SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

MarkeZine Day 2017 Autumn

なぜUXは「広告以前」に大切?SBI証券がグッドパッチと挑む経営ゴトとしてのデザイン


会社はデザインに理解がなくても、消費者はUXにシビア

江川:そこでグッドパッチ様は、どういった改善案を示されたのでしょうか。

土屋:まず、今年の春にSBIインベストメントさんから資金調達と同時に、SBI証券さんのUXを変えていくというプレスリリースを出したら、めちゃくちゃ反響をいただいたんです。SNS上でも「グッドパッチがSBI証券のUIやUXを改善してくれるらしい、これは期待」みたいな投稿が多数されていました。

 それだけ一般消費者の方々が、既存の金融機関のシステムの使い辛さ、UXの悪さを認識しているということです。しかし、それは致し方ないんですよね。そもそも証券会社というのは、デザインを理解する機会すらないと思いますから。

阿部:そう…ですね…(苦笑)

土屋:(笑)。重要性を理解できないものに予算は回されるわけはありませんから「まずはお手並み拝見」という感じで、小さな改善で成果を積み上げていくことにしました。

 だから、一番短期間で数字にもわかりやすく成果が出るプロジェクトとして、まずはスマホ版Webサイトにおける口座開設導入部の改善から始めました。

GoogleVenturesが提唱するデザインスプリントに取り組む

江川:金融商品を買うためには、まず証券口座を作る必要があるわけですが、その導入部分を改善されたのですね。具体的にどのように進めたのか教えてください。

土屋:短期間で成果を出し、SBI証券の皆さんにデザインの重要性を理解していただくために、デザインスプリントというGoogleVenturesが広めたフレームワークを、担当者の方だけでなく社内の方もかなり巻き込む形で実施しました。

 このデザインスプリントというフレームワークは、「仮説を作って、それをもとにプロトタイプを作って、ユーザーテストまでする」という流れを、5日か10日という短期サイクルでやってしまうというものです。

 下の写真はデザインスプリントを実施している最中の風景です。会議室を一部屋、期間中貸し切って、何を検証すべきか、どうやって分類するか、ユーザーの姿はどのようなものか、スプリントで出てきた情報をすべて貼り出して可視化し、誰もが見られる状態にしました。

デザインスプリント中の“War Room”の様子
デザインスプリント中の“War Room”の様子

 この部屋に入ると、何をしてどういう結果が出ているか、すぐわかるわけです。“やってる感”も出ますしね。

阿部:やってる感を出すことは、組織を巻き込んでいく上ですごく重要なんですよね(笑)

土屋:しかも実際にちゃんとやってますしね(笑)

阿部:会議室の場所を確保するだけでも結構苦労しました。そんなに広いスペースを使う必要あるのか、とか言われて。結局、SBI証券内の部屋ではなくて、SBIグループのFinTech関連の新会社が集まるコワーキングスペースの一部を1週間借りました。

「たったひとりのUX担当」が会社を動かすために

土屋:阿部さんがUX改善のプロジェクトを進める上でどれだけ苦労されたかがうかがえまるエピソードですよね。阿部さんって、僕らと最初に関わったときは、たった一人でUX担当をされていたんですよ。

 SBI証券さん全体としてはたくさんのサービスがあるのに、孤高の人として阿部さんは頑張っていらっしゃる印象でした。でも僕たちと関わって、チームでデザインスプリントを回すことになり、阿部さんが次々に社内のいろんな人を巻き込んでくださいまして。

阿部:たとえば、このスライドに映っている人は人事部所属ですね。こうやって、金融商品に直接関わらない、金融商品についてもそれほど詳しくない部署の人にユーザーテストをしてもらうと、リアルな評価が得られます。UXの社内への啓蒙という意味でも、他部署を巻き込むというのは有効でした。

土屋:会社が縦割りになって、他部署や他チームと連携する機会が減ると、お互いがやっていることに無関心になりがちですよね。社内でデザインやUXの重要性を語っても、「何それ、知らないし」と言われてしまうこともあるでしょう。しかし、こうやっていろんな部署の方に協力していただけると、何をやっているのかわかっていただける。

阿部:そうですね。この人事部の人はユーザーインタビューの常連になってもらっています。普段、人事は開発に直接関わることがほぼないので、こうやって業務として携われることに喜びを感じてもらえて、積極的に参加してくれました。

ユーザーのことを1週間考え抜く

阿部:このようにお話しするだけではなかなか伝わらないかもしれないのですが、スプリントを2、3周回すのは、本当に大変でした! 1週間も部屋にこもってユーザーのことを考え続けるのは、大きな成果につながる分、精神的にもものすごくこたえます(笑)

土屋:スマホの口座開設に関する改善なので、メインターゲットは投資未経験者にして、そこから細かい要件を作っていきました。その後「体験の整理」をしました。まず大きなステップごとにユーザーの行動を洗い出し、タッチポイントやそこで生じる思考を検討します。そこから「タッチポイントごとにユーザーにとってどんな課題が出てくるか」を考えて、「感情曲線」を作りました。

阿部:このプロセスでも、気づきが多かったですね。感情曲線ってあまり考えたことがなかったので、「なるほど、このプロセスは面倒くさいって思ってるよね」などと、タッチポイントに沿って感情を考えなきゃいけないということは、勉強になりました。

次のページ
他チームのメンバーと協働して、経営層の心を動かす成果物を作る

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
関連リンク
MarkeZine Day 2017 Autumn連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

東城 ノエル(トウジョウ ノエル)

フリーランスエディター・ライター
出版社での雑誌編集を経て、大手化粧品メーカーで編集ライター&ECサイト立ち上げなどを経験して独立。現在は、Webや雑誌を中心に執筆中。美容、旅行、アート、女性の働き方、子育て関連も守備範囲。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2018/02/15 13:37 https://markezine.jp/article/detail/27563

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング