今年のキーワードは「ミレニアル世代」「Content is king 」
最後に、今年のNewFrontsで板井氏がピックアップした注目のキーワードを2つ紹介しよう。
テレビを見ない「ミレニアル世代」
「Millennial Generation」は1980年代から1990年代に生まれた世代で、生まれたときからインターネットやパソコンなどが身近にある「デジタルネイティブ」を指す。この世代(M/F0・1)は、その10%がテレビコンテンツというものに接触していないという調査結果もある。さらにそのうちの90%はHulu、NetflixなどのOTT(※)経由でも接触していない、つまり全体の9%はまったくテレビコンテンツに接触していないことになる。
彼らは何を見ているのかというと、友だちどうしの他愛のないやりとりや短い動画、ソーシャルメディアでスターが直接ファンに発信するメッセージなど。メディアが大きな予算を投じてつくったコンテンツとは違う、断片的なコンテンツに魅力を感じて時間を費やしている。いかなる手段でもテレビコンテンツに接触することのないミレニアル世代にリーチするため各社が活用しているのが、以下のようなティーンに人気のネットサービスである。

中でも注目されているのが「Snapchat」だ。写真やビデオをスナップして友だちに送ると、受け手が見て楽しんだ後は画面から消えるという特徴がある。今年1月に発表された「Snapchat discover」はメディアのポータルとして機能するもので、各メディアがスクリーンサイズいっぱいにレイアウトされた写真、動画、文章などを配信。ユーザーはスワイプやスクロールによって、コンテンツを瞬時に切り替えることができる。そこには新聞、テレビ、ウェブといった媒体社の出自やジャンルを超えて、モバイルに最適化された新たなコンテンツの姿を見ることができる。
※OTTは「Over The Top」の略で、コンテンツやサービスを利用者に提供するインフラストラクチャーを指す。代表的なサービスとしては、iTunesや Netflix、Huluなどがある。
参考資料(PDF):「北米におけるデジタル配信プラットフォーム調査」日本貿易振興機構(ジェトロ)
「Content is king」
もう1つのキーワードは「Content is king(コンテンツが王である)」というもの。やはり良質なコンテンツには良質なオーディエンスが集まり、ブランド・アウェアネス、エンゲージメントが高い。

日本で主要なコンテンツホルダーの1つは放送局だが、米国においては番組制作の中心はハリウッドにあり、放送局の間で優れたコンテンツを手に入れるための競争がある。視聴者も、テレビの上に置かれたセットトップボックス経由でネットと各種テレビ放送(ケーブル、衛星、地上波)につながっているため、デジタルも従来のテレビも同列に見られる土壌がある。また、米国では放送局が自社コンテンツおよびシンジケーション先を含めたプランニングを自ら行っており、テレビ、スマートフォン、パソコンなど、どのデバイスで見ても「1視聴」は同じ価値であるという前提が生まれている。
たとえばABCが2012年のUpfrontsで発表した「ABC Unified」構想を見てみよう。これは、テレビの予算とデジタルの予算を「ビデオ予算」に統合したうえで、ABCの番組が配信される複数のデバイスに振り分けるというもので、これによって「One Deal, One CPM, One Guarantee」を実現する。それを支えるのはオーディエンス・アグリゲ―ション、最高水準の測定、クロスプラットフォームのバイイングプロセスだ。こうしたコンセプトを実現することによって、ABCは若年層へのアプローチとスケールを実現しようとしている。

日本でも予約型のプレミアム動画広告市場の確立が急務
今回のNewFrontsを振り返り、多くの刺激を受けたという板井氏。日米の動画広告市場の違いを踏まえたうえで、これからの取り組みについて語った。
現在、日本の放送局が提供しているキャッチアップと呼ばれる「見逃し配信」は最も高いCPMで取引されているが、高価格帯と低価格帯の中間を担うマーケットを充実させる必要があると板井氏は考えている。たとえば、NewFrontsに参加していた媒体社の中には日本進出を予定しているものもあるが、そうした動きが動画広告商品のラインナップを拡充し、プレミアム動画広告市場を形成するうえで、良い方向に働く可能性もある。
Googleにおいても、昨年Newfrontsでリリースした「Google preferred」は相当な売上をもたらしたようだ。テレビにおけるゴールデンタイムのCM枠に相当するプレミアムな動画広告枠を用意して、それを予約型で販売する「Google preffered」はこれからも広告主の注目を集めそうだ。
板井氏は日米の状況には環境の違いがあるが、米国と同様に予約型で販売されるプレミアム動画広告枠を増やしていくことで、国内の動画広告市場を形成していくことが急務だとしており、これからさらなる媒体社との連携を図っていくと語った。
写真提供:NewFrontsの会場写真はすべてサイバー・コミュニケーションズ 板井氏