クラウドファンディングをめぐる状況
クラウドファンディングは、一般の人たちが応援したいプロジェクトに資金を提供することができるサービス。今回は代表的なサービスのひとつ「Makuake」を展開する、サイバーエージェント・クラウドファンディングの坊垣佳奈さんにマーケティングの視点からお話をうかがいました。
MarkeZine(MZ):まず、立ち上げのところからお聞きしたいのですが、当時のクラウドファンディングをめぐる状況はどのようなものだったのでしょうか。
坊垣 私たちは2013年の8月にサービスを立ち上げたのですが、当時日本でクラウドファンディングというと、「寄付サイト」というイメージが強かったんですね。2011年の東日本大震災以降、復興の資金集めなどに使われた経緯があって、その時期に立ち上がったサイトも多かったので。そのあたりから市場が形成されたこともあり、ビジネス寄りの資金調達のサイトというよりは、寄付金を集めるサイトという印象が強かったと思います。
クラウドファンディングは社会貢献のためにも使えますが、その対象を広げたほうがより意義があると考えていたので、よりビジネス寄りに使っていただけるサイトを目指したいと思っていました。新しいモノやサービスなどが生まれてくるところ、という意味で「Makuake」という名前を付けました。
MZ:サービス開始当初は、どのような点に注力しましたか?
坊垣 「お金を出すと、モノや体験として返ってくる」という仕組みはシンプルなのですが、それを通してどういう体験ができるのかを浸透させることですね。一番やらなければいけないのは、成功プロジェクトを作って、それがちゃんと話題になっていくこと。対象を広げるため、ジャンルは絞らずにやろうという戦略でやってきました。ですから、どういうジャンルの案件が来ても基本的に受け入れます。もちろん、審査は別でありますけれど。
MZ:サイトを見ると、音楽、テクノロジー、ファッション、フード、お笑い、地域活性化、コスメ、レストランなど、取り扱うジャンルは幅広いですね。
坊垣 同じような購入型のクラウドファンディングで、ジャンルをある程度絞っているところはたくさんあるのですが、まず仕組み浸透させて市場を大きくしてくことを考えると、対象を広げたほうがいいなと。Makuakeでは初期から多ジャンルを扱っていて、それは今も変わっていません。現在は常時100~200くらいのプロジェクトが走っていて、累計のプロジェクト数は1000件を超えています。
Makuakeの使い方
MZ:Makuakeでプロジェクトを立ち上げるときは、どのような手続きが必要なのでしょうか。
坊垣 Makuakeのサイトのフォームから問い合わせをすると、メールで「エントリーシート」が届きます。そこに実施するプロジェクトの詳細や、出資者に提供することができるリターン(資金提供によって得られるもの)を記入して提出します。スタッフによる審査を通過したあと、Makuake上にプロジェクトページを作成します。掲載料は無料ですが、プロジェクトが成功した場合、集まった支援総額の80%が実行者に支払われ、20%がMakuakeの手数料となります(20%のうち、5%は決済代行手手数料)。
これは、出版社が立ち上げた人気の絵師さんを起用した書籍の出版プロジェクトで、2000円から、4000円、6000円、8000円、1万2000円、3万円、5万円、10万円とさまざまなリターンのコースがあり、それぞれ著者サイン入りの書籍の先行入手から、直筆サイン色紙やグッズなどの特典を選ぶことができます。リターン設計はさまざまで、飲食店だったら会員券や飲食チケットを提供します。
MZ:クラウドファンディングには「All or Nothing(達成後支援型)」と「All in(即時支援型)」という方式があるようですが、これはどのような違いなのでしょう。
坊垣 クラウドファンディングを知っている方は、「All or Nothing(達成後支援型)」のイメージが強いと思います。これは目標金額を達成したときにのみ、その資金調達が可能になるというもので、目標額に到達しない場合はサポーターに返金されます。何かやりたいことがあって、それにかかる費用があらかじめわかっていて、その費用が集まれば実行可能という状態にあるときに、資金調達の手法としてクラウドファンディングを使ってもらうというもので、まさに資金調達が目的になります。
MZ:では、目標額が100万円で99万円集まったとしても、その場合は全額返金されてしまうのですか?
坊垣 そうです。All or Nothingなので。
MZ:ちょっと残念ですね。
坊垣 両者にとって残念な結果ですね。お金を出す側は、応援の気持ちも含めて出しているので。もちろん、確実にこの金額がないとできないという場合プロジェクトは達成後支援型でやるしかないのですが、そうではない場合もあります。
たとえば、映画の場合、お金があればあるほどクオリティを上げることができるという面があります。そうなると、「いくらあったらできる」ではなく、「集まった分だけ手元に入る」ほうが合っているのではないかということで、Makuakeではかなり初期の段階からそういったニーズに応えて「All in(即時支援型)」という仕組みを取り入れていきました。All or Nothingの達成後支援型では、目標金額の設計が難しい面もあるので。また、資金調達が目的だけれど、それに伴ってプロモーションやマーケティングできるのがありがたいという声もありました。
MZ:プロジェクトを実行する側は、Makuakeからどのようなサポートが得られるのでしょうか。
坊垣 プロジェクトの見せ方やリターン設計の仕方など、特徴をいかに打ち出していくかというのはノウハウが重要になってくるので、担当者がついてサポートをする体制になっています。ジャンルごとに専門の担当者がいるので、ジャンルごとのノウハウがたまっていき、より良いアイデア出しのお手伝いもできます。