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【短期集中】オムニチャネル・マーケティング~実践現場からベスト・プラクティスを探る

「泥臭いことを率先してやる」 オムニチャネル・マーケティング構築プロジェクト舞台裏


プレイヤーが多すぎてプロジェクトは「カオス」チャネル

 さらに、問題は「社内の壁」だけではありません。サービス構築運用においては、業務を委託するベンダーや社内で活用するシステムが存在すると思います。

 サービスの規模にあわせて関係する会社が増えていくのは当然で、運用に必要なシステム全てを内製で賄えている企業はむしろ少ないのではないでしょうか。

 この日本企業を支える「マルチベンダー体制」が「オムニチャネル・マーケティング」のプロジェクトを煩雑にする一要因になります。プロジェクトのプレイヤーは、関係会社の数だけ次から次に登場することになり、情報共有にも苦労する「カオス」なプロジェクト体制が生まれがちです。

 既存システムそれぞれの特性と強みを活かし、「オムニチャネル・マーケティング」の一部として機能させるためには綿密な「システム連携」の計画が必須です。

 ここで失敗してしまうと、今までの既存システムへの投資が無駄になってしまう可能性すらあります。業務を依頼しているベンダーを始めとする、各システムの担当者全員で、プロジェクトの目的と今後のタスクを共有し、独立して動いていたシステムを連携させる必要があります。

 先ほどモデルケースで挙げたモデルケースの、『在庫確認・購買・受け取り店舗指定ができる』『スマートフォンアプリ』という部分だけでも、これだけの基本要件が想像できます。

  • ECのコマース機能を活用した決済機能
  • 受取先候補の店舗リストは常に最新である
  • 決済とともに、店舗内の在庫を確保する(ないケースを検討する必要もある)
  • 店舗側に、伝票が発行される
  • ユーザが商品を受け取るための受取り票をアプリに表示できる

 などなど……。

 システムをまたいだデータのやり取りは、的確な技術検討が必要ですし、併せてこのケースでは店舗オペレーションも変更する必要があります。プロジェクト責任者は全体を把握したうえで、担当者間のコミュニケーションルートの整理、利害のバランス調整を含めたマネジメントが求められます。

 オムニチャネル・マーケティングの推進には、今まで良い意味で「棲み分け」されていたシステムの壁を壊す側面もあります。結果として、体制面の課題が浮上することも多いです。プロジェクトは既存の体制と向き合うことから始まります。

「オムニチャネル・マーケティング」を成功させるのは結局……!?

 ここまで課題点をあげてきましたが、もちろんそれらは乗り越えるべき課題なので、成功事例における印象的なエピソードもご紹介します(※機密情報保持の理由から、実際のエピソードをデフォルメしています)。

店舗での雑貨販売を主軸とするO社の事例

 O社でデジタルマーケティングを担当した方のエピソードです。O社では、オンラインでの販促活動や店舗来店促進のため、スマートフォンアプリを軸としたサービスのオムニチャネル化を実施しました。

 その際、店舗でのデジタル施策実現のために、店舗への情報展開とオペレーションが課題となったそうです。店舗スタッフにはアルバイトも多く、個々のITリテラシーもそれほど高くありませんでした。新しい施策実施やオペレーションの変更時には、社内電子文書が配信されますが、それだけでは不十分でした。

 それを受けて、H氏は各店舗の担当者と直接電話でコミュニケーションをとるようにしました。一見アナログで非効率に思えますが、このコミュニケーションが重要な連絡経路として機能し、施策導入を劇的に改善したそうです。

 また、H氏は電話で話す際、店舗の担当者に「施策実施によるメリット」や「店舗の売上に貢献する見込み値」を「店舗で使われている用語」で伝えることをルールにしていました。そして、実際のオペレーションについては、マニュアルだけでなく、店舗まで実演に出向いたそうです。

 H氏が手間をかけて誠実にコミュニケーションしたことで、店舗側との積極的な協力体制を築くことができ、現場のモチベーション向上にも繋がったことは言うまでもありません。

 現在O社が展開する店舗は50以上ありますが、全ての店舗担当者が、H氏に直接電話をできるホットラインを持っていて、引き続きH氏をハブとした施策導入がされているそうです。

 その後、H氏は社内のキーマンとしてプロジェクトマネージャーに就任し、部署間の橋渡し役となりました。H氏は、「施策の展開はあくまで等価交換であり、店舗で働く人たちへのメリット提供がプロジェクト推進のキモ」だと言います。

 H氏はさらに、現場からあがってくる改善要望や課題を吸い上げながら、より良いサービスを追求し、スピーディーなサービス改善のサイクルを実現しています。これはH氏が他部署への思いやりを持って「泥臭い業務」を率先してやったことで、周囲からの信頼が得られた成功事例だと思います。部署を横断して実現するサービスだからこそ、このアナログなコミュニケーションが重要なポイントになるのではないでしょうか。

まとめ 「オムニチャネル・マーケティング」推進のポイント

  • 社内のチャネル(担当部署)を横断した情報集約、調整を行う
  • 他部署の価値観も理解しながら、完成イメージに向けて歩み寄る
  • 「オムニチャネル・マーケティング」専任の部隊や担当者を設けられるとなお良い

 オムニチャネルは、デジタルマーケティングから派生した極めて「デジタル」な展開だと捉えることができますが、その「現場」はまだまだ「アナログ」です。

 サービスにおいて「オムニチャネル・マーケティング」を実践するということは、社内も「オムニ化」することだと思います。そのためには、これまで社内で分断されていた資産や手段を共有し、企業として一つの目標に向かうための環境作りが必須だと考えます。

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この記事の著者

工藤 元気(クドウゲンキ)

1985年生まれ。㈱ゆめみ取締役。大手小売・飲食・メーカーのマーケティングシステム、O2Oアプリ、CRMの大規模受託開発の企画・ディレクター・営業を兼務し、現在は企業のオムニチャネル推進のためコンサルティング、研究に従事。現場で培った経験を元に、新鮮で現実味のある情報をお届けします。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2015/12/28 15:45 https://markezine.jp/article/detail/23466

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