スクロールとクリック、どちらの方が負荷になるのか
福山:ここ2~3年でしょうか。コーポレートサイトの潮流として、ビジュアル重視・コンテンツ重視になってきたなと感じます。
ファーストビュー信仰が盛んだった3~4年前までは「どれだけトップに要素を詰め込めるか」がポイントでした。ところが今は、トップページのナビゲーション機能が薄れ、UIが記事系メディアに近いコーポレートサイトが多くなってきている印象です。「ユーザーニーズを満たせるかどうか」の点で、アナリストから見てこの2つの違いは出ていますか?
小川:「スクロール負荷とクリック負荷、どちらが重いか」は、スマホ時代のひとつのポイントとして見ています。これをどう分析するかというと、あるページにあったリンクへの遷移を見ると、これまでは4割だった。今度はその要素をページの中に入れてしまって、最後までスクロールして読んでくれた人の割合と比較する。この2つを近似値として評価するのですが、アクセス解析だけでは難しくて、ヒートマップも併用して分析する必要があると思います。

「ユーザーと企業のニーズが合わない」時の対処法
福山:ユーザーニーズとクライアントのニーズが合わないとき、小川さんはどうされていますか? ユーザーはあまり興味がなさそうでも、企業としては「この情報を知ってほしい。だからいい位置に置きたい」というページやリンクがありますよね。
小川:もちろん企業として、どうしても伝えたいサービスや商品は出てきますよね。コーポレートサイトにはいろんな部署が関係してきますから、部署間で見せたいページが違うこともあります。そこで私たちに必要なのは、「あくまでもユーザー目線でやる」という軸をブラさないことだと思います。
「御社の伝えたい情報を目立たせると、その分、多くの人が知りたがっているこちらの情報は場所的にわかりづらくなります。その分、興味が持たれづらくなりますが、いいですか?」とデメリットを提示した上で、判断をお任せするのが大事です。
福山:コールセンターの会話も、コーポレートサイト改修のため有効なヒントが詰まった宝の山ですよね。「ああ、この改善ポイントは会話でなければ引き出せなかった」「このニーズを満たすには、コンテンツで備えるよりチャット機能を追加しよう」と思う事例は山ほどあります。
小川:私が以前勤めていたAmazonでは、関係部署が定期的に集まって、コールセンターの音声を聞いていました。それほどヒントが多いんですよね。「価格が分かりづらい」とか「配送が遅く孫の誕生日に間に合わなかった」などクレームを紐解くと、サイトに求められるニーズが拾えるんです。
福山:しかも文字起こしで見るより、音声で聞くほうがユーザーの切実感がわかることもありますよね。
「新規追加すべきページ」の探し方はあるのか
福山:素朴な疑問なんですが、「このコーポレートサイトに、こんなページを新規作成したほうがいい」と判断する基準は、やはりヒューリスティックになるんでしょうか?
小川:キーワード調査の結果という場合が多いですね。特に「外部での発言」はコンテンツ制作のひとつのヒントになります。たとえば商品名やブランド名、サービス名と一緒に、どんな単語がTwitter、ブログ、Q&Aサイト、キュレーションサイトなどで使われることが多いのか抽出しますね。それを可能にするツールも既に存在しますよ。私がCAO(Chief Analytics Officer)を務めるFaber Companyの「MIERUCA(ミエルカ)」なんかが該当します。
福山:なるほど! Q&Aサイトも宝の山ですよね。
小川:あとはその単語と一緒に検索される頻度が多い「サジェストキーワード」を調べ、検索ユーザーのニーズに対応したコンテンツがなければ、作ることが重要です。
どんなことをするのか具体例をミエルカを使った場合で説明すると、あるキーワードに対して上位10~20サイトをクローリングして、そこによく使われている単語を提示してもらうんです。自社サイトと競合サイトの比較をすれば「自社サイトは他社に比べて、ユーザーのこのニーズに対して答えられていない」というポイントが鮮明になります。自分たちが持っていないものを求めようとすると、サイト外に目を向ける必要があります。この「外からの気づき」を積極的に拾いに行くことは非常に大事です。

Googleユーザーの検索意図、検索ボリュームをマップ状に可視化している。
福山:なるほど。ページが存在して初めて、サイト改善ができたか計測できるわけですから「同業と比較したときに、自社がどれだけ機会損失をしているのかを知りたければ、まずコンテンツを作ろう」ということですね。
コーポレートサイトの改善に際して、企業は何を目標とし、何を成果とすべきなのか。次回は、多くの企業が知りたい「KPI」の立て方について、話し合います。