膨大で良質な動画コンテンツとシンジケーションを競い合う
NewFronts初日の朝、IABとMediaLinkが主催し、Videologyがスポンサーの朝食会が開催された。登場したのは、戦略コンサルティングファームであるMediaLink創業者で業界のキーパーソンでもあるMichael Kassan氏と、米エンターテインメント業界で活躍する大物弁護士Ken Ziffren氏。Kassan氏はシリコンバレー、マディソン・アベニュー、ハリウッドとの強固なコネクションをもち、多くのビッグディールを仲介した実績をもつ人物。

右が朝食会のスポンサーであるVideology代表のScott Ferber氏
対談では、昨年に比べてプレミアム動画コンテンツのニーズは高まり、Huluやヤフーにとどまらず、Refinery29など新興の動画プラットフォーマーに至るまで、プレミアムコンテンツを提供しているという現状認識が示され、「これから始まる2週間はエキサイティングなものになるだろう」とコメントとともにイベントが本格的にスタートした。
BuzzFeed
今年2回目の参加であり、日本への上陸を宣言している大手バイラルメディアのBuzzFeed。思わずシェアしたくなる話題を提供し、10代・20代にとって大きな影響力を持つニュースソースとなっているが、近年では調査報道の体制を整え、オバマ大統領へのインタビューを実現するなど、メディアとしての存在感を増している。
同社は毎月10億以上のビデオビューを獲得しており、BuzzFeedビデオの視聴時間全体の約60%にあたる約24万時間は、複数のプラットフォーム上で消費されていると説明。現在20以上のプラットフォームにBuzzFeedビデオをシンジケートしており、YouTubeとFacebookが最大のシンジケーション先で、その2つからさらに拡散しているという。

また、ビデオビューの40%以上は米国外で発生しており、コンテンツは国境を越えて伝わるため、言語に依存しないという特性があり、それこそが動画コンテンツの強みであることを強調した。
Bloomberg
初参加のBloombergは創業者である元ニューヨーク市長マイク・ブルームバーグ氏みずからピッチイベントに登壇し、広告主のメディアバイヤーにアピールした。Bloombergはあらゆるメディアを横断するパブリッシャーであることを強調し、4つの新しいコンテンツ「The Morning Brief」「Handmade」「The Market Close」「The Spark」を発表。
動画プラットフォームは「Responsive.TV」に一新し、視聴者はshort、medium、long、full lengthと、自由に視聴コンテンツの長さを選択することができる。交流アプリ「Tinder」のようなスワイプ機能を実装し、ユーザーがニュースを「好き/嫌い」で選択できる機能も提供する。また、ブランド広告主向けにコンテンツ開発サービス「Bloomberg Media Studios」を提供し、最適な広告クリエイティブを自社制作するためのワークショップの開催も告知された。

Mode Media
女性向けにファッションやライフスタイル情報を発信しているMode Media(旧Glam Media)は、新たな動画ストリーミングサービス「Mode Video」を立ち上げた。外部のコンテンツオーナーの動画を提供するだけでなく、オリジナル動画コンテンツを生み出すインハウスの制作スタジオをロサンゼルスに設立している。
「Mode Video」は、ネイティブなインフィード型の動画サービスとして動画コンテンツを直接消費者へ届けるしくみを構築。Webサイト「Mode.com」とモバイルアプリ「Mode Stories」では、膨大なコンテンツをユーザーに届けるために、1万ものキュレーション担当者が記事をピックアップ。ユーザー側も、自分が選んだ専門家をフォローしたり、関心のあるチャネルを選ぶことができる。また、人気YouTuberをちりばめることでコンテンツ拡散の促進にも注力している。

Conde Nast Entertainment
VogueやGQのような雑誌ブランドを多数抱えるパブリッシャーConde Nastのグループ会社で、独自の動画コンテンツの制作や配信を手掛けるConde Nast Entertainment(CNE)は「The Scene」という動画キュレーションメディアを運営している。独自の切り口でBuzzFeedやABCなどからの動画も配信しており、その編集力を武器にYouTubeよりも高い価格で広告が取引されているという。

ローンチ以降、ComScoreの「Lifestyle Platform」カテゴリのランキングでトップ5を維持しており、Conde Nastならではの「プレミアム感」をアピールした。
AOL
AOLの会場は4ワールドトレードセンターの51階に設けられた。登壇したのは、スポーツ選手やセレブ、ハリウッドスター、ハフィントンポストの創設者であるアリアナ・ハフィントン氏など顔ぶれはひときわ華やか。さらにそのコンテンツ供給力、バラエティの豊富さは群を抜いており、板井氏も「NewFrontsを象徴するプレゼンだった」と振り返る。
世界を驚かせたベライゾンによるAOL買収のニュースはNewFrontsが閉幕した翌週に伝えられ、会期中は明かされることはなかったが、その予兆ともいえるモバイルへのフォーカスについても発表された。今回AOLが発したメッセージの1つに「人々はテレビ番組表に沿って生活しているわけではない」がある。朝は携帯、午後はタブレット、夜は帰宅してからスマートテレビで動画を視聴したいオーディエンスのための番組を作っていくと述べ、従来のテレビの番組シリーズからモバイルに適用したクリップへのシフトを提唱した。

2015年はトータルで3600以上のビデオエピソードを作る予定で、これは昨年の45倍にあたる。「Beyond the Horizon With Jared Leto」というインタビュー・シリーズや、火星への宇宙飛行士を選抜するプロジェクト「Citizen Mars」などのようなハイエンドな番組も含まれる予定だ。プレゼンにあたっては、J・J・エイブラムス、エイミー・ポーラーとジェームズ・フランコなど、プロデューサーや脚本家、映画監督としても活躍する面々が登壇し、コンテンツ力をアピールした。
Hulu
映画やテレビ番組を配信するHuluは、無料サービスと有料の会員サービス「Hulu Plus」の2つを提供していたが、今回「Hulu」に一本化すると発表した(現在は無料のトライアル期間を経て有料サービスを利用するかたちになる)。
ミレニアル世代に対応するため、広告表示のロード時間を短縮し、スキップされにくいサービスを実現。プログラムによる広告商品は、広告表示のロード時間が短い、アンスッキパブル、インサイトにひもづいた的確なターゲティング、完全視聴を計測できるといった特徴があり、「テレビより効果的」と語る。また、ユーザーのインサイトにひもづいた的確なターゲティングによって完全視聴の割合を高めており、ビューアビリティーも80%と高くなっている。

YouTube
YouTubeはNewFrontsの期間中に「BrandCast」というイベントを開催しており、昨年はそこで「Google preferred」を発表した。YouTubeの各カテゴリで人気の上位5%のコンテンツをさまざまな指標で評価して集約し、予約型で販売するプレミアム動画広告商品の登場は大きな注目を集めた。
今年で3回目となるBrandCastの会場は、マディソン・スクエア・ガーデン。広告販売戦略に関しては、昨年に引き続き「Google preferred」が中心となった(※)。YouTubeの強みは、視聴者数の多さと動画コンテンツの内容がバズを起こしやすい点。プレゼンテーションでは、18~49歳に最も見られている動画プラットフォームであることをアピールした。
ステージ上には、人気YouTuberが歓声を浴びながら次々と登場し、一流タレントのように自身の動画に関するプレゼンテーションを行った。最後は、昨年のスーパーボウルのハーフタイムショーに出演した人気アーティストであるブルーノ・マーズが登場し、ド派手なステージを披露した。
※Google preferredのブランドリフト効果については、こちらの資料でも確認できる。
Measuring the Impact of Online Video on Brand Metrics
TIME
世界で最も古く権威のあるニュース雑誌「TIME」を発行しているTIME社は、ビデオコンテンツ広告商品として「AUDIENCE」、タイトル/シリーズ指定の「SPONSORED」、コンテンツカスタマイズの「BRANDED」を展開している。今回は独自の編集・制作力を生かした各種動画コンテンツの新シリーズの紹介がメイン。ジャンルもニュース、スポーツ、ドキュメンタリー、エンターテインメント、料理、ファッションなど多岐に渡っている。

駆け足で見てきたが、各社それぞれの強みを活かした動画コンテンツ制作、動画をいかに視聴者へ届けるかに注力している点を理解していただけたかと思う。