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テレビのビッグデータを知る(前編)

 テレビの共通指標である視聴率に加えて、昨今新たなテレビのマーケティングデータが登場している。本稿では視聴率の実態とテレビのビッグデータを紹介し、その活用方法を探りたい。前編ではビデオリサーチとスイッチ・メディア・ラボの識者の協力のもと、「視聴率」と「視聴データ」を解説する。

※本記事は、2018年5月25日刊行の定期誌『MarkeZine』29号に掲載したものです。

目次(テレビのビッグデータを知る・前編)

●視聴率とは?
タイムシフト視聴を合わせた総合視聴率で評価
テレビの価値を多角的に測れる時代に
●視聴データとは?
テレビ×デジタル補完と最適化の二大活用
ターゲット含有率をデジタルでの補完に活用

視聴率とは?

――回答協力:ビデオリサーチ テレビ事業局 局長 橋本 和彦氏/ビデオリサーチ ソリューション事業局 エグゼクティブフェロー 石松 俊之氏

タイムシフト視聴を合わせた総合視聴率で評価

――日本におけるテレビの共通指標として、長らく「視聴率」が用いられてきました。その定義と調査方法、近年の変化などについてお教えください。

 テレビの共通取引指標である「視聴率」は、テレビ番組やテレビCMがどのくらいの世帯や人に見られているかを示す指標のひとつです。テレビ保有世帯のうち、テレビをつけている世帯の割合で、一般的に使われる「視聴率」は世帯視聴率のことを意味します。日本では当社、ビデオリサーチが調査しています。

 現在、関東地区では900世帯で調査が実施されています。その900世帯は、関東地区の世帯の縮図となるように、時代の人口動態に合わせて調査対象世帯が選ばれています。関東地区では一人暮らしや核家族の増加により、世帯数は増えている一方で、世帯内の家族人数は減少しています。視聴率調査はこのような世帯特性の変化が反映されています。

 ご存じのとおり、昨今は少子高齢化が進んでいるので、それにともなって世帯内個人の年齢割合も変化しています。

図表1 世帯内個人の変化
図表1 世帯内個人の変化

 図表1の年齢構造を見るとわかるように、50歳以上の割合が増えたことにより、彼らの視聴が視聴率動向に大きく影響するようになりました。逆に34歳以下の割合は、2000年には44.3%を占めていたのが、2017年時点では32.0%にまで縮小しています。これは若い人の世帯視聴率への影響力が下がっていることを指します。

 こういった調査対象者の年齢構成比まで把握しておかなければ、視聴率が表す意味を読み間違い、番組の価値を見誤ってしまう可能性があります。

――録画視聴をはじめ、地上波放送を様々な形で楽しめるようになった今、従来の視聴率だけではなく「総合視聴率」を見ることの重要性が言われています。こちらについて解説いただけますか?

 昨今、スマートフォンやスマートテレビ、各種レコーダーの普及により、人々の視聴形態は多様化しています。その中で最も顕著な変化が、タイムシフト視聴の増加です。タイムシフト視聴とは、自宅のレコーダーで番組を録画し、後から視聴することと定義しています。

 前述の視聴率は、リアルタイムでの視聴を表す指標です。このリアルタイム視聴率にタイムシフト視聴率を足し、重複分(リアルタイムで視聴し録画でも視聴した分)を除いた値が、総合視聴率です。

 ビデオリサーチでは2016年10月より、関東地区でのタイムシフト視聴のデータ提供を開始しました。2018年からは関西地区・名古屋地区においても測定を開始します。このタイムシフト視聴は、放送後7日以内にテレビ受像機で視聴されるものを対象としています。これによって、従来の視聴率には反映されていなかったタイムシフト視聴による番組視聴の実態が明らかになりました。

 また、これまではテレビCM(スポット)の広告取引指標には世帯視聴率が使われてきましたが、今年の4月から個人全体視聴率に変更となり、さらにタイムシフト視聴率も加味した指標で取引する仕様に移行されました(関東地区のみ)。

――タイムシフト視聴が多いジャンルや、タイムシフト視聴をする視聴者の特徴などはありますか?

 特にドラマ、アニメ、映画などのジャンルの番組は、タイムシフト視聴でよく見られる傾向にあります。一方で、ニュースやスポーツといった番組はリアルタイム視聴の傾向が強いです。

 またタイムシフト視聴の世代的な特徴としては、絶対的な時間量では若い人よりも年配の人のほうが多いものの、各年代内でのリアルタイムとタイムシフト視聴の比率を見ると、若い人ほどタイムシフト視聴の割合は大きくなっています。性別では男性よりも女性のほうがタイムシフト視聴の傾向が高いです。

 昨今、通信環境の整備が進み、スマートフォンでテレビ番組を視聴する若者も増えています。そういったネットでの視聴も計測できるよう、準備を進めています。

テレビの価値を多角的に測れる時代に

――今、テレビにおいてもビッグデータの活用が期待されています。その際のポイントなどをうかがえますか?

 「テレビがネット回線につながれば、視聴率調査は必要なくなる」というのは、放送のデジタル化とともに、随分前からある考え方です。メーカーが万単位のテレビやレコーダーから収集している視聴記録や、放送局によるデータ放送を使った取り組みなど、より多くの視聴データを扱える機会は実際に増えています。

 それらは編成や視聴者の推計、広告の到達等に関する分析に使われることが多いようです。他の様々なデータと組み合わせることで、テレビCMとネット広告の統合プランニングや、実際の出稿条件として利用するといったことが可能になっています。当社のVR LINC構想もそれへの取り組みのひとつであり、データ活用基盤の構築や活用そのものをサポートすることを考えています。

 現状、ネットにつながったテレビ、データを詳細に取得できているテレビは世の中にあるテレビの一部なので、そのデータでトライアルを進めながらも、どこまでの判断をそのデータに委ねてもよいか、それは利用者の見識も問われるところになります。

 その動きとは別に、パネル調査でテレビ視聴、Web利用行動、購買行動等を組み合わせたデータに対するニーズは、生活者の情報行動と購買行動の変化にともない拡大してきています。当社でも、シングルソース(同一対象者)で、テレビ視聴とWeb利用を機械式で測定する「VR CUBIC」を提供しているのは、テレビ視聴による刺激が、ネット上での行動(検索や購買など)と、どのように関係しているのかを研究・検証するための利用を意図しています。

 データの充実がテレビのメディア価値を示す材料になることを当社としても目指しています。購買など行動に直結しないメディアは、過小評価されがちでもあるので、構造を説明するチカラ(分析力)を当社もより高めていく必要があると考えています。

――テレビには、そもそも“万人向け”とも言える特徴があると思いますが、セグメンテーションや最適化といったデジタルマーケティングの概念をテレビの施策に持ち込むと、できることが増える一方で、真価を活かせないこともあるのかもしれません。この点へのお考えをうかがえますか?

 ご指摘のように、テレビはターゲットを定めてピンポイントで狙うよりは、その周辺や想定外の部分までターゲットを拡張したコミュニケーションを得意とします。ただ、時間帯などによって当然視聴者には一定の傾向がありますし、指標の多様化もあり、広告主や広告会社によるテレビメディアの使い方も幅が広がっているでしょう。テレビとネットの役割が違うと一口に言っても、代替、補完、分担など、いろいろな組み合わせが考えられます。

 そのため、まずはテレビをここではどういう目的で使うのか、明確に合意した上で施策を検討することが重要だと思います。それがテレビの効能を最大化し、またデジタルマーケティングの概念を持ち込むことによるリスクやデメリットを軽減する一助にもなるのではないでしょうか。

――視聴率とその他のデータを組み合わせる際の注意点は何でしょうか?

 視聴率はカレンシーデータ、一方で最近登場している新しい指標はマーケティングデータと大別されています。ただ、そもそもこれまでもテレビCMは視聴率で評価されたり、別途テレビCMの認知や評価を調査して、購買データと併せて評価されたりと、視聴率は他のデータと並行して使われてきました。なので、まったく独立した存在というわけでもないと捉えています。

 しかし、デジタル化にともなって様々な行動データが蓄積されるようになった今、生活者一人ひとりの行動や意識に沿って、コミュニケーションを最適化したいという企業のニーズが高まっています。その要請に応えるため、当社も対応範囲を広げているところです。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/06/07 11:21 https://markezine.jp/article/detail/28415

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