テレビを見なくなった若者をいかに奪還するか
まず考えなければならないのは、テレビを観なくなった10代・20代若者の奪還だ。私は最近、20代の人に会うとテレビについて質問している。まだ数は少ないが15人ぐらいに質問した。すべて広告業界で働く20代だ。質問は「テレビのイメージは?」「テレビを観ているか?」「なぜ観なくなったのか?」「今後テレビに戻ることはあるのか?」などだ。
テレビのイメージに対する20代の回答はこうだ。テレビは「たるい」「うすい」「飽きる」「ウザイ」「彼氏がテレビ持ってて嫌だ」。でも、「観ると意外と面白い」「ネットの情報パクってる」「ネットもテレビの情報パクってる」「見逃し視聴とか、傲慢だよね。最初から観てない(笑)」「ファーストスクリーンがテレビ?私のファーストスクリーンはスマホだよ」。
テレビは観るのかという問いに対しては、全員ほぼ例外なく「観ない」と回答。なぜ観なくなったのかをたずねると、「高校時代は翌日の学校の話題に合わせるために観てたけど」「中学で塾と部活が忙しくて観なくなった」「高校時代に自分のパソコン買ってから観なくなった」「ドラマとか後から観られる」「テレビ局の決めた時間で観せられても生活に合わない」「家族がいるので一人で観られない、スマホの方がいい」「面白い番組もあるけどテレビの前に座る習慣がなくなった」という。
そして今後テレビに戻ることはあるのかと聞くと、全員が「たぶん、いまのテレビに戻ることはない」と回答。私が印象に残ったのは、「たるい」と回答した人が「単位時間当たりの情報量が少ない」と論理的に説明したことだ。ネットは自分の判断で自由にコンテンツを閲覧できるのに対して、一方的に番組を流されるテレビは「たるい」と感じて「情報量が少ない」と思うようだ。
この調査対象は広告業界20代に偏っている。ただし、広告業界は情報感度が高く、流行に敏感だ。その中でも20代はITリテラシーも高く時代の先端をいく。この時代をリードする若者が観ていないのだ。これでは、未来を切り開けない。昔はテレビが時代を作っていた。若者に刺さっていた。

テレビ局は、デジタル総合メディアテクノロジー企業へ舵を切るべき
テレビ局は今後、スマホをファーストスクリーンと考えて若者にコンテンツを提供すべきだ。つまり、テレビ局はテレビを捨てるのだ。捨てるとは、セカンドスクリーン以下に置くということだ。20代と話してわかったが、若者はテレビ画面には簡単には戻ってこない。 テレビ局はテレビを捨てて、「デジタル総合メディアテクノロジー企業」になるべきだ。でなければ、ラジオと同じ道を歩むことになり、メディアの王者という地位を奪還できないだろう。よくデジタル対応とかデジタル戦略とかいうが、それでは足りない。自社でエンジニアを抱えてサーバーを持って、自社のテクノロジーで時代に即したサービスを臨機応変に繰り出していく。対応とか戦略構築ではなく、事業を変えるのだ。
未来のテレビを考える上で考慮すべきこと
●有料会員制の導入(もちろん、無料コンテンツもある)
●TカードやPontaカードとテレビ端末連携/購買データ証明による効果測定
●リアルタイムのサイマルネット配信(スマホ、タブレット、PCなど)
●過去の全番組のアーカイブネット配信
●プライベートマーケットプレイスの構築
●ソーシャルメディアとの有機的連携
●CM電子送稿/Programmatic TVシステムの導入
●DMP(Data Management Platform)の導入/デモグラフィック・サイコグラフィックターゲティング、リターゲティング、エリアターゲティングなどの実現
●短尺動画/CMのABテスト/CM制作のクラウドソーシング
●世界展開/海外へのネット配信と販売
●テレビメタデータの活用/動画認識技術/検索機能/レコメンデーション機能/EC連携「House of Cards」のようにコンテンツを解析してヒット番組を制作
など。
PC、スマホ、タブレット、スマートテレビ、スマート自動車、スマート家電、ウェアラブルデバイス、IoT(Internet of Things)関連機器など、すべてを対象にしたメディアテクノロジー企業だ。その中では、地上波テジタルテレビは“one of them”だ。別にGoogleやAppleになれと言っているのではない。彼らの作ったプラットフォーム(スマホなど)上でもメディアビジネスを展開するのだ。
「デジタル総合メディアテクノロジー企業」になるには、まず、サーバーが必要だ。過去に放送した番組、今後放送する番組をすべてサーバーにアップして、すべてのデバイスで視聴可能にする。権利関係で難しいこともあるだろうが、時間はあまりない。理想はすべてだが、権利処理ができたコンテンツから順にビジネス化しながら、前に進むしかない。
このサーバーの容量は膨大になる。維持コストだけでも相当だ。そこで、放送法など関連法を改定して、テレビ局の電気代を格安にする。暴論だろうか?そうは思わない。調べればわかるが、日本の法人電気代はアメリカの約3倍だ。これでは、日本企業はGoogleやAmazonのように巨大なサーバーを用意してビジネスができない。これは、日本企業の国際競争力を損ねている。テレビは公共性が高いサービスだ。なので、電気代を格段に安くして世界で競争できるようにするのだ。そして、有望なテクノロジーベンダーと事業提携、あるいは、買収をして技術を取り込む。そのためには、ITに強いCTOを外部から招く。
さらに、CMOも必要だ。視聴率で一喜一憂して番組を作るのは馬鹿げている。600世帯の集計値だ。テレビを観ない若者の動向は反映されていない。個別オーディエンスデータでもなく、デモグラフィックもサイコグラフィックも精緻ではない。視聴率依存から脱却し、もっと普通のマーケティングを実施する。高齢者は今のままでもいいが、10代・20代の若者にも受け入れられるビジネスをしていくべきだ。
本記事は「Unyoo.JP」の記事「フジテレビ赤字転落:産業の突然死が迫るテレビ、復活策はコレだ!」を要約・編集したものです。長編のオリジナルコンテンツを読みたい方は、こちらをご覧ください!