要素を詰め込みすぎた「虹のサーキュレーション」
――公開授業では「虹のサーキュレーション」という作品を発表されていましたよね。イベントの参加者が布を被って、そこにプロジェクションマッピングをするとい斬新なものでした。これは、どのような狙いのものだったのでしょうか?
水落氏:一番重要なのは「お客さんの一体感をいかに演出するか」だろうという話になったんです。しかも演出をこちらが一方的に用意するだけでなく、お客さんのアクションがライブに影響を加えられるようにしたいと考えました。
ここから、プロジェクションマッピングのアイデアが出ました。しかし、演者へのプロジェクションマッピングも、空間のプロジェクションマッピングも既に存在していて「新しさ」がなかったんです。そこで、ライブ参加者が布を被って、その布にプロジェクションしたら面白いんじゃないかという話になりました。
堀氏:少し話が逸れますが、アイドルのライブでケチャという、アイドルに向けて手を下から上げる動きがあります。この動きには元々、演者に対してファンがパワーや応援の気持ちを送るという意味合いがあるんです。ケチャをしたタイミングで、お客さんの腰回りを覆う布にプロジェクションをすれば、パワーを送る様子を可視化できるのではないかと。
ファンが手をあげると、キラキラしたものがアイドルに集まっていくようなエフェクトがあったら面白いと考えたわけです。加えてアイドルがファンにパワーを返す様子も可視化できれば、「サーキュレーター」の名の通りパワーの循環を確認するという一体感を生み出せるのではないかと思ったんです。
水落氏:ただ、様々な要素を盛り込みすぎてしまって(笑)。企画が複雑になりすぎて、公開授業のデモではすべて伝えきれず、途中で終わってしまったんです。ですから、評価も最下位に終わってしまいました。
伝わらないと意味がない、新しさとのバランス取りが要
――公開授業後に、改善を考えられたかと思うのですがどのような発想の転換をされたのでしょうか?
水落氏:そうですね。まずは「伝わってないから、わかりやすくしないといけない」と意識を改めました。あとは、誤解を恐れずに言うと「そんなに未来を見せすぎる必要もない」というのが正直な気持ちでした。実は、アイデア出しの段階でスマホやキネクトを使う方法も出ていたのですが、既に多くの場面で使われている技術だと「何かそれって未来じゃないよね」と却下していたんです。
堀氏:卒業制作のテーマが「2020年の渋谷系」で、この未来感をどこまで出すかを重視していたんです。実は私と水落さんは学年こそ違うものの、大学院で同じメディアアートのプログラムを受けた経験があります。そこでは、研究に使われている先端技術を用いて、誰も見たことのない、なるべく新規性の高い作品をつくり出す試みがされていました。
だから、卒業制作でも「誰も見たことがない未来を見せなきゃ」という使命感があったんです(笑)。チームを組んでから毎週ミーティングをしたのですが、ハードルが高くなっていて、「どのアイデアも新しくないじゃん」と切り捨てることを続けていたんです。
水落氏:「虹のサーキュレーション」もデモでは布を被りましたが、将来的には布がなくても身振りをしたら手元からエフェクトが出たり、空間を演出できたりするのではないかという考えがありました。それが今はできないから布で、という。
――みなさんは、スクリーンも何もないところに、映像が流れる未来を思い描いていたのですね。
水落氏:ただ、それが伝わらないと意味がないので。もう、インタラクティブ・一体感というテーマだけ残して、これまでのものは全部捨てようと。一体感を得られて分かりやすくて面白いものをつくる方向にシフトしました。