若い世代にも有効なDMのパワー
鈴木氏が語るデジタルとアナログの融合施策の有効性には根拠がある。日経BPコンサルティングが2016年3月と9月に実施した「デジタル・アナログ領域のマーケティング施策実態調査」によると、デジタル/アナログのどちらか一方の施策を推進した企業と、デジタルとアナログ融合施策を推進した企業を比べたところ、後者は押し並べてその効果を実感しているという。
特にデジタル・アナログ融合企業において、「アナログ施策の効果が出ている」と答えた企業は68.2%にも上る。だが、実際に融合施策を取っている企業は全体の29.1%、決して多くない。
さて、日本郵便が提供するマーケティング支援策といえば、なんといってもDMだ。鈴木氏自身、日本郵便に移るまで知らなかったそうだが、実はDMのパワーは非常に強力だという。
一般社団法人日本ダイレクトメール協会(JDMA)が実施した調査結果でDMの開封率を見ると、DMは81%もあるという。メール開封率が顧客全体の6%と考えると、DMは確実に「見てもらう」ツールとして機能しているわけだ。
また受取意向率は77%で、メールのパーミッションと比べると2倍以上の開きがある。メールは不要でもDMは欲しいという顧客はかなり多いと言える。行動喚起率も24%、保存率も52%と、顧客に訴える手段としてDMはいまだに大きな効果が期待できるのだ。
「20代男性の場合、開封率は92%、受取意向率は78%、行動喚起率と保存率は52%と、DMの訴求力はとても強いのです」と鈴木氏は説明する。実は20代女性でも、ほぼ同じ率の反応が得られるそうだ。その理由として考えられるのが、アナログの“おもてなし”に感動するデジタルネイティブ世代の感性だ。
今マーケターは、次世代の消費を担う男女20代にどうアプローチするかという課題を抱えている。DMは、その課題解決を担う手段として期待できるという。
マーケティングに長けている企業はDMを有効活用している
「現代のマーケティングの最重要課題は、ターゲティングとエンゲージメントです。これに有効なのが、実はDMなのです。心を動かすという意味では、お手紙というのは非常に強い。今こそ出番なのかなと思っています」(鈴木氏)
実際、マーケティングに長けている企業はDMというアナログ施策をうまく活用している例が多い。たとえばグーグルは、箱形の南京錠がかかったDMカギをGoogle検索で入手するDM to Webなサービス体験型DMを展開し、レスポンス率51%を達成している。セキュリティサービスのトレンドマイクロでは、契約更新の案内をメールとDM併用で送付し、2倍の効果を挙げているそうだ。
「ユニークな取り組みはソフトバンクのDMです。封筒がスマホスピーカーに変身するといった五感に訴えるDMで、通常の1.8倍の機種変更を実現しました」と鈴木氏はいう。
だが、そんなDMにも弱点がある。第一にスピードだ。一瞬で送付できるメールと比べると、文面を印刷して配達するDMはそれだけスピードが遅くなる。またコストに関しても、やはりメールに比べると高くなってしまうのだ。
これを解消するのが「アナログとデジタルの組み合わせ」だ。鈴木氏によると、実は印刷工程はかなり迅速化されており、マーケティングオートメーション(MA)と組み合わせてトリガーが発生したらすぐ印刷できるような体制が整備されつつあるという。コストに関しても、データドリブンマーケティングでターゲティングすることで、かつてのような一斉配送から、ターゲットをしぼった効率的な配信ができる。
このアナログとデジタルの融合を進めるには、現在アナログとデジタルで“分断”されている知見を共有するしかない。そこで日本郵便では、主要なMAツールベンダと連携し、「デジタルとアナログの組み合わせ最適解」を探るプロジェクトを始動している。このプロジェクトに事業会社として参加したのが、クラウド名刺管理サービスのSansanだ。