瞬く間に構築されたエコシステム

検索連動型広告の成長を支えてきたのは、ダイレクトレスポンス型と呼ばれる、金融、保険、旅行、情報系サービス、Eコマースなどの業種で、主にオンライン上に販売チャネルを持つ企業である。
これらの企業にとり広告効果が明確で、かつ顧客獲得効率のよい検索連動型広告は親和性が高く、その投資額は瞬く間に急増、検索連動型広告はオンライン上でチャネルを持つ企業にとっての定番となった。
検索連動型広告の成長は、サイバーエージェント、オプト、セプテーニ、アイレップなど、当時いち早く検索連動型広告の取扱を広げたITベンチャー企業の成長を支えてきた。もちろんまた逆も然りであり、大手総合代理店による本格的な参入よりも前に、これらの企業がいち早く検索連動型広告の成長性を見抜き、この市場にコミットしてその市場成長を支えた。
Overtureが日本で作った認定代理店制度に象徴されるように、GoogleやYahoo! JAPANなどのメディアと、ネット広告を早くから取り扱った広告代理店は、この成長する市場で双方が成長できる大きなエコシステムを作り上げた。
2000年代半ば、検索連動型広告の需要拡大とともに多くの事業者が検索連動型広告の「運用」支援業務に参入、広告主の獲得競争が進んだ。広告主が広告代理店に求めたことは、「価格」と「早いレスポンス」そして「広告主の要望に沿ったきめ細かな運用」。
人が時間を多く割けば割くほど結果にもつながる「運用」競争は、一時期際限なく加速した。広告代理店担当者は、クライアントが購入したキーワードが、競合よりも結果が常に最上位になるように、一晩中見張りをしていたというような、あまり笑えないような笑い話もあったようだ。「検索連動型広告の運用を何とかより楽に、効率化することはできないものか?」という要望は業界全体で高まっていった。
このような業界の切望に応えるように、2000年代半ばに欧米から夢のようなコンセプトのツールが日本に持ち込まれた。
自動入札ツールへの期待と失望
その代表的な例の一つが、2000年代半ばに、三井物産とVIXIAとの合弁会社、三井物産ヴィクシアが持ち込んだ、「Efficient Frontier」という全自動型自動入札ツールである。「Efficient Frontier」というサービスを耳にしたことがある方は、既にこの業界でベテランの域に達しているといえるだろう。
このサービスは金融工学のロジックをもとに、検索連動型広告予算を全自動で最適化させるものであり、運用担当者の作業負荷を軽減でき、かつ運用の最適化ができるので当時大きな注目を集めた。広告主が広告代理店を選ぶ際に、この「Efficient Frontier」を使えるかどうかが基準になるというような、「Efficient Frontier狂騒」もあったと聞く。
その他にもいくつかのツールが主に欧米から持ち込まれた。大手広告代理店は、膨大なキーワードを出稿する広告主の運用支援向けに、自社の広告運用業務の効率化や、ツールを持つことでの競争優位を訴求するために、積極的に取り扱いを始めた。ちょうど2000年代の終わりから、2010年代初期頃のことだ。
しかし、自動入札ツールは当初関係者が期待したような結果を、ネット広告業界にもたらすことはできなかった。自動入札ツールの利用コストや、欧米とは異なる日本の運用業務に必ずしもフィットしきれなかったからだ。