ファンはいつまでもアクティブではない。新陳代謝の仕組みを
深田:僕はソーシャルメディアがマスとデジタル、そしてリアルとの間を埋めていく可能性があると考えています。例えば、ブランドに対して誤ったネガティブな情報が流れたときでも、濃いファンがソーシャルメディア上で正しい情報を発信してくれることもあるでしょう。企業とユーザーが対等になって、いざというときにブランドを防御してくれるファンを増やすことが、デジタルマーケティングの1つの目標になると考えています。
横山:ソーシャルメディアを活用する際は、ファンの新陳代謝を考えなければならないと思います。既存のコアのお客さんがすべてではなく、潜在層を顧客にして循環させないと、ソーシャルでは長く機能しないのです。
というのも、特定の顧客を2~3年囲い込むコンテンツを作るのは難しい。コンテンツに反応するのは新しい顧客です。慣れてしまうと少しずつ反応が鈍くなる。ですから、ソーシャルメディアは新しい顧客を取り込み、常に循環させるための装置だという側面も認識して運用する必要があるでしょうね。
深田:なるほど。そうなると、濃いファンになる可能性のある新しい潜在顧客をいかにして掴むか、ということが重要になりますね。
ブランディングは長期的なROIの最大化
深田:CRMにしろ、ソーシャルにしろ、運用の成果がわかりにくいという課題があります。この点はどのようにお考えですか?
横山:ソーシャルメディアによって、広報などのパブリックリレーションと、顧客サポートのカスタマーリレーションの違いがなくなり、オーバーラップするようになりました。そのため、この2つが連動しないといけないはずですが、まだ組織としては別である場合が多いです。
そのため、現段階では成果を求めるよりも、まずは顧客との新しいコミュニケーションの基盤が形成できているかを重視するべきですね。ただ、悩ましい点は会社の経営層がマーケティングROIを重要視していて、そこばかりを指摘されてしまうことです。顧客とのコミュニケーションは経験値であり、見えない財産であることが気づかれていません。
ソーシャルデータはソーシャルメディア活用のROIを測るよりも、ブランド力を測るための指標の1つとして見ることが有効だと考えています。例えば、ブランドを認知しているアカウント、購買経験があるアカウント、ファン化しているアカウントというように、アカウントのカテゴリをライト、ミドル、ヘビーとセグメントして、それぞれのアカウント数がどのように推移しているかを見ることで、リアルタイムでブランド力の評価ができるでしょう。
また、テレビのCM効果を測る時でも、ブランドの検索数、Webサイトへのアクセス数の他にソーシャルでの反応などは、効果を測定していくための数値として役立ちます。
深田:売上に直結しないと予算が出ないという話を、メーカーの担当者からよく伺います。
横山:ある健康食品メーカーのトップのかたは、テレビCMを流すと何日後にどれくらい売上があがり、その後にリピートがどれくらいくるかということをトップが肌感でわかっていました。ダイレクトの場合は即効性がある。
一方でブランディングは、即時効果はありませんが長期的な視点に立つと効いている。ブランディングとは何かという問の1つの解が「マーケティングの時間軸を長くとった時のROIの最大化」といえます。すぐにROIの効果が出る刈り取り施策ではなく、3年間の売上を最大化するための施策ですね。
ブランド力がある企業は、ベースの売上が大きくて、広告の投下で増える売上の上澄みの部分は少ないのです。というのも、特別な何かをしなくても、常に顧客から購買してもらえる土壌が形成されているからです。言い換えれば、ベースとなる売上にブランド力が反映されている。
では、広告で増える売上は少ないからやらなくてもいいかというと、そうではない。ブランド力のある企業は長期にわたって広告を打ち、ブランディングを行なってきたからこそベースがある。広告をやめたら、その後に少しずつベースが下がってしまうのです。
欧米などはブランドイクイティ(ブランド資産)という考え方があって、ブランド力を経営的価値として考える見方が浸透していますね。