アフィリエイトにデータドリブンと透明性を
デジタルマーケティングにおいて離れ小島だったアフィリエイトの領域に、変化が起き始めている。ネスレ日本は、アフィリエイトの強化に際し、PARTNERIZE(以下、パートナライズ)が提供するパートナーマーケティングプラットフォームを導入した。アフィリエイトにデータドリブンの概念と、データに裏付けられた透明性がもたらされたことで、これまで隠されていた様々なメリットや可能性に気付いたという。
これからのアフィリエイトの可能性について、MarkeZine編集長の押久保が、ネスレ日本の村岡氏とパートナライズの北本氏に話を聞いた。
押久保:はじめに、ネスレ日本さんがパートナライズを導入して、アフィリエイトに注力し始めた背景をうかがえますか?
村岡:ネスレ日本は、2020年までにECの売り上げを全体の20%まで高めることを目標としています。この目標に向けて、EC案件でアフィリエイトに取り組み始めたところ、アフィリエイトによる売り上げが重要なシェアを占めるようになってきたので、本腰を入れてアフィリエイトに取り組もうと考えました。
ところが、当時我々が行っていたアフィリエイトには、そもそもデータドリブンという概念すらなく、何が課題かもわからない状況でした。データがなく、不透明な部分も多かったので、PDCAを回すことができなかったんです。こうした問題を解決したいと考えたのが、パートナライズ導入のきっかけですね。
北本:アフィリエイトに本格的に取り組もうとした時に「データが取れない」「戦略的に考えることができない」という問題にぶつかるのは、他の企業様にも共通している課題です。
社外のネットワークでアフィリエイトの情報交換をすることは、ほとんどないと思います。クライアントの立場で参考になるアフィリエイトの記事も少ないんですよね。そんな中でマーケターがやれることは、媒体に対する報酬を上げて、自社の商品をしっかり扱ってもらえるようにすることくらいなのでは、と思います。
アフィリエイトの本質を理解していますか?
押久保:確かに、アフィリエイトはSEOやリスティングに近しいくらい、デジタルマーケティング領域の黎明期からある手法ですが、MarkeZineでもあまり取り上げたことがありませんね。テクノロジーによってデータドリブンな世界は急速に広がっています。広告の世界ではもはや当たり前になってきた環境が、ようやくアフィリエイトの領域にもやってきたという感じですね。
なぜアフィリエイトは、ずっとデジタルマーケティングの中で離れ小島のような存在だったんでしょうか? 「成果報酬型だから損をすることはない」と安心してしまっていたんですかね。
村岡:そうですね。加えて、クライアント側がアフィリエイトの構造を深く理解していなかったことも大きく関係していると思います。北本さんも先ほど仰っていましたが、これまでアフィリエイトにおいて、マーケターがコントロールできるのは、報酬単価くらいでした。
ですが、本質的にマーケターが考えるべきなのは、「パブリッシャーが作成するコンテンツやその中のキーワードをどうするのか」です。
となると、我々クライアントが直接会話をしなければならない相手は、代理店やASPではなく、パブリッシャーということになります。アフィリエイトのビジネスについて、本質的な部分を理解していないから、発展もしないし、手が付けられなかったのかなと思いますね。我々の場合はそうでした。
北本:本来であれば、クライアントとパブリッシャーが直接会話をして、商品やサービスのPRの質を良くしていくべきですが、代理店やASPなどが間にいるので、なかなか難しいのが現実です。よってパブリッシャー側も「クライアントから何を求められているのか、さっぱりわからない」となってしまう。
一方で、クライアント側はそもそもアフィリエイトに課題や限界すら感じていないケースも多いのでは、と思います。
データがあれば、アフィリエイトも「運用」できる
押久保:パートナライズの創業者は、元々ASPをやってらしたんですよね。これまでうかがってきたような課題感から、プラットフォームの開発に至ったのでしょうか。
北本:そうです。弊社は2010年にイギリスでスタートした会社です。当時イギリスでもアフィリエイトはあまり進化していませんでした。そこで、テクノロジーの力でアフィリエイトを発展させようと発起したという経緯があります。
中でも強く課題を感じていたのが、アフィリエイトにおける不透明性です。当社が提供しているプラットフォームは、パブリッシャーの情報を可視化するものです。媒体のCVデータをはじめ、LTVデータ、ユーザー動線など様々な情報を獲得することができます。また、弊社のプラットフォームはAPIをベースにしているので、他のツールと連携させて色々な角度からデータベースを分析できるようになっています。
押久保:ネスレ日本さんがパートナライズを導入して半年くらい経過していますが、率直にどのような変化がありましたか?
村岡:やはり、透明性の部分が一番大きい変化ですね。どのようなパブリッシャーがいるのかに加え、パブリッシャーごとの獲得率などもダッシュボードから毎日把握することができます。
通常、アフィリエイトでは、デイリーで数字を追いかけるのは不可能です。弊社もこれまでは、ウィークリーやマンスリーで上がってくるレポートでしか、状況を把握することができませんでした。ですが、パートナライズの導入後は、デイリーで数字を追いかけることができるようになったので、PDCAのスピードが格段に上がりましたね。
押久保:このご時世、ウィークリーやマンスリーでは遅すぎますね。
村岡:ええ。PDCAのスピードが上がることで、KPIの達成スピードと達成率も向上しました。デイリーで進捗状況を把握できるので、先のことを考えて施策を打てるからです。
状況が見えるようになって、「アフィリエイトの運用ってこんなに大変だったんだ」と思いましたよ(笑)。そのくらい、それまでのアフィリエイトに欠けていた数字や施策が見えてくるので、沢山のアクションが生まれています。
パブリッシャーにも「ネスレ愛」がある
押久保:パブリッシャーは、皆さん個人でやっていらっしゃるんですか?
村岡:2~3人の会社だったり、もう少し大きい会社さんもいらっしゃいますよ。パートナライズさんは、パブリッシャーをたくさん紹介してくださいます。初めてパブリッシャーさんに直接お会いした時は、あまりにもイメージと違いすぎて驚きました。
押久保:と言うと、どういうことですか?
村岡:パブリッシャーの「ネスレ愛」がすごくて。お会いする前は、価格の交渉をされるんじゃないかとビクビクしていたんですが、話してみると全然違いました。
「どういう意図でビジネスをされているんですか?」「この製品のコンセプトはなんですか?」などと、消費者目線で質問してくださるんです。価格の話は、一切出てきませんでした。
我々が情報をお伝えすることで、パブリッシャーさんはサイトの情報をアップデートできますし、コンテンツのクオリティも良くなりますからね。もちろん、我々にとってもパブリッシャー側のモチベーションやインサイトを理解できたことは、アフィリエイトを運用していく上で、貴重な材料になっています。
アフィリエイトの枠を超えた「パートナーマーケティング」とは
村岡:パブリッシャーは、インフルエンサーと同じような位置づけで考えることもできます。パブリッシャーを我々のファンとして育てることができれば、我々の代弁者として、商品やサービスに関してポジティブなことを書いていただけるからです。
押久保:なるほど。それは、既存のアフィリエイトの枠を超える考え方ですね。
北本:ええ、アフィリエイトというと広告主とパブリッシャー、その間にASPや代理店がいるという座組がずっと一般的でした。
ですが、さらに発展していくと、当社のプラットフォーム上では、企業同士で送客し合うなどといった取り組みも可能です。我々は、これを「パートナーマーケティング」と言っています。
押久保:それは新しい手法ですね。詳しく教えて下さい。
北本:端的に言うと、パートナーマーケティングは、競合しておらず、かつ顧客ベースが近しい企業同士でお互いの顧客ベースを活用するというものです。
たとえば、ホテルビジネスを展開する企業と航空会社が、自社のサイトで相手のことを紹介するなどという取り組みが考えられます。他にも、飲料メーカーとお菓子メーカーなどの協力関係もあり得ますよね。
お互いに協力し合って、成果が出た分だけ報酬のやり取りをする。当社のプラットフォームはグローバルで通貨対応までしていますから、支払い処理まで一貫して行うことができます。
押久保:パートナーマーケティングは、欧米ではすでに発展しているんですか?
北本:徐々に沸騰してきていますね。ごく一般的な手法とはまだ言えませんが、パートナーマーケティングの可能性に気づいてらっしゃる企業様は多いです。本当に多様なビジネスが生まれる可能性があるので、今後が楽しみですね。
統合的なメディアのROI向上を目指して
押久保:村岡さんも、パートナーマーケティングにはご興味がありますか?
村岡:すごくあります。今後、ぜひやっていきたいと思っているところです。
今は、個人情報を企業同士で交換することは、規則的な面で厳しいですよね。ですが、パートナライズのプラットフォームでは、バナーにタグを仕込むだけで送客し合うことができるので、個人情報のやり取りをする必要がありません。これは非常に魅力的ですよね。
自社の商品について、他社からメッセージを送るのと自社で送るのでは、説得力が全然違ってくると思っているので、積極的に取り組んでいきたいです。
押久保:では、これまでの話を踏まえて、改めて今後の展望をお聞かせください。
村岡:弊社はここ2年くらい、PDCAのスピードを上げ効率化を進めることで、KPIを達成することを目標にしてきました。これに向けて、複数の企業様のマーケティングツールを利用していますが、パートナライズのプラットフォームデータを他のマーケティングツールと連携させ、統合的にメディアのROIを向上させていきたいです。
押久保:パートナライズでは、どのような目標を掲げていますか?
北本:現在の目標は、SaaSのプラットフォーム上におけるパートナーエコシステムを確立させることです。従来のアフィリエイトマーケティングだけでなく、企業間のパートナーマーケティングを日本市場で浸透させるために、そのサポートをしていきたいですね。今回、企業としての呼称を「パフォーマンスホライズン」から「パートナライズ」に変更した理由も、ここにあります。
そのためには、今後はパートナライズ自身のパートナーシップも強化していく必要があります。パブリッシャーと販売代理店、運用代理店、場合によってはASPなどをつなげ、エコシステムを拡大していきたいです。また、ネスレ日本さんのようなベストプラクティスを蓄積しながら、パートナーマーケティングの可能性を伝えていければと思います。