顧客体験にとって重要なのは”ファーストパーティデータ”
―ーOracleはData Cloudをプッシュしている。SAP Hybrisのデータへのアプローチは?
Ruebsam氏:SAPは2017年秋に「SAP Data Hub」を発表した。データを動かすことなくデータのワークフローを定義して活用できる技術だ。SAP HybrisはData Hubの優先的なユースケースと言える。データはバックオフィスだけでなく、フロントオフィスからもデータは生成されており、Data Hubとの連携はSAP Hybrisにとって重要な土台のレイヤーになる。このData Hubと「SAP Cloud Platform」(PaaS)によりAPIエコシステムを強化できる。
我々のアプローチは、あらゆるデータを利用するという点だ。調達、顧客、財務……あらゆるデータだ。今後AIが進み、データを融合できることが大切になる。(機械学習の)モデルを使ってサービスを改善できる。たとえば価格の最適化をしたい場合、モデルの構築にはデータサイエンティストとたくさんのデータが必要だ。そして、時間とともに学習し、ビジネスを改善しなければ機械学習とは言えない。
我々は、企業が直接顧客から収集するファーストパーティデータにフォーカスしている。顧客体験にとって重要なのは(サードパーティデータではなく)ファーストパーティデータであり、今後さらに重要性は高まると見ている。
―ーAIでユーザーインターフェイスはどのように変わるのか?
Ruebsam氏:UIはSAP Fioriを利用しており、複雑性を隠し、簡単に使える。機械学習、深層学習など新しいパラダイムがインターフェイスを変えて、データをすべてスクロールしながら見るのではなく、必要なエッセンスだけを効率よく得られるようになる。我々はMarketing Cloudだけではなく、すべてのアプリケーションでAIを導入していく。
SAP Hybrisの次の一手は?
SAP Hybrisは今回、初めて拠点の独ミュンヘン(Hybrisはスイス企業として設立されたが、共同創始者はミュンヘンの大学生(当時)であり、本社機能は現在もミュンヘンにある)を離れてイベントを行った。
前回のミュンヘンでのイベントでは、熱狂的なファン層に支えられた”濃さ”を感じたが、今回のバルセロナでのSummitはSAPカンパニーの一員としてこじんまりとまとまった”大人になったHybris”を感じた。その割には、SAPとの統合や連携の話が少なかったのはやや残念に感じた。SAP顧客にアプローチできる格好のポジションにありながら、例えばSAP HybrisのコマースソリューションとBtoB向けの調達ネットワークSAP Aribaとの接続や、SAP Hybrisが”YaaS”として進めるマイクロサービスとSAPのPaaS「SAP Cloud Platform」、データ連携ソリューション「SAP Data Hub」との連携の話が出てこなかったのは残念だ。
マーケティングでは、CTOのMoritz Zimmerman氏は「SAPはついにマーケティングでリーダーになった」と宣言したが、このインタビューからもわかるように、電子メールをはじめとした機能面で古参ベンダーのソリューションと比較すると不足があることも認めている。フォーカス分野を絞って強化していくとしているが、そのヒントとなりそうなのがイベント中マーケティング分野の最大のニュースとなったGigyaの買収だ。直前に発表されていたものだが、Gigyaは顧客アイデンティティの管理ソリューションベンダーで、一貫性のある顧客プロファイルを常に最新のものにし、セグメントを強化できる。
YaaSに見られるように、SAP Hybrisは技術力を強みとする企業で”オムニチャネル”でも先行した。今回、コマースでは”チャネルレス”と新しい方向性を打ち出し、課金ソリューションのレベニューでは先進的なサブスクリプション機能も提供する。今後は、SAP Hybirs自身が「主戦場」と認めるマーケティングクラウドで、より明確な差別化が見えてくると期待したい。