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スマホユーザーの“モーメント”を捉える 花王のデジタルマーケティング戦略

 ヘアケア商材のオウンドメディア「ホメ髪.com」の運営など、かねてから自社でのコンテンツ開発に注力している花王では、キュレーションメディア「Antenna」への記事配信を開始している。「通勤時や昼休みなど、タイミングを捉えて適切なコンテンツで接触したい」と、デジタルマーケティングセンターの広末守正氏は語る。同社のデジタルメディア戦略や、記事配信の効果をうかがった。

マスからの脱却を掲げ、デジタルならではの接触図る

押久保:花王では、さまざまなカテゴリやブランドを展開されています。各ブランドによってコミュニケーション戦略も異なると思いますが、広末さんが所属しているデジタルマーケティングセンターは、どのような機能を担っているのですか?

広末:当センターは、各ブランドのデジタル戦略を横断的に支援しています。ブランドごとのコミュニケーション戦略立案は、ビオレやリーゼといった各事業部が行っていて、我々はデジタル施策について相談を受けたり提案したりする役割を担っています。

 私自身はデータサイエンス室というところで、データ分析を中心に担当しています。その前は広告のプランニングを行っていたので、その経験を活かしながら各ブランドと実践的に取り組んでいるところです。

花王株式会社 デジタルマーケティングセンター データサイエンス室 広末守正氏
花王株式会社 デジタルマーケティングセンター
データサイエンス室 広末守正氏

押久保:今、デジタル環境が浸透して、従来の広告マーケティング手法に新しい手法が加わり、コミュニケーションの仕方が変わるタイミングを迎えています。現状の課題をどう感じられていますか?

広末:大きくはマス中心のマーケティングからの脱却です。当社は消費材メーカーとして、これまでテレビCMをはじめとするマス広告にかなり力を入れてきました。それは今後も続けていきますが、一方で生活者が当たり前のようにデジタル環境に接するようになっている中、デジタルならではの接触も図っていきたい。特に注目しているのが、デジタルの“モーメントを捉える”力なのです。

通勤中、昼休み……スマホの“モーメントを捉える”力に注目

押久保:“モーメントを捉える”とは、ユーザーのその瞬間の行動に合わせてアプローチする、といったような意味合いですか?

広末:そうですね。テレビでも「家族でテレビを見ているであろうゴールデンタイムに出稿する」といったことはできますが、やはりデジタル、特にスマホが浸透したことで、接触できるポイントが大幅に増え、シチュエーションも多様化しています。

 我々としては、いわゆるひとつのメッセージをテレビや雑誌、OOHなど各所で打ち出すというマーケティングから脱却して、モーメントに合わせた文脈をうまく取り込んでいきたいと考えているのです。

押久保:確かに、それにはスマホの普及が大きく関係していますね。スマホシフトについてはどう取り組まれていますか?

広末:大きな戦略としては“モバイルファースト”を掲げ、スマホに適したサイトづくりなどを進めています。今、サイト全体でスマホ閲覧が6割、ブランドによっては8割を越えています。特にグローバルではその傾向が大きく、スマホ最適化にはかなり投資している状況です。

押久保:やはり、若年のエントリーユーザーをターゲットにされているのでしょうか?

広末:それもありますが、実は紙オムツの「メリーズ」で、スマホの閲覧率が非常に高いのです。小さいお子様がいらっしゃるとなかなかPCを開いたりできないので、子育て中のママ層にスマホが適しているのだと思います。性別や年代以外のセグメントが重要になってきていますね。

デバイスによって異なるユーザーのシチュエーション

押久保:一昔前だと、“モバイルファースト”の中身はサイトの最適化に留まっていましたが、今はスマホならではのコンテンツや表現に取り組む例も増えています。御社での“モバイルファースト”とは、具体的にどのような考えなのでしょうか?

広末:その点では、スマホありきでコミュニケーションを組み立てているわけではありません。あくまでデジタルならではのターゲティングやアプローチをする上で、スマホを介した接点が増えている。それなら、全社的にスマホへも対応し、PCとは違うユーザーのシチュエーションに合わせていきたいと考えています。

押久保:単なる見せ方の最適化ではなく、シチュエーション、モーメントを捉えた内容にしたいと。

広末:そうですね。例えばスマホが浸透したことで、通勤中にデジタルコンテンツを通した訴求が可能になりました。これはスマホが普及したことにより生まれた、新しいお客さまとの接点ですし、通勤中に響くコンテンツと帰宅後に閲覧して響くコンテンツは違うと思います。このモーメントを捉える取り組みを、今始めているところです。

押久保:具体的な施策をうかがえますか?

広末:まだそこまで細かいターゲットやシチュエーションへの最適化はできていませんが、例えば皆の関心事をタイムリーに捉えるという点では「ビオレ」のUVケア製品で、「梅雨明け」を切り口にした訴求をAntennaで行いました。

「梅雨明け」した朝、AntennaでUVケア製品を訴求

押久保:「梅雨明け」ですか、おもしろいですね。

広末:UVケア商品は気温応答性が高いのですが、その中でも特に購買チャンスが高まる時期をいくつか特定し、そのひとつが梅雨明け時期でした。九州や関東など地域ごとに、梅雨明けしたその日に記事を配信しました。

 梅雨明けの日を予測し、マス広告でその日に接触しようとするのは無理があります。その点で、朝のニュース番組で皆が梅雨明けを知り、通勤中にAntennaでそのテーマの記事を見る……といった流れだと印象が強まると思いました。

押久保:なるほど。所感はいかがでしたか?

広末:実施したばかりなので詳しい効果測定はこれからになりますが、ブランドのシェアは順調に伸びており手ごたえは感じています。

押久保:関心が高まるタイミングが分かっていると、その受け皿をデジタル上に設けておくのは効果的ですね。UVケアだと、他にどのような切り口があるのでしょうか?

広末:我々は施策立案前にブログやTwitterなど、大量のデジタルデータを分析して、世の中の文脈を捉えておくというプロセスを踏むことが多いのですが、今回も「日焼け」にまつわるブログなどを分析したところ、「子供のUVケア」へ一定の関心があることが分かりました。そこで、Antennaで子供のUVケアをテーマにした記事を配信し、それに適した商品ページへ誘導するといった訴求も実施しました。

 そもそも日用品については、普段からシャンプーや日焼け止めのことを考えている人はいないので、これまでも日差しが強くなるときといったニーズが顕在化するタイミングを狙っていたのです。

ユーザーの反応を知る実験の場としてAntennaは最適

押久保:いくつかのキュレーションメディアの中で、Antennaを選ばれたのは?

広末:ユーザーに選ばれているメディアであることが、まず大きいですね。ユーザー視点で、さまざまな楽しい情報が配信されています。

 “モーメントを捉える”には、ユーザーを相当理解している必要があります。もちろん当社もそのためにデータ分析などに力を入れていますが、やはりそう簡単ではないのです。一方的な広告ではなく、ユーザーに受け入れられるコンテンツの提供を目指して、今まさに実験をしているところです。PVを稼ぎたいというより、反応を知りたい。それを試す場として、ユーザーに活発に使われているAntennaは最適だと考えました。

押久保:ビオレ以外では、Antennaでどのような展開をされているのですか?

広末:ヘアケア製品の「リーゼ」では、動画を配信しました。タイムラインへ自動再生動画を配信し、Antenna内の記事ページを介して当社内のリーゼのサイトへ誘導しています。

 調査からは、他メディアでの動画露出と比べて、Antennaで動画もしくは動画+記事に接触した人のブランド好感度が総じて高いという結果が得られました。

 また、当社では2011年からヘアケア情報を提供する「ホメ髪.com」というオウンドメディアを運営していますが、このサイトとのつなぎ込みも始めています。

日々の暮らしに役立つヘアケア、スタイリング情報が配信されている
日々の暮らしに役立つヘアケア、スタイリング情報が配信されている

テレビCMをオンラインでも活用、相乗効果に期待

押久保:ヘアケア製品では、かなりたくさん動画コンテンツを展開されていますよね。動画共有サイトにも数多くアップされています。

広末:ヘアスタイルの作り方などは一定のニーズがあるので、見たい人がしっかり見られるように、動画には注力しています。ただ、企業の商品ページや動画共有サイトでの接触は、ニーズが顕在化している層に限られます。その点でも、Antennaのような場を接点として集客するのは、有効だと思っています。

 Web用の動画以外にも、例えば朝の通勤時にテレビCM素材をAntennaで配信し、夜はそのCMをテレビで見てもらうことで、相乗効果が得られるのではないかとも考えています。

押久保:今後も、過去にないアプローチが実現しそうですね。最後に、この先の展開や期待を教えてください。

広末:単純なバナー広告出稿ではなく、記事配信という形でのAntennaでの取り組みは、まだ始めて数カ月ほどです。運営会社のグライダーアソシエイツ様の協力を得ながら、どんな内容ならユーザーに受け入れられるのか、知見を深めていきます。また、グライダーアソシエイツ様と一緒に調査も行ったことがあるのですが、Antennaはカテゴリ関与度や記憶に残る確率が高く、雑誌的だなと感じています。その特長を活かした展開も考えたいですね。

 マスとデジタルをうまく組み合わせて使うことで、より立体的に関心を高めることができると思います。タイムリーにコンテンツを配信できるデジタルの特徴を活かして、戦略的な話題づくりにも取り組めたらと思います。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

押久保 剛(編集部)(オシクボ タケシ)

メディア編集部門 執行役員 / 統括編集長

立教大学社会学部社会学科を卒業後、2002年に翔泳社へ入社。広告営業、書籍編集・制作を経て、2006年スタートの『MarkeZine(マーケジン)』立ち上げに参画。2011年4月にMarkeZineの3代目編集長、2019年4月よりメディア部門 メディア編集部...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2015/08/17 11:00 https://markezine.jp/article/detail/22775