パネルディスカッションにAIの有識者が登壇
菅原:本日、MarkeZine定期誌の読者限定イベントにてパネルディスカッションのモデレーターを務めます、スマートニュースの菅原健一です。これから、登壇される3名にAIとマーケティングについてうかがいます。最初に皆さんの自己紹介をお願いできますでしょうか。
渡辺:カラフル・ボードの渡辺祐樹と申します。弊社ではファッション人工知能アプリのSENSYを提供しています。これは人間の感性を学習する人工知能で、それぞれのユーザーの方に合ったコーディネートをレコメンドするアプリです。
今後10年で人工知能がどのように発展するかについて、僕はユーザーの代わりとなって情報を検索したり出会いを提供したりしてくれるようになると考えています。もちろん1人1台の時代です。そこで重要になるのが、人工知能がユーザーそれぞれの感性を学習できるかどうか。SENSYは「感性を学習する人工知能」として開発しています。
川端:サイバーエージェントのアドテクスタジオに所属している川端貴幸です。今年から新設されたAI Labの責任者を務めています。AI Labの主な業務は、アドテクスタジオが開発する広告サービスやプロジェクトなどに人工知能を活用し、企業とユーザーをOne to Oneで結び、最適なタイミングで最適な情報を届ける広告配信技術を実現することです。
現在、僕はAI Messengerの開発に注力しています。これからはユーザーと企業の接点の多くがチャットに置き換わっていく動きがあるので、そこにAIを導入しようと試みています。もちろんAIですべてを実現できるわけではないので、有人対応でやるべきこととは切り分けています。そうすることで、ユーザーの課題をスムーズに解決することを目指しています。AIMessengerは、Web、LINE、Facebookメッセンジャーに対応しています。
佐藤:メタップスの佐藤真です。弊社ではアドテクの分野でMetapsというアプリの集客、分析、収益化を行うためのプラットフォームを提供しており、フィンテックの分野でSPIKE(スパイク)というオンライン決済サービスを提供しています。僕はMetapsの開発に携わっています。
菅原:実は、スマートニュースでも人工知能を導入してサービスの質を高めています。いま、一人のユーザーが1日に9分ほど利用してくれているんですね。ほかのニュースアプリでは4分ほどです。その差の要因の一つに人工知能があると考えています。
AIとは何なのか?
菅原:いまお話しいただいたように、皆さんはAIを用いたサービスを提供されていますが、そもそもAIをどう定義されていますか?
渡辺:人間のように考えて動く機械ですね。人間のように、と言うと今度は人間らしさの定義が必要になりますが、これも時代によって変わると思います。AIも最近出てきた言葉ではなく、いまは第3次ブームなんです。第2次が1990年代で、その頃にAIと呼ばれていたものは『ドラゴンクエスト』のようなゲームにあったような、自分の代わりに自動で何かをやってくれるものでした。
しかし、最近ではそれだけだともはやAIとは呼べませんよね。いまはAI自身が学習するなど、これまで解析できなかったデータや問題を解けるようになり、より人間らしくなったと思います。しかし、5年もすればいまAIと呼ばれているものはAIと呼べなくなるでしょう。時代とともに定義が変わるというのはそういうことです。
川端:AIはものすごく賢い必要はなく、人間より少しだけ賢く、ゆえに人間の代わりに物事をこなせるものですね。その「少し賢い」という定義が時代によって変わるのだと思います。
佐藤:大きく言うと、人間の作業をできる人間以外のものと考えています。もう一つは、人間が新しい価値を見出だせる何かを作り出せる人間以外のもの。前者はお二人と同じですね。人間がやっていたことで人間以外のものがやるようになった仕事はたくさんあります。トイレの水を流すこともそうです。昆虫に人間の仕事をやらせる研究もあり、これもある意味で人工知能だと呼ばれる可能性はありますね。
ただ、多くの方がイメージするAIは「強いAI」だと思います。これはドラえもんのような、ほとんど人間と同等のものです。これを作る夢はありますが、いまマーケティングなどビジネスで役立つのは弱いAIです。機械学習や最適化ですね。
渡辺:使う側からすれば強いAIなのか弱いAIなのか、実際の技術が機械学習なのか最適化なのか、といったことはあまりこだわらなくていいことでもあります。重要なのは解決したい課題にAIが適しているかどうかであって、もしかしたらその課題は従来からある簡単な手法で充分かもしれません。ですので、定義に労力を費やすより、どう活用するかが大事でしょう。
マーケターがAIを活用するために必要な視点とは?
菅原:皆さんともアドテクやマーケティングツールを開発されていますが、MarkeZineの読者はどちらかといえばそれを使う側です。そういう方がAIを活用するときに必要な視点はどういうものでしょうか。
川端:AIの得意不得意ははっきりしています。囲碁のように決まったルールの中で最適な答えを探すことに長けているんですね。そこで人間が張り合わなくていいので、どんどんAIに任せましょう。ですが、人間がルールを決めないとAIは働けません。また、アイデアを出す、目的を決めるなど、想像力を必要とすることが人間の得意なところです。
強いAIにはそれができると思いますが、その実現はまだまだ難しいので、マーケティングの中でどこにAIを使って、どこを人間が担当するかをきちんと区別することが大事だと思います。
渡辺:AIなら何でもできるというイメージを持っている方もいらっしゃいますね。ですが、おっしゃるように強いAIはまだ存在しません。まずはAIにいまできることとできないことを切り分けてください。「何をやりたいか」がファーストステップです。
佐藤:僕自身はデータサイエンティストなので身に沁みているところもありますが、何でもいいからAIにとにかくデータをインプットすれば有用な知見が生まれてくる、というわけではありません。AIを利用するうえで、何がしたくて、そのためにどのデータを使って、どんなパターンを見出したいのかをあらかじめ考えておく必要があります。
AIの活用でマーケターの仕事はどう変わるか
菅原:そういった視点を持ってAIを活用するとき、これまでのマーケティング、マーケターの仕事はどう変わっていくのでしょうか。例えば、いきなり画期的な商品ができ上がることも考えられますか?
渡辺:商品企画の方法が変わることはありえます。ただ、単純にAIを使って変革をもたらせと言われても難しいんです。僕がよく考えるのは、無限の数の人間がいて無限の時間があるとしたら自分たちの業務がどう変わるか、という問いです。これに対する答えがAIを活用できるチャンスに繋がると思っています。
ダイレクトメールを例にすると、地方にある小さなブティックだと店長がお客さんの顔を思い浮かべながら1通1通に手書きで新商品を紹介することができ、その結果として開封率を高くすることができます。しかし、何万人もの会員を抱える企業が情報を届けたいときは、同じ内容のものを一斉送信しないと費用対効果が悪くなってしまいます。
このとき、もしスタッフが無限にいて無限の時間があるなら、会員が何万人、何百万人いようと一人一人に向けたダイレクトメールを作ろうとするはずです。そのギャップをAIで埋めることができると気づけるかどうかですね。人間からすれば無限に近い作業を短時間でできるのがAIですから、そこに活用ポイントがあります。こうした視点で考えられることが大事だと思います。
佐藤:AIの一番の強みは大量の作業を自動化できることです。なので、人間がやっているパターン化された仕事はどんどん減っていくでしょう。AIにとって新しい価値を作り出すことはまだ難しいのですが、単純作業をAIがしてくれるようになるので、人間はよりクリエイティブな仕事に時間を費やすことができるようになると思います。
川端:広告においてAIの利用が進んでいるのは、広告枠の買付けやターゲティングの領域です。しかし、広告では最終的にユーザーが目にする部分、つまりテキストや画像、動画のようなクリエイティブがかなり重要です。これはデザイナーなどのアイデア次第で訴求力、広告効果が大きく変わりますから、人間はそちらにもっと注力すべきですね。そうなれば、ユーザーも楽しい広告にもっと出会えるようになるというメリットがあります。
菅原:一般的にイメージされるようなAIはクリエイティブな仕事をやってのけますが、現時点ではむしろ想像力の必要ない雑務をAIが担当し、人間がクリエイティブな仕事をやっていくべきだということですね。
佐藤:AIはパートナーというより道具ですから、「これがいい」という意思決定は人間が行い続けるでしょう。何もかもAIが決める状況になるのは遠い未来だと思います。
菅原:先ほど強いAIの話をしましたが、IBMのAIであるWatsonの紹介動画ではまさに我々が夢に見るような強いAIが描かれています。ですが、エージェントが人間に「どうしますか?」と尋ねるところはいまと変わりません。Amazonのレコメンドもそうですが、人間に選択肢を与え、それを選び出した理由を提示し、そして最終的な意思決定をしてもらうように促します。AIが勝手に商品を買っておきました、というふうには当分ならなそうですね。
AIサービスを提供する登壇者の展望とは
菅原:さて、登壇者の皆さんはAIを開発する側であり、読者であるマーケターの方々とはこれから一緒に仕事をされることがあると思います。最後に、皆さんが今後マーケティングの領域でどういったお仕事をやっていきたいか、お考えを聞かせてください。
渡辺:カラフル・ボードでは定型化された情報やソリューションだけを提供しているのではなく、「こんなことできないか」というアイデアをいただけたら、そのテーマについて一緒に議論し、AIをどう活用できるのかを考えるなど、R&Dに近いところから関わらせていただいています。ですので、こちらからご紹介するサービスが皆さんの目的に当てはまらなそうだとしても、AIで何かやりたいことがありましたら、ご連絡いただければと思います。
川端:僕はAI Messengerに注力していますと話しましたが、それはチャットにおけるユーザーと企業の接点作りには大きな可能性があり、ユーザーに新しい体験を提供できると考えているからです。FAQで解決できるような簡単な接客はボットでスピーディーに、より複雑で重要な接客は人がディープに行うことが、ユーザーと企業にとってwin-winな関係になると思います。AI Messengerでは企業とユーザーの新しい接点を増やすお手伝いをしたいと思っていますので、ユーザーとの関係をよりよくしたいとお考えの方はぜひお声がけください。
佐藤:メタップスではいろんな分野のデータを横断的に利用してサービス開発をしています。産学協同で研究もしていますから、より多くのデータがほしいというのも事実です。異なる領域のデータを組み合わせることで新しいものが生まれていきますので、データはたくさんあるが活用方法がわからない方やAI活用に興味がある方とご一緒できれば嬉しいですね。メタップスはテクノロジー・データを活用した企業のマーケティングサポートを得意としていますので、お気軽にご相談いただければと思います。