トップマーケターはデジタル、アナログを等しく活用
第1部の登壇者は、大手企業のマーケターたち。マーケティングにアナログを活用し続けてきた彼らは、デジタルを活用しつつもアナログの重要性に言及する。日本マクドナルドの足立光氏は、「デジタルを活用する理由の一つは、マスの補完。日本ではいまだにマスが最も効率が良い」と、幅広い層をターゲットとする同社の見解を述べた。
デジタルにおいて同社のスマートフォン向けクーポンアプリは有名だが、折込チラシに代表される紙のクーポンも来店の後押しに有効だという。「たとえば山形では、使用されたクーポンに占める紙媒体の比率が3割を超えている。紙媒体が有効な地域、ターゲットがいる」と足立氏。あくまでもデジタルはマーケティング全体の一部として活用するという。
「CLUB Panasonic」で会員数950万人を有し、デジタルで大きな成功を収めるパナソニックでもアナログの活用を進めている。同社の中村愼一氏は「会員属性やユーザーのロイヤリティでリストを抽出し、DMでイベントへ来場を促したケースでは、配信数の10%超にご来場いただけた」と言い、アナログを活用した施策を展開することで、高い成果をあげた実例を紹介した。
一方、本格的にデジタルマーケティングに注力したのは2016年からという富士フイルムが重要視したのが、「デジタル」ではなく「データドリブン」。同社の一色昭典氏は、「デジタルかあるいはアナログかという次元ではなく、どちらも等しく重要で、同じようにデータを元に進める必要がある」と、その思いを述べた。
当然だが、企業ごとにデジタルとアナログ、それぞれの活用法は異なる。その中でも共通するのが、デジタルとアナログを組み合わせて利用することで、より多くの顧客とより良いコミュニケーションを図ろうとしている点だ。
MAツールベンダー「クロスチャネルで進めるべき」
では、デジタルのイメージが強いMAツールのベンダー側はアナログをどう捉えているのだろうか。第2部ではブレインパッド、日本オラクル、マルケトという大手MAツールベンダーが登壇。ブレインパッドの東一成氏は、マーケター達の意見を代弁するかのように「既に技術的にはオフラインの行動情報も取得できるようになっている。それであれば、従来のようにデジタルとアナログを分断してマーケティング施策を考えようとするのは、時代の流れに逆らっている」と述べ、クロスチャネルで進めていこうという機運が高まっているとアピールした。
デジタルとアナログを組み合わせたクロスチャネルの効果については、日本オラクルの中嶋祐一氏も言及。「クロスチャネルは、アメリカの企業の事例だとメールとディスプレイ広告などの組み合わせから効果が出ることが実証され、さらにチャネルをプッシュ通知、DM、コールセンターにまで増やしている。BtoBの場合は、営業が利用するSFAとも組み合わせる。オンライン、オフラインに関係なく、複数のチャネルで適切なタイミングでコミュニケーションを取るべき」と語った。
マルケトの小関貴志氏は、数あるオフライン施策の中でもDMに注目しているという。「アメリカで発表された2017年のマーケティングの潮流予測の中に、DMがもう一度注目されるという項目があった。DMは効果があるかどうか可視化できなかったため、下火になっていた。しかし、『正しいこと、効くことをやろう』という発想の中でDMは、使い古されたアクションから、もう一度新しいアクションに切り替わっている」と述べ、データを元にターゲティングを行った上でのDMが、新たな施策として評価されていることを力説した。
「MAツール×DM」実証実験の結果は
アナログだけではなくデジタルと組み合わせることで、更なる効果が期待できる。これが、マーケターとMAツールベンダー共通の意見であり、さらに、それを証明するかのような実証実験の結果を発表したのが、最終セッションである第3部に登壇したSansanの石野真吾氏と日本郵便の鈴木睦夫氏だ。両社は共同で、最新のデジタルツールを用いてアナログを活用した、実証実験を行った。具体的には、MAツールの「マルケト」を使ったDMの送付である。
今回の実証実験の1年半ほど前、Sansanは「マルケト」を導入した。様々なデータをMAツールで統合し、見込み客をスコアリングすることで優先度を可視化して営業活動を行うことで、半年間で新規受注件数が2倍になるなどの成果をあげていた。MAツール導入の成功事例として評価される一方で、デジタルのみで活用していたため、オンラインだけではアプローチできない顧客がいると感じていたという。
一方日本郵便は、MAツールベンダーと協力し、DMをはじめとしたアナログ施策の実証実験を進めていた。ここで両者の思惑が一致し、実証実験の第一弾として取り組むことになったという。
実験の内容はシンプルで、これまでにメールだけでは商談に至らなかったが過去に名刺交換をした層に対し、「メールのみ」「DMのみ」「DM+メール」の3パターンでアプローチ。DMはシンプルなものにし、DM送付者に送るメールは、「お手紙をご覧いただけましたでしょうか」といった形にすることで、組み合わせの効果が感じられるように作成した。
この結果について石野氏は「以前、ターゲットを絞らずにDMを送付したことで失敗していたこともあり、プロジェクト当初は不安も多かった。蓋を開けてみると結果は圧倒的でDMとメールを組み合わせるとクリック率がメールのみの場合の1.8倍にもなり、受注貢献も想定の10倍以上であった」と語り、いかに今回の実験結果が予想以上に良いものだったのかをアピールした。
同氏は、その他にも今回の実証実験を通じ、受注への貢献効果をもたらす要因として、三つの気づきがあったという。一つめは、メールでは届かない層にきちんとリーチできたこと。二つめは反応期間の長さ。DM発送後、数ヶ月が経過しても商談に繋がるようなアクション喚起効果が続いているという。三つめはシャワー効果。上司から部下への紹介等、送付先のみではなく、物が届くことで部門内に拡散できるシャワー効果があった。これはオフラインのDMならではだという。
デジタルとアナログ、それぞれの特徴を掴み活用するべき
DMの効果については、日本郵便に入社する以前はデジタルマーケティングに携わっていた鈴木氏自身も驚いたという。日本DM協会が毎年発表している『DM利用実態調査』によると、DMの開封率は81%、受取意向率は77%、行動喚起率は24%、保存率は52%にも上る。
鈴木氏は「メールやデジタルをやっていた人間からすると、驚くべき数値。ただ、自分宛に送られてきた封筒を開かずに捨てるかというと、捨てない。Sansanの石野さんも言うように、DMの特徴の一つは保存率。半年後でも効果があるというのは、デジタルではありえない。デジタルはモーメントの積み重ねで、瞬間瞬間を捉えることに長けているが、DMはずっとストックされる」と語り、メールとDMという、デジタルとアナログの特徴の違いを解説した。
また鈴木氏は、上記の数値は全世代の男女の平均であり、この中で最も数値がいいクラスタは20代男性であると明らかにした。その開封率は、9割を超えるという。次いで数値が良いのは、20代の女性。同氏は、デジタルネイティブである若者にとって、手紙をもらうということがむしろ新鮮であるからではないかと、仮説を立てていた。
たとえば、MAツールでターゲティングを行い、デジタルネイティブの若者にDMを送付。リアルでのイベントに送客し、終了後はサンクスメールで商品を訴求する……。デジタルとアナログを組み合わせ、その時々で最も適したチャネルでコミュニケーションを図る。これまでの各社の意見を見ていると当然のことのように思えるが、実現できている企業は多くはないだろう。Sansanの石野氏も、今回の実験を通じてそのことを実感したという。
石野氏は、「当社もそうだが、IT企業の多くではCPAだCPCだと、常日頃から言われていることだろう。しかし今回の実証実験を通じて、効率を求めているだけではトップラインは上がっていかないんだなと、改めて感じた。きちんとユーザーを見て、デジタルとアナログを是々非々で組み合わせていけばよいのではないか」と語った。
最後に鈴木氏はデジタルとアナログについて、「デジタルに長けている人にアナログの知見がないケースが多々ある。逆もまた然りで、それぞれが分断されている。そこをなんとかしたいと思っている。デジタルは、コストの安さと拡散力が魅力。弱点は、瞬間で消えていってしまうことだ。アナログの中だと、DMはコストの高さが弱点だが、情報のストックという強みがある。それぞれの特徴をうまく摑み、活用してほしい」と語り、イベントを締めくくった。