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セルフ型ネットリサーチ活用講座

アンケートの前に必要な「仮説構築」ってどうやってやるの?

仮説構築に必要なものとは?

 しかし「仮説を作れ!」といきなり言われて、すぐにできれば苦労しませんよね。仮説構築にはそれなりに「コツ」がいります。実は仮説を構築するためには一定の材料(情報)が必要で、それがないと仮説はできません。たとえば、「外国人観光客は日本のホテルのベッドに不満があるのでは?」という仮説では、こんな情報が材料となります。

・実際に、ベッドが小さいとクレームがあった
・クチコミサイトにベッドの不満が書いてあった
・比較的ベッドが小さいと言われているビジネスホテルの利用が急増している

 こうした出来事や情報があってはじめて「ではどのような人、どれだけの人が不満に感じているのか?」と知りたくなるのではないでしょうか。このとき、課題を認識して、仮説構築のスタートラインに立ったことになります。

 先ほど挙げた情報はすべて「実態(ファクト)」と言われるものです。ファクトは、環境を整えておきさえすれば、単純に調べることができます。例をあげると、売上やお客様の人数、利用履歴などのさまざまな実績データ。コールセンターの記録や過去トラブルのデータベースなどから得られる、お褒めの言葉、意見、クレームなどのVOC(Voice of Customer)情報。行政や公共団体などが公表しているオープンデータ。また、現場観察の結果や、過去に行ったアンケートなどの調査結果、従業員など周りの人の意見……などです。昨今注目されているビッグデータも、カードの利用情報やWeb上の行動履歴などの膨大なデータを収集・分析して行動特性を把握することから、ビッグデータで扱う情報の大部分はファクトであると言えます。

 できうる限りの情報収集を行ったら、情報を整理して俯瞰します。これによって物事の関連や本質などが見えてきます。さらにそれをチームで行なうことで”気づき”の連鎖が起こり、見える化される切り口が相乗的に増えていきます。このような一連の動きの中で浮かび上がってくる「謎」が、実は現状の情報において本当にわからないことなのです。

 ここまで現状の理解が進むと、自分たちがわかっていることと、わからないことがある程度はっきりしてきます。をれを「4P(Product、Price、Place、Promotion)」「3C(Customer、Company、Competitor)」「SWOT(Strength、Weakness、Opportunity、Threat)」などさまざまなフレームワークを活用して整理整頓し「見える化」することにより初めて次のステップである「仮説構築」に進むことができるのです。

ファクトをもとに分析することで、聞くべきことが見えてくる

 仮説構築は、この整理整頓した「現状」の情報をもとに「なぜこうなっているのか?」「どのようにしてこのような状態になったのか?」といったアプローチを行います。

 このアプローチを行う手段として代表的なフレームワークが「なぜなぜ分析」「ロジックツリー」(エンジニアの方には「FTA(Fault Tree Analysis)」と言ったほうが通じるかもしれません)がそれにあたります。このようなツールを使って分析することで「根底に起こっている事象」の仮説があぶり出されるため、これらを検証すれば答えに近づくということになります。

 あとは、アンケートやインタビューでしか検証できないものに絞って、前回触れたポイントに沿って実施すれば、自ずと把握できる範囲が導かれることになります。このように、情報を取得する環境が整っていれば、アンケートを実施しなくても、ちょっとデータを調べるだけでそれなりにわかることも少なくありません。「わざわざアンケートを実施することもなかった」なんていうこともあるかもしれません。

「聞きたいことを並べただけのアンケート」から卒業

 ビジネスにおける戦略は「ニーズのウラをかく(=新規性)」ことが必要で、ウラをかくには「オモテ=実態」が理解できた時点ではじめて可能となります。まずはオモテをしっかり理解するためのアプローチの1つがアンケート(定量調査)であると筆者は考えます。したがって、ビジネスの仮説(現状仮説・戦略仮説)をしっかり作り込んでからアンケートを実施する必要があり、言い換えると、あくまでもアンケートの目的は「仮説の検証」だということなのです。

 アンケートを実施する前に、仮説構築やそのための作業が重要であることをわかっていただけだでしょうか。最後に今回のまとめとして、アンケートなどのリサーチを実施する際に整理すべき事項をまとめておきましょう。

・調査目的
・現在わかっていること:得られた情報
・導かれた仮説
・調査の結果を判断する判定基準
・調査の判断結果からとられるアクション
・調査予算・見積
・(これらを基にした)調査概要

 今回紹介したことすべてを実行するのは難しいかもしれませんが、仮説構築と調査の関係を理解しておくと、「聞きたいことを並べただけのアンケート」とは違うアプローチで質問を考えられるようになると思います。短絡的に「アンケートをとろう!」と飛びつくのではなく、こうしたステップを理解したうえで、少しずつでも効率的かつ効果的なアンケートを実践していただければと思います。

 次回は、定量情報と定性情報の特性の違いと使い分けについてお話して、アンケートをより効果的に行うための考え方について述べたいと思います。

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この記事の著者

古波津 勝彦(コハツ カツヒコ)

株式会社KAI 代表取締役|クリエイティブサーベイ・コンサルタント チーフリサーチャー

東海大学第二工学部卒。設計開発エンジニア、品質・信頼性マネジメント経験を経て日産自動車に入社後、マーケットインテリジェンス部門においてマーケットリサーチ・サーベイを事業戦略や現場改善に反映する業務を経験。その一方でクロスファンクショナルチームCFT(日産のCEO直轄の経営改革チーム)に2年間ほど参画し、事業戦略改革に携わった。2013年にマーケットインテリジェンスと未然防止リスクマネ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2015/06/23 12:00 https://markezine.jp/article/detail/22625

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