Sharethroughが見据える「広告の未来」
― アメリカでは、ネイティブ広告市場というのは、どのくらいの規模なのでしょうか。
高広 日本のインターネット広告市場と、アメリカのネイティブ広告の市場が同じぐらいになります。
― 日本とアメリカでは、ネイティブ広告のインパクトがかなり違うようですね。
高広 そうですが、単に収益面でのインパクトだけではありません。ソーシャルメディアはこれまで「エンゲージメント」のためのメディアと考えられていましたが、最近は、広告を出してコンバージョンまで持っていけるメディアとして見られるようになりました。FacebookにしてもTwitterにしても、Instagram、Pinterestも、ソーシャルメディアと呼ばれているものや大手のキュレーション型のメディアは、いわゆるIABスタンダードの、従来使われてきたディスプレイ広告の枠というものを持ってない。タイムラインにユーザーの投稿と同じようなスタイルで、広告が流れてくる。つまり、それぞれのメディアに合った独自のネイティブ広告枠を持っている。

そうした、ソーシャルメディア上のネイティブ広告が普及する中で、普通のパブリッシャーは同じようなことができないのか。それができればマネタイズもできるはず。実はそれが結構、原点だったりするんです。ソーシャルメディアの収益性の高さを、一般的な媒体にも提供するというのがポイント。低下傾向にあるディスプレイ広告を中心とした広告収益をネイティブ広告にすることで、媒体社を収益面でいかに再び強化できるかというのもポイントですね。
― 媒体社だけでなく、一般企業がオウンドメディアに取り組む中で、なかなかPVやサイト訪問者が増えない、成果が見えないといった悩みもあると思います。そうしたオウンドメディアのコンテンツがそのまま広告として使えるのであれば、これまでの努力もムダではなくなりますね。
高広 そうです。現状では「ネイティブ広告のように見えて、ネイティブ広告風のテキスト広告」が多いですが、より本来のあり方でネイティブ広告が普及すれば、たとえばディスプレイ広告の入稿素材などのクリエイティブの予算で、自社ブログの記事を増やすとかソーシャルメディアの投稿を増やすとか、コンテンツを増やすほうが良くなってくるでしょう。
実際、コンテンツマーケティングを実施している企業の場合、たったひとつコンテンツを作って終わりということはありません。コンテンツへの投資は継続的なものになります。Sharethroughは企業のそうした継続的なコンテンツマーケティングとパブリッシャーのネイティブ広告枠を結びつける「Continuous Campaigns」という面白い機能を最近リリースしました。オウンドメディアやソーシャルメディアとSharethroughの「SFP」とつなぎ、広告主が新しい記事をアップしたら、その情報をもとにSharethroughの「ネイティブ広告ジェネレーター」で自動的に新しいネイティブ広告のクリエイティブを生成する機能です。この自動的に作られた広告は、パブリッシャー側がOKを出したら表示され、広告の効果測定ツールもあるので、どのくらい見られたか、どのくらいのエンゲージメントがあったかも全部わかるようになっています。
― それなら運用コストも低く済みそうです。
高広 しかし一方で、広告主から何でもかんでもコンテンツが入ってきてしまって、媒体側でも自社のオーディエンスに合っているコンテンツなのかどうかを把握できなくなってしまう危険性がある。下手をすると媒体価値を毀損することになります。そのためSharethroughは「CQS(Content Quality Score)」という指標を設けています。見られているコンテンツ、読まれているコンテンツであるかどうかが分かるようになっており、もしそのスコアに基づいて不適切なコンテンツが出ているということがわかれば、媒体側はコンテンツをブラックリスト化したり、あるいは広告主側に別のコンテンツを出してくれと提案することもできるようになります。
― ユーザーにより良い体験を提供しよう、ネット広告のエコシステム全体を変えていこうという姿勢を感じますね。
高広 これまでのアドテクノロジーでは、デマンドサイドが強いと言われてきました。なぜそうなるかというと、サプライサイドである媒体社に、媒体の価値を適切に売る方法がなかったという状況がありました。また、端的に今までのネット広告の価値や効果がどんどん低くなっていき、それを高める手立てがなかったというのも大きかった。ですから、「ネイティブ広告」という新たなフォーマットの価値を、どういうふうに売るのかというのも大きなポイントです。
ネイティブ広告はクリックスルーレートで見ても、従来の広告とくらべて平均10~20倍はある。Sharethroughには「CPE(Cost Per Engagement)」という、どのぐらいインタラクションあったのかを表す指標があるのですが、これも従来の広告の10倍ぐらいあります。こうしたポテンシャルをしっかりマネタイズできれば、媒体側は10倍の値段で売れるはずなんです。
― エンゲージメントをしっかり計測・評価できるというのは、ブランド側にとっても重要ですね。
高広 広告主のブランド担当者にしてみれば、今のネット広告はコンバージョンを重視したものに偏っている傾向があり、「ここにブランドとして広告を出すんだ」というふうに認識してもらえるようなものが少ないように思います。でも、Sharethroughが提供しているネイティブ広告は、ブランド広告主にとって重要な「エンゲージメント」という指標が取れる。いわゆるダイレクトレスポンスにおけるコンバージョンと同じように、ブランディングの広告におけるエンゲージメントという数値を取れれば、しっかり数値管理が可能なブランディングがネット広告の世界でもっとやりやすくなる。
そうなってくると、媒体社もブランド広告を売りたいという機運が出てくると思いますし、広告主もネット広告にブランド予算を投下しやすくなると思います。
― 日本でSharethroughを使いたいときは、どこに問い合わせればよいのでしょう?
高広 Sharethroughのサイトには「CONTACT(連絡先)」の欄があるので、ここから問い合わせできます。日本からの問い合わせは全部、私のところに来るので日本語で書いてもらっても大丈夫ですよ(笑)。
― Sharethroughが目指す世界が日本でも共有されて、変化が起きることを期待しています。ありがとうございました。