コンテンツビジネスの新たな潮流
良質なヒットコンテンツは様々な方法で収益化することができます。たとえば、HuluやNetflixで観られている海外ドラマはまさにそういうことです。
本来はアメリカのテレビで放送されるために作られたコンテンツが、内容がおもしろいので元の市場で大きな人気が出て、他の市場やプラットフォームもそのフォーマットを自分のコンテンツにしたいと思うようになりました。
コンテンツを配信する権利を他者に売ることや、元のプラットフォームと異なる場所でコンテンツ配信をすることは、テレビや映画の世界に限らずオンライン上においても当然な流れと言えます。
海外のマルチチャンネルネットワーク(以下、MCN)は、自社で抱えているクリエイターの動画コンテンツでまったく同じビジネスを展開していて、そしてさらに一方先のことにも既に手をつけています。
ケーススタディ:Awesomeness TV
DEFY Mediaのように100人以上の制作スタッフを抱えていなくても、良質なコンテンツを作るノウハウさえあれば、このビジネスができるということを証明しているのは、Awesomeness TVです。ちなみに彼らは2013年にドリームワークスに買収されています。
Awesomeness TVの原点は9万人ものチャンネルを抱えるMCNですが、YouTubeのオリジナルコンテンツプログラムのパートナーとして「AwesomenessTV」という公式チャンネルを開設し、2012年の冬からそこへオリジナルコンテンツを投入し始めました。
Awesomeness TVは撮影や編集をするスタッフをほとんど抱えていませんが、「go90」で大ヒットしたアメリカンスタイルの学園青春ドラマ「Guidance」や豪華客船のクルーズ企業が出資したYouTubeのドラマシリーズ「Royal Crush」をはじめ、毎月100時間以上のオリジナルコンテンツを作成しています。
go90はベライゾンが提供する動画プラットフォームで、Netflixやhuluのようにたくさんのドラマ作品を観ることができるサービスですが、ほとんどのシリーズは一話5~10分のようなモバイル視聴に最適化された短い尺の構成になっています。
Awesomeness TV、Defy Media、Fullscreenなど数多くの大規模のMCNはもちろん、ダンスに特化したDanceOnやスポーツコンテンツに特化しているWhistleSportsのようなニッチなMCNもgo90向けの作品を提供しています。
Awesomeness TVの場合、30人以上のプロデューサーが日々コンテンツを考え、メインのキャストは彼らのMCNのトップクリエイターを起用して、制作はすべて外注するようなビジネスモデルです。
彼らが制作する作品は、ハリウッド映画やテレビドラマと比べられても遜色のないクオリティの高いもので、一部の作品の制作費は数億~数十億円の規模にも及んでいます。しかし、この大規模な制作予算は企業タイアップやgo90などの動画プラットフォームから投じられています。
彼らの作品の中で、実際にカリビアンクルーズを行い、豪華客船上で数週間に渡る撮影で制作されている人気ドラマに「Royal Crush」という番組があります。現在シーズン3まで続いている人気シリーズですが、クルーズ会社Royal Carribbeanのスポンサードによって成り立っている案件です。
日本で主流となっている商品レビューやレポート動画ではなく、「クルーズを若い人たちの間で流行らせたい」というクライアントの想いから生まれた壮大なプロモーション、いや、プロダクションです。本編映像を少し見るだけでも日本で行われる動画プロモーションの規模との格差が伝わるのではと思います。
こういったドラマはもはや「YouTube動画」ではなく、新しい形のデジタルコンテンツと言えますが、制作している会社がMCNということと、出演するキャストがYouTuberなど、テレビドラマやハリウッド映画とはまた異なった仕立てのコンテンツになっています。
「Royal Crush」のように無料でYouTube上で閲覧できるものもあれば、MCNが別のプラットフォームにライセンス販売したり、自社の有料アプリ内で配信したりと様々な取り組みをしています。
上記のようなハイクオリティなコンテンツが作れることが、新たなクリエイターのスカウトやマネジメントにも大きな影響を与えています。「Royal Crush」のような北米でヒットするドラマに出演できるチャンスがあることは、彼らのMCNにジョインすることの大きな魅力となり、Awesomeness TV自身も未来のスターとなるクリエイターの原石の発掘の助力となっています。