「ネットの制約」を打ち破る、三つの方法
ゴードン=レヴィット氏が挙げた、クラウドソーシング、フリーカルチャー、ソーシャルという大きな制約について、ネット社会を生きる私たちはどのようにして克服すべきなのだろうか。
「クラウドソーシングではなく『コミュニティ』、フリーカルチャーではなく『フェア・コンペンセーション(公正な補償)』、ソーシャライジングではなく『コラボレーション』が、この問題を乗り越える対抗策となります」

ゴードン=レヴィット氏は、自らが立ち上げたHITRECORDの活動を例に挙げながら、これら三つのポイントについて解説した。
「クラウドソーシングでは、『何万人』といった“人数”が重視されますが、コミュニティでは『個』が重要視され、一人ひとりの個性を大切にします。確かにHITRECORDでは“クラウドソーシング的な”仕事をしますが、私達はそれを“コミュニティソーシング”と呼んでいます。今回お集まりの皆さんは、AIなど大多数の人々を分析するのがお好きかと思いますが、才能のあるクリエイターをひとまとめにくくることは、少なくとも現在では、不可能です」
クリエイターにはそれぞれ違った特徴があり、それらをひとまとめにして『何万人』とくくることはしない、ということだ。常に“誰と誰”というコミュニティでコンテンツを作るのが、彼の言うコミュニティソーシングだ。
「もう一つのクラウドソーシングであるオープン・コンテストの対抗策となるのは、“リミックス”です。競争をせず『同じ目標のために共同作業をする』ことを指します。
たとえば、ある人がハンバーガーの絵を描いたとしましょう。それを別のアーティストが動画にする。これがリミックスです。HITRECORDでは、それぞれのクリエイターの作品を別のクリエイターがアップデートし、リミックスを重ねることで作品を作ります。誰かの個人的な手記がライターによって脚本になり、それをもとに動画や音楽が加えられ、一本の番組になり、テレビで放送されるのです」
彼の言うコミュニティでは、「ビッグアイデア」を出した人の周りに人が集まり、一つの作品を協力して作る。勝った者がすべてを得るのではなく、集まった者全員が参加者となる形式だ。
「次のフェア・コンペンセーションは、フリーカルチャーへの対抗策です。HITRECORDでは、参加者は必ずその参加度合いに応じて、オープンな計上方式で報酬を得ることができます。私達はこれまで200万ドル(約2億円)以上を世界中の投稿者に支払っています」
HITRECORDでは、ウォルト・ディズニーの言葉「We don’t make movies to make money, we make money to make more movies(お金を儲けるために映画を作るのではない。もっと多くの映画を作るためにお金を儲けるのだ)」を大切にし、常に報酬を支払うシステムを改善しているという。作品制作への労力を報酬によって補償することで、才能あるクリエイターがじっくり作品制作に集中できる環境を与えられる。
「最後は、ソーシャルに対する『コラボレーション』です。単に”つながる”のではなく、同じゴールに向かってともに仕事をする、ということです。HITRECORDのプラットフォームでは、コンテンツを投稿したりコミュニティを作ったりと、一見するとSNSのような機能がありますが、大きな違いは『チャレンジ』という機能があることです」
HITRECORDのチャレンジ機能では、「ライティング(執筆)チャレンジ」「フォトグラフィー(写真)チャレンジ」といった、各コンテンツに関連づいた投稿ができる。そのコンテンツのゴールや締め切りを設定し、人が集まってリミックスが進むと「プロジェクト」へと移行する。各プロジェクトがHITRECORDのプロデューサーの目にとまると、プロダクション段階へと進む。最終的な段階になると、資金調達が始まり、本格的な商業作品としての完成を目指すことができる、という仕組みだ。

「私達の活動からわかるように、創造性はテクノロジーと同じくらい大切です。才能やリーダーシップ、そして仲間との協力がなくては、プロジェクトは進まないのです。このコミュニティではSNSと同じように、友人はできます。お互いのことに関心を持ちます。しかし、単にランチの写真を投稿するだけではありません。皆がクリエイティブな投稿を協力して完成させることを目的としているのです」