プロダクトアウト的な発想から、マーケットインへ
――今までのVAIO作りを振り返ってみるといかがでしょうか?
大田:プロダクトアウト的な発想だったと思います。「ものづくり」組織の機能として、物を設計して、作って、サポートする機能はありましたが、作った物は販売会社におまかせしている感がありました。
――私自身、一人のVAIOファンとして、カメラ付きのVAIO GTやVAIO Uが発表される度に、次のモデルはどんなコンセプトで来るんだろうとワクワクしていたのですが、プロダクトアウト的な発想から生まれたこのような商品は今後も手掛けていくのでしょうか。
大田:そうおっしゃって頂けるのは嬉しいですが、時代も当時とは変りましたからね。昔は面白いことができるガジェットというとパソコンだったのかもしれませんが、今はそういう「世間をワクワクさせる役割」はパソコン以外へと変化してきたと思うんですよね。ウェアラブルとかロボットとかね。だから、昔の発想で今同じことをやってもだめだと思うんですよね。

――マーケットインのVAIO社へ変化するにあたって、今までとの違いはどういった点でしょうか?
大田:去年のVAIO社の組織に営業部門がありませんでした。新体制では、設計、商品企画、製造、品質保証に加えて営業部隊を新設しました。これによって、企画から営業、サポートまでを自社で責任を持つスキームが完成したわけです。
今までは、ソニーマーケティングとの接点しかなかったんですね。BtoBにしろ、BtoCにしろ、私達は本当に自分達の製品を利用している方との接点を持っていなかったんです。マーケット・イン的な視点で物を作るのであれば、直接お客様に接する専門の営業部隊が必要だろうと。
――営業部門を設立させるにあたって外部から新規採用したのですか。
大田:いえ、内部から希望者を募りました。VAIO社は社員250人のうち、半分弱が設計なんですね。ここからBtoB向けの技術営業に転向する人間を募りました。10名弱のメンバーが技術営業へ転向しました。
――技術者から営業への転向と言うと、営業ノルマを嫌ったり、求められスキルや経験も異なるためなかなか手を挙げたがらないんじゃないかと思いますが。
大田:ところが、大勢いたんですよ。聞いてみると「なぜ、自分達の作った商品が売れないのかとか、本当に必要としている要望などを直接聞いてみたい」と。これから良い商品を作るにしてもお客様の声を聞くのは大事だと、みんな分かってくれてね。そっち行きたいという人たちが大勢出てきた。ちょっと涙出てきそうになりましたね。みんな問題意識を持っていてくれたんですよね。あと、技術営業には営業ノルマはありません。販売実績のプラスは付きますけどね。
――しかし、技術職と言うとモクモクと仕事をこなすイメージで、客先で営業トークができるイメージがあまりないのですが。
大田:初めは、それも懸念しましたが、問題ありませんでしたね。今は客先へ行くのが楽しいみたいですよ(笑)。
――パソコンの技術営業というと、どういう内容になるのでしょうか。
大田:BtoBだと、カスタマイズニーズがあるんですよね。例えばちょっと処理能力をもう少し早くしてくれないかであったり、無線LANオンリーのモデルに対してセキュリティの観点から有線LAN対応にして欲しいとか、ディアプレイアダプタを付けて欲しいとか、色々あるんですよね。そういう実際のお客様の声を聞いて、技術的に可能かどうかも踏まえて提案できる営業職ですね。
――そういう柔軟なカスタマイズは確かにニーズはあると思うのですが、最低千台からとかある程度規模の見込める場合だけなのですか?
大田:いや、そんなことはないです。小ロットから対応しています。数台は厳しいですが、数十台レベルからでも対応しています。
――それは、かなり柔軟な対応ですね。それを実現する秘密は何でしょうか。
大田:VAIO社の体制では最後の仕上げは全て長野県の安曇野(あずみの)工場で行います。これを安曇野フィニッシュと呼んでいます。この工程の時にカスタマイズを行います。壁紙を特定企業の物にするとか、そういう細かい所まで対応可能です。
――安曇野工場と技術営業の新設で顧客の声に柔軟に対応できるようになった。一方でIDCの調査によれば、2013年のPC出荷台数が3,151億台、2018年までは減少傾向にあるとされています。パソコン市場自体が縮小傾向にありますが、VAIO社ではPC市場の展望をどのように見られていますか。
大田:パソコン市場という大きなトレンドとしては3億台の壁などはおっしゃるとおりです。しかし、我々は他社さんのように台数を追う勝負はしません。パソコン市場とは別にVAIOしかできない領域「VAIOゾーン」を作って、その商圏で食べていく、そういう戦略を持っています。当面は建築設計、金融関係などのハイエンドPCを必要とするセグメントで足場を固めて行く方針です。