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スモールマスはデジタルに閉じたものではない。データ起点でコミュニティを発見、売上を拡大した花王の事例

スタートは既存購入者の分析から。「ビオレ 冷シート」のマーケティング戦略

――続いて、「ビオレ 冷シート」の事例をお伺いします。

花王株式会社 コンシューマープロダクツ事業部門 ビオレ事業部 朱 静(シュ・セイ)氏

朱:女性用のボディシートの発売は1999年のことです。ビオレが市場を牽引し、2010年頃までは市場が拡大してきたのですが、直近の約8年は市場が鈍化していました。

 今回の「ビオレ 冷シート」の背景には、だんだん日本が暑くなってきていることがあります。ボディシート発売当初1999年の7月の平均気温は25.9℃でしたが、昨年の2017年は27.3℃と高くなっています。今年も「災害レベルの猛暑」と報道されるほど、暑さが続いています。そういった環境変化の中で、お客様のニーズも変化しているんです、

 花王と生活総合情報サイトの「オールアバウト」で行った共同調査では、20~40代女性の中で半数弱が暑がりだと回答しています。さらにそのような暑がりを自覚する女性の2割の方が、男性用の冷却アイテムを使っていることがわかったんです。

――男性用のボディシートを使う女性が、増えているんですね!

朱:実際にその方たちにインタビューしてみると、「男性用のボディシートは大きくて、全身を拭ける」や「メントールやエタノールの配合率が高いので、清涼感を感じて気持ちいい」とのことでした。

 ただ、その一方で、一部の方には不満も上がっていました。男性向けの香りがもの足りなかったり、冷却成分の刺激が強すぎると感じる方や、恥ずかしいからこっそり使うという方もいました。そんな方たちに向けて、清涼感が強いが刺激は控えめで、香りもパッケージも女性向けの「ビオレ 冷シート」を開発しました。

広末:先ほどの「ブラックプリマ」の事例と同様に、今回も既存購入者の分析が製品開発のスタートでした。

「冷」の文字がパッと目を引くパッケージです◎

――今回の「ビオレ 冷シート」のマーケティング戦略の全体像を教えてください。

朱:夏のイメージが強い商品ですが、発売は2月上旬でした。これは夏の間に店舗に置いてもらうために、2月から発売することでシーズンインでの店頭展開に乗り遅れないようにするためで、需要が最も大きくなる夏に向かって、口コミなど話題を盛り上げておく必要がありました。

広末:「Solid(手堅い施策)×Trend(トレンド)×Scenario(シナリオ)×Total(トータル)」という4つの視点に基づき、プランニングをしました。噛み砕くと、手堅い施策やトレンドと掛け合わせ、時間軸を考慮して各施策が連動したシナリオにするということです。

 具体的には、2月5日の発売に向けて1月にECサイト先行で施策を実施。2~3月は需要が少ないので、その間に冬でもボディシートを使うようなホットヨガをしている方などにサンプリングを実施して、口コミを集めておきました。並行してYouTubeやFacebookなどの動画広告、Instagram施策を実施し、商品が売れ始める4~5月に向けて情報を拡散していきました。

 そして5月には電車のドアステッカーやバスシェルター、ニュースアプリやDSPでのバナー広告配信もスタートし、7~8月の繁忙期に向けて生活者との情報接点を増やしていきました。7月にはインフォマーシャルも実施しましたね。

 地味な施策からだんだんと話題を広げていきました。大事なのはお客様がどのタイミングでどんな情報を欲しているのか。それを逆算して、トータルで施策を設計していくのが重要です。

朱:今回はタレントに指原莉乃さんを起用しましたが、テレビCMは制作しませんでした。指原さんはファン層が広く、ご自身でも積極的にSNSで発信をされる方なので、指原さんのアカウントをフォローしている人にターゲティングし、そのファンの方たちのリツイートなどで話題化を狙いました。

スモールマスはデジタルに閉じたものではない

――今まさに繁忙期のシーズンだと思いますが、売れ行きはいかがでしょうか?

広末:現在、女性用のクールボディシート市場で1位を獲得しています。

朱:施策は狙い通りでした。「昨年は男性用のボディシートを買っていた方」はもちろん、「ボディシートを新規に買った方」も購入者の4割となり、市場の拡大にもつながりました。売上目標シェア5%を狙っていましたが、今はその3~4倍のシェアを獲得し、6月時点での売上個数で200万個を超えています

――スモールマスの施策では口コミが重要な役割を占めると思うのですが、ネット上での話題化の点ではいかがですか?

広末:Instagramでの口コミやリーチなど追っていますね。2月5日の発売から、7月5日まででTwitterの延べ配信数で約10億回のリーチ、Instagramが190万回となっています。Twitterは指原さんから広がっていったことが大きいですね。

朱:先ほどお話ししたように、発売当初からEC先行のサンプリングで口コミを醸成する施策を行っていました。コスメと比べて、ボディシートは口コミされずづらいのですが、良い反応をいただいています。

――今回の施策が成功した一番の理由はなんだったと思いますか?

朱:大きく2点、生活者との接点をきめ細かく増やせたことと、パッケージです。

 外に出たら電車の広告を見かけて、それが気になって検索して口コミを見る、何気なくニュースを見ていたら「ビオレ 冷シート」を目にするといったような情報の細かな接点設計がうまくいったこと。そして商品の特性が店頭ですぐにわかるように、「肌温度-3℃」というコピーを全面に出して、わかりやすいパッケージにしたことです。

――一連の複合的な施策を考えていく上で、デジタルマーケティング部からはどういったアドバイスをされたのでしょうか?

広末:まずはターゲットを明確に決めて行くところから、色んなデータを見ていきましたね。そして「スモールマス」という言葉に、あまり捉われすぎてはいけないと思っています。

 「その人たちだけに届ければいい」という考え方に陥りやすくなるので、ターゲティングしすぎるのも良くない。スモールマスなんだけど、接点もスモールにしないように、施策に関しては、市場全体を見てどうしたら話題になるかといった視点で設計をするのが大事なのではないかと思っています。

 「ビオレ 冷シート」も最初は、「男性用のボディシートを買う女性」だけにピンポイントでターゲティングするだけでいいのでは、という議論がありましたが、それだけだと知る人ぞ知る商品になってしまい、広く話題にすることが難しい。結果、絞ったはずのターゲットすら動かせないで終わることが多いです。

 私はデジタル関連の部署ですが、施策はデジタルだけでなく、PR活動やOOHなど、世の中ごとを感じさせる接点をトータルで組み合わせることが重要だと考えています。

――スモールマスの施策は決してデジタルに閉じたものではないんですね。興味深い事例の共有、ありがとうございました!

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この記事の著者

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/07/26 08:00 https://markezine.jp/article/detail/28851

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