方の視点のバランスが必要です。
手段が分散するほど「何がコアか」を考えなければいけなくなる。でもそれって、マーケティングの正しい姿なんですよね。宣伝、広報、デジタル含めて連動できて初めて、データを有効活用できるし、最適なコンテンツをつくれます。この大きな流れは、最終的にマーケティングの改革につながるんです。
友澤:やっぱり今回も組織の話になりましたね。そういう広がりを感じているデジタル領域の人も多いので、その点ではおもしろくなっている。
山口:そう、経験の幅を広げるチャンスですよ。領域を超えて、時代やターゲットに合ったコンテンツをつくり、そこに責任を持つ。
友澤:同感です。では最後に、ヤフーへの期待を聞かせてください。
山口:ブランド側はユーザーとエンゲージメントを築きたいので、ヤフーのトラフィックだけでなく、私たちのターゲットであるユーザーとのエンゲージメントはどうなのかを知りたいです。そして、ブランド側に「こんなやり方じゃ響かない」とどんどん言ってほしい。ヤフーだけでなくメディア全般への期待ですが、メッセージやコンテンツの話も含めてそういうやり取りができれば、すばらしいと思います。
もうひとつ、テクノロジーやデジタルの進化によりユーザーのニーズを把握する手法もどんどん発展しているので、それをいち早く取り入れてチャレンジしてほしい。進化をドライブしてほしいですね。