※本記事は、2018年2月25日刊行の定期誌『MarkeZine』26号に掲載したものです。
抑制できたマーケティング・広告費用は、何に再投資すべきか
デジタル広告領域における透明性の課題への関心が日米で高まっている。特にCPG(消費財)企業の雄、P&Gがネット広告の停止や費用削減(2017年第2四半期で約160億円/1.4億ドル)し、売上へのマイナス影響はほとんどなかったという発表は、日本でも大きな話題となった。
そんな中、P&Gで異変が起きつつある。昨年11月、P&Gは「物言う株主」であるトライアン・ファンド(以下、トライアン)のネルソン・ペルツ氏を、2018年3月1日付で取締役として受け入れると発表した。当初P&Gはペルツ氏の迎え入れを拒否していたが、一転させている。そのトライアンからのP&Gに対する提言書『REVITALIZE P&G TOGETHER』をもとに、背景を考えたい。
数々のヒット製品を世に送りだしてきたマーケティング帝国のP&Gの体制や手法は時代の先端のように思う読者も多いだろう。実はその逆で成長を止めていると、トライアン(ペルツ氏)は大きな視点でP&Gの現在の組織構造にメスを入れてきた。防戦だったP&Gの現行経営陣が聞く耳を持ったのは大きな出来事である。
たとえば広告投下に関しては効率化を狙う「グローバル横断的」なマーケティング統括組織で「配分」するのではなく、マーケティングやIT開発費を含めてブランドにP/Lを依存させる「一点突破型」を(特に新規ブランドでは)提案する。
P&Gの現行チームによる主にデジタル広告費を調整し約160億円を削減した発表に対して、トライアンはこれを近視眼的な利益の見せかけだと指摘。「その浮いた費用がブランド・ビルディングという名の下に衰退していくブランドに転化され消えている。広告費を超えた未来の新規再投資には向けられていない」と言及している。実際P&Gの企業価値はユニリーバや競合他社と比較して、伸び率では最下位に近い。
P&Gは2008年に「Naturella」をローンチして以来、ここ10年間は新ブランドを開発できていなかった。トライアンは、毎年計上している約2,000億円(18.7億ドル)に及ぶR&D費とは一体何に貢献していたのか、と疑問を投げかける。D2C(Directto Consumer)ひげ剃りブランドの「Dollar ShaveClub(ユニリーバが買収)」や「Harry’s」は過去5年で10%のマーケットシェアを獲得し、対照的にP&GのGilletteは13%落としている。広告費とR&D費には境目はなく、これらの「成長ドライバーを握る費用」は成長少ないブランドへの「配分」で終わらせてはいけない。さらに大きな成長機会がある「Small, Mid-sized & Local」ブランドに向けて「浮かした費用」を再投下すべきだと主張する。
本コラムはデジタルインテリジェンス発行の『DI. MAD MAN Report』の一部を再編集して掲載しています。本編ご購読希望の方は、こちらをご覧ください。