メディア運営とチケット販売で膨大なデータを有するぴあ
MarkeZine編集部(以下MZ):今、マーケティングへのAI技術の活用が続々と始まっています。今回は、自社メディア「ウレぴあ総研」にpopInのAIを搭載したレコメンド機能を導入して大きな成果を挙げている、ぴあの事例をうかがいます。まず、お二人の役割と、メディアや事業の内容を教えてください。
市川:私は当社のデータマーケティングを統括しており、ウレぴあ総研のグロースを含めた管理運営と、今年の5月に正式にリリースした「PIA DMP」の管理もしています。チケット販売情報を含めて当社のあらゆるデータを一元に蓄積してマーケティングに活かしています。
ウレぴあ総研は、チケットぴあで扱う各種エンタメのカテゴリーはもちろん、グルメやライフスタイルなど様々なカテゴリーのニュースやコラム情報を扱うメディアです。月間560万PVに上るディズニー特集を筆頭に、ママ向け、女子系、アニメや韓流など、単独で100万PVを超えるカテゴリーも多く、合計で月間2,200万PVを突破しています(PV数は2017年4月時点)。また、各種ニュースポータルやアプリなどへの記事提供も行っています。
山本:popInはメディア向け、広告主向けにそれぞれ事業支援ツールや分析サービス、広告配信ネットワークなどを提供しています。2015年にバイドゥと経営統合し、同社のテクノロジーを活用してさらなる開発を進めている状況です。私は主にメディア営業を担当し、レコメンドウィジェットを提供して収益化をサポートしています。
マニアックなサイトならではの悩みとは?
MZ:popInでは以前から提供していた記事のレコメンドウィジェット「popIn Discovery」に加え、今回AIを活用した画像レコメンド機能もリリースされたそうですね。この開発の背景をうかがえますか?
山本:スマートフォンの普及や回線状態の向上によって、今のユーザーはテキスト以外のビジュアル、画像や動画に接触する時間が大幅に増えています。こうしたコンテンツは感情に訴えることができるため、直感的な行動につながりやすい特徴があります。
また我々のクライアントである多くのメディア企業ではたくさんの画像コンテンツを資産としてお持ちです。なので画像のレコメンド機能も確立したいと以前から考えていました。さらに、バイドゥとの経営統合は両社の技術的なシナジー創出も目的のひとつだったので、同社の高い画像認識技術を活用した開発の一環でもありますね。
MZ:なるほど。ウレぴあ総研では、今回の機能を導入する以前はどういった課題があったのでしょうか?
市川:popIn Discoveryは3年ほど前から導入し、随時チューニングしていただきながら親和性が高い別カテゴリーの記事のレコメンドをしています。ですがやはり同カテゴリーの“縦回遊”が中心で。もっと直感的に訴求して“横回遊”を促せないかと考えていました。
コンバージョンが10倍に⁉ フォトギャラリーが有する可能性
MZ:先ほど、画像コンテンツはメディアの資産だというお話がありましたが、ぴあでも写真素材を多くお持ちですよね。
市川:ええ。ウレぴあ総研の通常の取材記事でも、ディズニーやグルメなど写真が膨大にありますし、近年急速に市場が広がっている「2.5次元(マンガやアニメ作品を舞台化したミュージカル)」だと公演自体の写真もたくさんあります。写真閲覧のニーズも高いので、各記事に付帯するフォトギャラリーページへのアクセスや滞在時間も長いですね。
写真には一枚一枚「Call to Action(以下、CTA)」ボタンを設置して、チケットぴあへの誘導やグッズ購買につなげています。あるグッズ販売のパートナー企業によると、フォトギャラリーを訪れるユーザーはそれだけ関心が高いことを意味していて、記事のみを閲覧したユーザーよりも購入のコンバージョンが10倍になることもあるそうです。
MZ:それは大きいですね!
市川:なので、そうした熱いユーザーこそ、親和性の高い別カテゴリーへも誘導したいのですが、フォトギャラリーの構成上、以前は別カテゴリーの写真を載せることができませんでした。また、ギャラリー下部にある広告枠は、写真との親和性が低かったので、反応が悪かったんです。
フォトギャラリーでの広告収益化や横回遊は諦めてユーザーの楽しみに特化するか、CTAは反応がいいので購買に戦略を振るか、など検討していたところでした。そこにpopInさんからAIによる画像レコメンドの機能を聞き、試してみたという経緯です。
マニアックなユーザーにも対応! AIによる画像レコメンド機能
MZ:導入後は、どのような見え方になったのですか?
山本:記事からフォトギャラリーに入ると「この記事の写真一覧」があり、その下に「こんな写真もオススメ」という欄が出てきます。ここに、AIを活用した画像レコメンドが働いています。
市川:ウレぴあ総研は趣味性が高いので、ユーザーが反応するかどうかは文脈がとても重要になります。関係ないと思われたらまったく反応しないので、そもそも文脈というものがない画像をマニアックなファンに向けて、どうやって判断するのだろうと最初は思ったんです。
しかし、ユーザーの動向をAIがどんどん学習し、ファンが見ると「ここでこの画像が出てくるのか!」というようなマニアックなレコメンドも可能になりました。また、前述のように瞬間的に感情に訴えてクリックやCTAボタンによる購買につながっていることも実感しました。
MZ:確かに、同カテゴリーならともかく別カテゴリーの画像を適切にレコメンド表示するのは難しいように思います。どうやって判断しているのですか?
山本:そもそもバイドゥの画像認識AI自体、写真のタグ情報などを利用せずに精緻に判断できるのが特徴なんです。ディープラーニングを用いて、色味や照明、自然なのか人工物なのかなどを識別して何が写っているかを把握し、4万カテゴリーに分類します。それに加えて、ユーザーの反応をどんどん学習していくので、使われるほど精度が高くなるわけです。
PVや滞在時間だけでなく広告とチケット購買にも成果
MZ:そうなんですね。では、導入後の成果をうかがえますか?
市川:4月20日に画像レコメンド機能を導入してから、今までリーチできなかった“横回遊”が17万回以上なされました。また導入前の1~3月と5~7月の3ヵ月ずつで比較したところ、大きく3つの側面で効果が上がっていました。ひとつはフォトギャラリー訪問ユーザーの平均訪問PVが23%増加、平均滞在時間が5%増加など、サイト接触の質・量ともに伸びました。
次に、フォトギャラリーを訪問した上でチケット購買をしたユーザーが、UUベースで30%増加していました。これはいちばん驚いた成果でしたね。記事より画像が直感的なアクションを促せることも、実感しました。
そこで、ウレぴあ総研を訪問かつチケットぴあも訪問したユーザーの各セグメントのUU数を確認したところ、ウレぴあ総研でよく扱うカテゴリーに関しては、セグメントのUU数が平均20%増加。それ以外のジャンルの増加は、6%の増加にとどまっていました。UUが増え、セッション数が多くなっているということは、リーチできるオーディエンスが増えるため、弊社のDSP事業にも寄与しているとわかりました。
MZ:フォトギャラリーを閲覧するユーザーは“熱い”ことが証明された形ですね。そのユーザーにリターゲティングをかけることもできますか?
市川:もちろん可能です。チケットぴあで得られるビッグデータを含めてDMPで分析し、相性のいいカテゴリーの掛け合わせを把握すれば、ピンポイントで横回遊を促すリターゲティングをかけられると思います。
フォトギャラリーの回遊を高めることで、全体の広告パフォーマンスの向上も見込めます。見直しを考えていたページでしたが、ここを活性化できればCTAの後押しにもなると見込んでいたので、理想的な活用に近づいて手応えを感じています。
データ活用を多軸化し、ユーザー像をより明確に
MZ:最後に、今後の展望をうかがえますか?
市川:まだ導入して間もないので、引き続き回遊性を向上させながら、広告収益にも力を入れていきたいです。また、フォトギャラリー訪問かつチケット購買ユーザーが30%増えたことは、当社全体においてもインパクトになるかと思うので、メディアのマネタイズだけでなく態度変容への貢献にも期待しています。
チケットぴあは、チケットを買うために来るサイトなので、ログイン率が約70%と高く、ユーザー属性や音楽、スポーツ、演劇などライブエンターテイメントに関する購買情報、興味関心情報は取れているんですね。ですが、チケットをあまり取り扱っていないグルメやライフスタイルなどのカテゴリーはウレぴあ総研のデータが蓄積されているので、これらをうまく多軸で掛け合わせることで、よりユーザー像が明確になります。
そうするとチケット取り扱いの営業にも好影響なので、データ取得の側面でも横回遊をもっと推進していきたいと思います。
山本:広告に関しては、今ちょうど案件を流し始めています。popInは動画クリエイティブも強みのひとつなので、動画広告も入れています。動画だとメディアに返せる収益も高いですし、フォトギャラリーという性質上、ユーザーの視聴態度も動画を観るのにマッチしており、ノイズになりにくいんです。なので、広告効果も期待できると思います。
我々のクライアントには、フォトギャラリーからCTAボタンで購買に結びつけるといったEC機能を備えたメディアは多くないので、今回のデータはありがたい結果でした。今後も技術開発に注力しながら、好事例を上げていきたいです。