ユーザーのニーズや文脈をリアルタイムに反映した広告表現
浦辺:それぞれ具体的にどのような取り組みをされているか、お話しいただけますか。
神内:先ほどお話しした「Dynamic DOOH」の事例になるのですが、当社のグループ会社であります、電通イージス・ネットワーク傘下のOOH専門エージェンシー、ポスタースコープの取り組みを2つご紹介します。
1つ目は、イギリス・ロンドンのサンタンデール銀行がスポンサーとなり、提供している「Santander Cycles」というShared Bike(自転車シェアリング)の事例です。
自転車シェアリングを使う時、レンタル拠点の場所に何台の自転車が残っているかがわかっていないと、行ってみたのに利用できない事態が起き、利用者が減ってしまいますよね。そこで、自分の最寄りに近い拠点の在庫状況を“リアルタイムマップ”としてデジタルサイネージに出すことで利用率を高めました。結果、キャンペーン前に比べてブランド認知は19%、サービスの利用率は16%上がりました。

2つ目はイギリスの酒造メーカー、ディアジオのリキュールブランド「PIMM’S」のキャンペーン事例。デジタルサイネージが置かれている場所の最も近くにあるパブの空き状況をリアルタイムで教えてくれ、それだけでなく天気や気温に応じてクリエイティブを変えるというものです。
対象のパブ店内にビーコンを設置して、5分ごとに空き状況を検知していて、例えば、晴れていて、かつ快適な気温で外の席が空いていれば、「今なら外の席が空いているよ、急いで」と最寄りのパブの状況に応じた適切な情報を表示してくれます。

お酒が飲みたくなる夕方に、この情報を届けることで思わず店に立ち寄る人が増え、商品の売上は前年比14%、場所によっては94%も上がったそうです。
これらの事例を見ると、IoTの技術を活かしてコンテキストに合ったクリエイティブをリアルタイムに掲出することで、より多くの人を動かせるようになってきていると言えます。
岩本:冒頭で少し触れましたが、グラスビューでは、PCやスマホだけでなく、ウェアラブルやIoTデバイスにおける動画広告の実証実験を行っています。
その活動が、アメリカの名門ビジネススクールとして知られるウォートン・スクールの目に留まり、広告の未来を研究する「フューチャー・オブ・アドバタイジング・プログラム(Wharton Future of Advertising Program)」に参加しています。学術的な観点にグラスビューが実務によって得たデータを提供する共同研究で、今後の広告フォーマットについてのインサイトを築きつつあります。
グラスビューが描いているのは、生活シーンの中で、そのとき気になった情報や必要なものをリマインドしてくれるような世界観。こちらの動画をご覧ください。
たとえば、ランニングに出かけようとしたときに、怪我することがないようウェアラブル端末で靴底の傷みを知らせ、新しいシューズをレコメンドしたり、忘れがちな記念日をリマインドして好みのレストランをレコメンドしたり、街で出会った走行中の車種を自動判別してスペック情報を提供したり……。
このように、生活者の“今”に寄り添い、PCやスマホを見ていない隙間時間に訴求する、「あって嬉しい余計なお世話」的な広告フォーマットが2020年には実現できるのではと考えています。
浦辺:お話を聞いていると、どんどん生活の中にIoTが組み込まれていき、IoT×マーケティングである「Marketing of Things」によって生活が豊かになっていくと感じますね。広告も、従来のような一方的に企業が発するメッセージを伝えるものではなく、ユーザーのタイムリーなニーズを読んでコミュニケーションしていくようなものへと進んでいくように思われます。