“Windows95発売”こそがオンラインマーケティングの“ティッピング・ポイント”
“ティッピング・ポイント”とは、ある現象が一定の閾値(しきい値)を超えると爆発的に広まる、という閾値のことを結果的に意味するが、“短期間に爆発的に広がる”というイメージをオンラインマーケティングに持っている人は多いかと思う。本書の考察については、(最初のアイディアから)10年経った現在では、当たり前になっていたり、陳腐になっていたりするものもあるが、基本的な考え方が否定されているわけではない。
結局のところ、95年以降のオンラインマーケティングは、“ティッピング・ポイント”をいかにして超えるかという議論を続けているにすぎない。言い換えれば、指数関数的に情報が増加しているネットワークの世界で、どのようにしてティッピング・ポイントを捕らえるかが目下の課題であり、その課題をクリアするためには、まずは「ティッピング・ポイントとは何か」の理解が必要ということだ。そういった意味で本書は、オンラインマーケティングを考える上の古典として重要な一冊と言ってもいいだろう。
では、オンラインマーケティングの「ティッピング・ポイント」はいったいどこにあったのか?本書になぞらえて考えてみると、“Windows95発売”がそれであったと言えるだろう。
95年を境にして、私たちを取り巻く情報環境は大幅に変化した。今では当たり前すぎる話だが、ネットワークの普及というのは、我々の思考様式に大きく影響を及ぼしている。この影響は送り手であるマーケティング関係者はもちろんのこと、マーケティング関係者が想定する受け手=消費者にも多大な影響を与えていることに留意されたい。もちろんテクニカルな方法論も重要だが、マーケティングは人の認識のあり方に深く影響を受けていることを改めて思い出したい。
マーケティング関連書籍というと、TIPSや即効的なノウハウが求められがちであるが、「こうすればうまくいく」といった絶対法則はない。オンラインに限らず、マーケティングに取り組む上では、その背景――社会状況や社会心理の変化を読み取る必要がある。『ティッピング・ポイント』は決して実践的なマーケティング本ではない。しかし、ここ10年で起こった思考の変化を特徴的に捉えた著作であることは間違いないだろう。各論については異論もあるだろうが、この本が収めている射程は思っているよりも広い。未読のむきはぜひとも一読をお奨めする。
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