“無駄打ちゼロ”を目標に運用、リタゲも展開
有園:今おっしゃった“快”というのが、VAIOのユニーク・セリング・プロポジション、いわゆるUSPになるわけですか。

小霜:そうですね。VAIOの場合、純粋に開発にかけるこだわりと熱意がすばらしくて、その「おれたちならでは」感を伝えたかった。
ただね、USPには違いないんですけど、USPは~、ターゲットインサイトは~、と穴埋め式で考えてはいけないと思います。そうすると表面的な回答になってしまうので。僕は、やはり企業側の思いや、自分がターゲットだったらどういうものが欲しいか、どう言えば価格以上の価値を感じるか、いろいろな観点から考えて“がらがらぽん”するんですよね。
有園:考え抜いた上で、ぎゅっと凝縮して生まれるわけですね。それで、運用の部分はどうされたのでしょうか?
小霜:ターゲットを見据えた段階で、以前から付き合いのあったサイバーエージェントの優秀なアカウントに相談して、“無駄打ちゼロ”を目標にプランニングしてもらいました。
仕事ができる、といったあいまいなセグメントを含めて検討し、中心的にはFacebook、サブでYouTubeだろうと。当時、Instagramは一部こだわりのある男性も始めていたのでそれも少し、あと若い人にも試してみようとTwitterも。内容と秒数違いの数パターンを配信しながら、PDCAを回していきました。
配信直後からSNSで話題になりましたが、それだけでは売れません。全体設計が大事なので、少し間を置いてキャッシュバックキャンペーンをリターゲティング配信したところ、これに大きな反響がありました。
広告賞獲得とセールスはときにトレードオフ関係に
小霜:意外だったのは、リターゲティングでオンラインセールスが伸びると思っていたら、店頭が動いたんです。それから、BtoBの問い合わせも伸びました。
有園:Webしかやっていないということは、そもそもの認知経路がWebしかないわけで、まさにWebでモノが売れたと。実際「S11」は品薄状態になり、2016年夏にはVAIO社は黒字化を発表しましたね。
小霜:黒字化には開発のコストダウンや、経営の転換などもあったと思いますが、すごく売れたことは事実です。2016年秋に展開した第二弾も、反響が大きかった。今は大学生にも人気が高まったので、新生活応援キャンペーンも実施しています。
有園:それにしても、クリエイターにもいろいろな生き様というか、賞狙いの人もいると思いますが、小霜さんは極めて売りにこだわられていますよね。それって元々ですか?
小霜:そうですね、僕、とにかく商品を売ってなんぼだとは前から思っています。20代のころは、広告賞も欲しかったし実際たくさんもらいましたが、次第に商品が動くほうが手応えを感じるようになってきた。
もちろん、両方狙えればいいんですが、賞とセールスはトレードオフ関係になりがちです。WebCMでいうと、全体予算3,000万円の全部を制作費につぎ込んでバズ動画を作れば、1,000万の動画よりはバズる可能性が高くなりそうですよね。そのほうが成功例として認められやすく、賞にも近い。