イノベーションを起こすには「自ら挑む姿勢」が重要
続いてのパネルディスカッションでは、「グッド・キャンペーン」を受賞したニュージーランド航空の広報部長を務める矢我崎氏、「ベスト・イフェクティブ」を受賞したベリグリから代表取締役の達中氏、審査員を務めた佐藤カズー氏が登壇。モデレーターで審査員長の伊藤氏と共に「グローバルで考える日本発デジタル広告」をテーマに、意見が交わされました。

株式会社ベリグリ 達中靖之氏、ニュージーランド航空 矢我崎陽子氏
伊藤:まず「ニュージーランド専用休暇申請書」という、斬新な施策をされたニュージーランド航空さんですが、実は会社自体が、非常にイノベーティブなんですよね。

矢我崎:象徴的なのが機内安全ビデオです。2009年に「Nothing to Hide」と題して、クルー全員が裸にボディペインティングで登場するビデオを公開して以来、毎年、ユニークな映像を制作しています。ですが、今回は日本オリジナルの施策だったため、「休暇が取りにくい」という点が外国人の上司に理解されませんでした。しかし「休暇が取れないから旅行に行けない」という発想の面白さに確信があったので、頑張って説得しました。
伊藤:結果、受け入れられた。そこに、会社に綿々と受け継がれてきた哲学のようなものを感じます。一方、ベリグリの達中さんはディーゼル出身です。ディーゼルと言えば、ものすごく挑戦的な広告で、世界を席巻するブランドですね。現在でも影響を受けている部分はあるのでしょうか?
達中:僕の考える理想のプロモーションは、デザイナーやモデルではなく、まずプロダクトが前に立つこと。これを最もクリエイティブに表現しているのがディーゼルなんです。
佐藤:お二人ともチャレンジャーなんですよね。私は会社からイノベーティブなものを引き出す立場ですが、大事なのは自ら挑む姿勢だと思っています。例えば、アップル社のリー・クロウというクリエイティブディレクター。彼はプレゼンをするアイデアがなくとも毎週水曜に1時間、ジョブズとミーティングをしていたそうです。すると会社からのブリーフを待たずとも、どんどん提案ができる。発注されたものを受けるのではなく、自発的な提案をすることで、本当の意味でのパートナー関係が築けていくのだと思います。
鍵は世界基準で考えつつ、日本でも必ず機能すること
伊藤:グローバル展開にチャレンジすることを前提に制作されたという、ベリグリさんの「TRUE LOVE TESTER」はですが、これは本当に海外でバズりましたね。

達中:実施した2014年が、会社設立10周年だったんです。この節目を新たな展開、海外進出に注力していく、キックオフの年にしようと考えました。しかし、今すぐ、自分たちが臨むような展開をするのは難しい。ならばネットによってマーケットがワンワールドになりつつある中、自分たちの色をしっかり表現できたプロダクトを世界に発信して、興味を持ってくれた人を引き込む流れも、面白いのではないかと。
伊藤:話題となるプロダクトをつくって、世界に進出する。その設定が、そもそもの勝因とさえ思えてきますね。しかもプロダクトに重きを置くという点が、「プロダクトを前面に出す」というディーゼルから受け継ぐ哲学と一致する。やはりお二人の根底に息づくフィロソフィーを感じます。ニュージーランド航空さんは海外から日本へ、ベリグリさんは日本から海外へと、正反対の立場なんですよね。
矢我崎:私のように一支社の人間としては、日本発信によって世界に嵐を巻き起こすことができるのは、うらやましい限りです。けれど日本支社の面白い施策が海外の同僚に評価され、逆輸入されて世界的なキャンペーンになる可能性もあると、今回感じました。そう思えたからには世界を巻き込むくらいの勢いで、やっていきたいと思います。
達中:今回の施策をして正直に感じたことは、どの国でも日本と同じプロモーション展開をしたい、ということです。けれど、日本にインサイトした施策を行うニュージーランド航空さんのお話を聞いて、ヒントを得た気がします。というのも、僕らのブランドは「セクシー」がキーワードです。でも、日本人のセクシーと中国人のセクシーは微妙に違う。それぞれの地域のセクシーを、僕らなりの解釈で表現することがリアルなんじゃないかと。
佐藤:どんな立場や方向性であっても、ビジネスを動かすのは、やっぱりアイデアと質なんです。ネットのおかげで質のいいアイデアさえあれば、今年のカンヌで評価された「アイス バケット チャレンジ」のように、一瞬で国境を越えられる。そうなった今、何ごとも世界基準で考えることが重要だと考えます。けれど、同時に絶対に日本でワークする必要もあります。針の穴を通すような作業ですが、そこにデジタル広告の未来があるのではないでしょうか。
出典元:D2Cスマイル