アウディ所有者はワインよりシャンパンが好き

深田:コンテンツの見せ方、出し方、ユーザー体験などは、どのような工夫をされていますか?
濱野:ユーザーオリエンテッドで、ユーザーが求めるものを理解することですね。従来のブランディングは、自社のアイデンティティを決めてその世界観を自分たちのメッセージで伝えてきました。しかし、伝える作業は別に考えるべきです。
例えば、BMWを例にとれば、高級、ドイツ車、スポーティなど価値はたくさんありますが、何を評価するかは人ぞれぞれ。ですから、情報の集約の仕方、出し方、掲載する場所なども、相手に合った形で出していく必要があります。そのため、価値観を統一せず、購買データなどからユーザーのクラスタリングをして、訴求ポイントを変えていきます。
深田:ユーザーの好みやニーズに合わせて、メッセージの出し方を変えていくということですね。
濱野:しかし、広告は需要を作ってこそ広告です。ターゲティング広告のように、需要を刈り取るだけでは広告ではないですよね。需要を作るとは、例えばアウディ派にBMWを欲しいと思わせることです。普通はBMWの世界観をアウディ好きに伝えても通じません。これは逆の場合も同様で、BMW好きにアウディをそのまま伝えても届かないのです。そこで、通じるためのコミュニケーションをして需要を創出するのです。
深田:具体的には、どのようなコミュニケーションをとるのでしょうか
濱野:嗜好などからカテゴライズしてメッセージを作ります。楽天の購買データを分析すると、アウディに乗っている人は、他の車種を所有している人に比べてシャンパンを購入する傾向が圧倒的に高いことがわかりました。ここを利用できると思います。嗜好性の強いものは好みが現れるので、その傾向を知った上でメッセージを作るということができるのです。
楽天レシピでも、動画を使ってビールメーカーとのタイアップキャンペーンを行いました。その際に、事前調査としてそのメーカーのビールを買う人がどんなおつまみを買っているのかを調べて、それを元に動画で紹介するレシピを考えました。データに人的価値、文脈を取り入れるくことで、コンシューマに嫌われないマーケティングができるのです。
楽天の方向性はオープン化
深田:一方で広告主側もデータを持ちたいと思っています。この要望に対して、楽天さんはデータ連携などでどういった線引をするのでしょうか。
濱野:自社でCRMを構築するには限界があります。そこで、楽天をプラットフォームとして使っていただきたいですね。楽天のデータは楽天のもの、クライアントのデータはクライアントのものという線引があっても、プラットフォームに載せることで連携しやすくなることはあります。
深田:データを楽天に載せることに、企業によっては抵抗を感じる場合もありそうです。
濱野:そこはゆっくりやっていきたいですね。データの統合による成功事例を作っていくことが重要でしょう。実際に、私たちは今年の1月からオープン化を謳っており、プラットフォームごと提供していくことを目指しています。楽天のデータは何も使わせない、という姿勢からセグメント化されたデータを連携させる方向にシフトしています。
また、楽天以外のECサイトも広告を打てるようになっています。楽天のユーザーが買い物をすることをわかってもらえれば、いずれ他のECサイトも楽天IDで決済ができるようになる。そこも視野に入れています。
顧客満足度向上と情報の提供を意識すべし
深田:企業はオウンドメディアを今後どう活用していくべきでしょうか。
濱野:オウンドメディア活用のひとつの答えは、カスタマーサポートを徹底的に行うことです。それが企業価値を上げ、継続購入につながります。
少し話がそれますが、サポートの1つとして、Twitterを使ったアクティブサポートがあります。楽天レシピ、キレイドナビ、楽天アプリ市場などでも、アクティブサポート取り組んでいます。例えば、レシピをアップしたというツイートがあればお礼を言って、さらにおすすめも伝える。このような活動を専任スタッフを用意して行っています。
これができるとクレーム対応もマイナスにとらえるのでなく、改善につなげるヒントだと考えることができます。また、ユーザーからお褒めの言葉をいただく機会も意外と多いです。社内の人間にはポジティブな声がなかなか聞こえてこないので、それを担当者に伝えることでモチベーションが上がる。ですから、非常に意義があると思います。
オウンドメディアに話を戻すと、やはりもっと情報を掲載していくべきですね。商品が欲しくても購買を決められない人がいたら、後押しするのがメディア力です。最も商品情報を所有しているのはメーカーでしょう。彼らが適切な情報を提供すれば、非常に大きなメディア力となるはずです。
また、ブランドが好きで商品を買ってくれていて、応援してくれているアンバサダーを大切にするべきだと思います。ただアンバサダーマーケティングをオウンドメディアでやると自作自演にも見えるので、そこはメディアを使ったほうがいいという意見もあります。ですから、メディアの使い分けも重要ですね。
深田:最後に今後の展望について教えていただけますか。
濱野:デジタルの取り組みはまだまだ遅れている部分だと思います。ですから、デジタルの可能性についてみんなに知ってほしいと思いますね。一方的にアドテクの話をしてもわからないので、もっと身近なものだということが伝わる取り組みをしていきたいですね。
今後、人が集まっているメディアは広告枠を売るものから、マーケティングプラットフォームそのものになっていくと思うので、ユーザのタッチポイントを考慮した情報の提供、体験をどう実現していくかを考えていきたいと思います。
深田:楽天のデータ活用のお話など、非常におもしろく興味深いものでした。本日は、ありがとうございました。