SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

おすすめのイベント

おすすめの講座

おすすめのウェビナー

マーケティングは“経営ごと” に。業界キーパーソンへの独自取材、注目テーマやトレンドを解説する特集など、オリジナルの最新マーケティング情報を毎月お届け。

『MarkeZine』(雑誌)

第106号(2024年10月号)
特集「令和時代のシニアマーケティング」

MarkeZineプレミアム for チーム/チーム プラス 加入の方は、誌面がウェブでも読めます

業界キーパーソンと探る注目キーワード大研究(AD)

サイト内検索はなぜ「接客」なのか 三井不動産とZETAが取り組む大規模O2O施策の根幹に迫る

 「Mitsui Shopping Park &mall(以下、&mall)」は、ららぽーとに代表される大規模商業施設の運営を手がけてきた三井不動産が、2017年11月に新しく開設したファッションやインテリアをテーマとするECモールである。約200のショップからスタートし、1年以内に約400ショップに拡大を予定しているという「&mall」。この巨大なサイトでの快適なショッピング体験の提供を支えるのが、ZETAが提供するEC商品検索エンジン「ZETA SEARCH」だ。三井不動産の黒岩氏とZETAの出張氏、中川氏に、両者が実現しつつあるサイト内検索による「接客支援」について話を聞いた。

「リアル店舗共生型モール」として誕生した「&mall」

 「ららぽーと」、「ラゾーナ」、「ダイバーシティ」は三井不動産が手がける大型ショッピングセンターで、多彩なテナントショップを入居させることで、消費者が丸一日遊べる工夫をしている。

左から三井不動産株式会社 商業施設本部 &mall事業室 主事 黒岩哲也氏、ZETA株式会社 エンタープライズ事業部 中川茜氏、ZETA株式会社 執行役員 エンタープライズ事業部 副部長 出張純也氏
左から、三井不動産株式会社 商業施設本部 &mall事業室 主事 黒岩哲也氏、ZETA株式会社 エンタープライズ事業部 中川茜氏、ZETA株式会社 執行役員 エンタープライズ事業部 副部長 出張純也氏

 とは言え、消費者がせっかく出かけたにもかかわらず、店舗に欲しい商品がないとなると、ショッピング体験の質は低下してしまう。そこで「モールに来る前に『&mall』を見れば、どのショップにどんな商品があるかがわかり、欲しい商品に確実に出会え、購入につながるような体験を提供する必要がありました」と黒岩氏は「&mall」の狙いを明かす。

 「&mall」の位置付けは「リアル店舗共生型モール」にあるという。「ファッションECサイトを運営している事業者は他にもあります。後発の三井不動産が独自性を出すためには、リアルの商業施設を運営しているからこそできるECモールにしようと思いました」と黒岩氏は説明する。

 「&mall」をリアルとデジタルをシームレスにつなぐオムニチャネルプラットフォームとして位置付けた背景には、単なるネット販売ではなく、リアルの店舗と組合わせてお客様に価値を提供する形にしたいという構想があった。

 施設に入るテナントショップは主に二つの課題を抱えていたという。

一つは、ECとリアル店舗間における『在庫の偏り』の問題です。単純にEC専用の在庫を持たせてしまうと、店舗で機会損失が生じてしまうケースです。逆も然りで、店舗専用の在庫をつくると、ECで機会損失になりえます。

 もう一つは、リアル店舗において、顧客が欲しい商品が品切れで機会損失が発生してしまう問題でした。欠品率の平均は10〜20%ですが、金額にすると大きいのでなんとか解決したいと考えました」(黒岩氏)

「&mall」で検索機能が決定的に重要だった理由

 このような課題を踏まえ、「&mall」の開設をサポートしたのが大手ECをはじめアパレル業界で圧倒的な検索ツール提供実績と豊富なノウハウを持つZETAである。「&mall」の場合、一般的なECのようにカテゴリー軸で商品を探すやり方だけでなく、施設単位で商品を探す他のECサイトにない検索軸を必要としていた。三井不動産の要件を満たすEC商品検索・サイト内検索エンジンだったのが「ZETA SEARCH」である。

 三井不動産が導入したサイト内検索の目玉の一つが、Webでの「接客」を実現する「商品提案」だ。ZETA SEARCHにおいて、商品を勧めるトリガーとなる行動は、具体的には商品ページの閲覧、カートへの投入、お気に入り登録、購入の4つとなる。

 「欲しい商品が決まっていない場合でも、ある商品のページを見たとしたら、少なくともカテゴリー単位でのニーズをつかむことができるはずです。さらに、色や価格帯の好みを類推できるので、そのカテゴリーと類似する商品を紹介できます」と出張氏は述べる。黒のジャケットのページを閲覧していれば、好みの色系統や価格帯が推察できる。実際にカートにジャケットが入れば、コーデが完成するボトムスを提案することもできるというわけだ。

 しかも、あらかじめ過去の行動データを学習させる必要のない、商品ベースの「教師なし学習」を活用して、商品同士の関連性を基に精度の高いコーディネートを提案できるのだという。この点は、ゼロから新しいECサイトを立ち上げようとする三井不動産にとって価値があったと出張氏はみている。

売り場作りに生かす「&mall」のランキングデータ

 三井不動産が検索を重視したのは、ファッションECのヘビーユーザーだけでなく、ららぽーとのようなモールに直接来る顧客に対し、わかりやすい接客と案内をするためだ。そこで、検索窓にフリーワードを入力して商品を探すやり方だけでなく、トップページでのランキング情報の表示にも工夫を凝らした。

 黒岩氏は、何が売れているかをお客様に気づいてもらい、「&mall」の商品内容や価格感をつかむきっかけを作りたいと考えたという。

 「お客様がECモールで何度か商品を見て、買いたいと思ってカートに入れたとします。この時、実店舗の店員であれば、お客様がトップスの購入を決めたら、同じブランドのボトムスもお勧めするような提案をごく自然に行っているはずです。同じように、サイトでもコーディネートから「ついで買い」したくなる動線を作りたかったのです」(黒岩氏)

 サイト内検索エンジンは、販売力の高い店員と同じ役割を期待されているのだ。

 さらに、ランキング情報は、施設側のVMD(Visual Merchandising)にも役立てているという。VMDとはモールの中の通路や広場に展示するものだ。「施設全体での売れ筋のカテゴリーや売れている商品を統合的に把握できるようになりました。他方で、ショップ単位のランキングを掲載すれば、VMDでの展示にも役立てることができ、季節ごとの商品トレンドをお客様に知ってもらうことができます」と黒岩氏。

 400店舗超が入居しているららぽーとTOKYO-BAYのような規模になれば、1人が一度の来館で立ち寄る店舗は10から12店舗で、ほぼ固定している傾向があるのだという。実際に買い物をするのはその中の2、3店舗に絞られるとすれば、ZETA SEARCHに基づくVMDでの展示は、普段行かない店舗に行くきっかけ作りに役立つはずだ。

 「オープンしたばかりのころは、どんな商品を扱っているかを理解してもらうため意図的に集約していましたが、現在では『ファッション』『コスメ』など、需要に合わせたカテゴリー別のランキングを見せています」と黒岩氏は話した。

実店舗とECのトータルな成長にサイト内検索が貢献

 ランキングデータの表示は、ZETA側がカスタム開発で提供しているものだという。三井不動産としては、実店舗に来て商品を探してもらいたいし、ネットで検索して見つけてもらった商品を置いている店舗に行きたいとも思ってもらいたい。「&mall」での検索体験の設計では、三井不動産の商品提案への思いがしっかりと反映された。

 ZETAの中川氏は、「レコメンドエンジンではなく、検索エンジンで商品提案ができることが、三井不動産様のモールの構想とうまくマッチしたと思います。また、実店舗とECサイトとの連携を進めていきたいという三井不動産様の思いにZETAが貢献できると思いました」とZETA SEARCHが導入前を振り返った。

 米国と比べると日本は商圏が狭く、実際に出かけて商品を見て試したいと考える消費者が多いという特徴がある。「新しい商品との出会い」は、実店舗だからこそ実現できることもある。けれども、ECサイトを運営している企業の中には、実店舗を管轄する部門とECを管轄する部門が異なり、部門間で競争しているケースもある。

 「ECを強化することで、逆に実店舗での売上が減ることを懸念しているわけですね。三井不動産様の場合、実店舗でもECでも売上としては同じ扱い。会社全体としての成長を重視されているために、今回のお取り組みが実現しました」(中川氏)

 ZETA SEARCH導入後も改善は続いている。検索結果の表示内容については、省略文字を使うケースもあるため、読み替えのための辞書に追加したい項目が日々発生するのだという。

 出張氏は、「キーワードの検索についてはまだまだ磨けます。三井不動産様には他にも実現したい機能がたくさんあるとうかがっています。引き続き、ショップの絞り込み、音声検索、スマートフォン利用時のUI、位置情報の活用など、新しい機能を積極的に実装していきたいと考えています」と今後の改善の方向性について語った。

続く最適な在庫連携への取り組み

 ECと店舗の連携で課題となったのは何だったのか。この点について、黒岩氏は冒頭で述べた店舗側が抱えていた二つの課題に関連付け、在庫データとの連携を指摘した。

 「ファッション店舗の在庫変動は非常に激しいのです。ネットで商品を検索した時にはあったはずの商品が、店舗に行ってないとわかるとお客様は不満に思います。店舗によってもばらつきがあるので、在庫の持ち方に加え、データ連携のやり方とスピードを改善していきたいですね」(黒岩氏)

 消費者のショールーミングにもWebルーミングにも対応できるECモールにするために、在庫データの連携は「&mall」の今後の成長の鍵を握りそうだ。欲しい商品の在庫があることを「&mall」上で正確に把握できていれば、顧客自身がどの店舗に行けばいいかがWebからわかる。

 また、来店してみて欲しい色やサイズの商品が売り切れていたとしても、他の店舗に該当する商品があれば、その場で購入して自宅へ配送するよう手配し、購入を終わらせることができる。

 「&mall」で取り扱う商品点数は多いため、連携するデータ量が多く、処理に負荷がかかるのだという。黒岩氏は、「データ連携でのページ更新頻度を増やしていきたいのですが、更新の希望は店舗によって違うので、一律に同じではなく柔軟に対応していきたいと考えています」と語った。

 さらに、黒岩氏は次のように続ける。「昨年11月のオープン以来、お客様の利用は順調に進んでいます。やりたいことはたくさんあり、まだまだ伸ばせると考えていますが、すでに他のモールと比較しても好調に推移している店舗も出てきています。店舗があってこそのECですから、ECの成長と合わせて店舗をどう伸ばすかに取り組んでいきたいです」と今後の抱負を述べた。

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
関連リンク
この記事の著者

冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタントとして活動中。...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2018/02/27 12:08 https://markezine.jp/article/detail/27781