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【楽天インサイト×キーパーソン対談】生活者の意識と行動を捉えるデータインサイトの未来(AD)

【ユーグレナ社出雲充氏と考える】企業経営とマーケティングにおけるミッション・ビジョンの大切さ

 いかに生活者が共感できるミッション・ビジョンを掲げられるかがマーケティングにおいても重要となってきている。楽天グループにおいて生活者分析を提供する楽天インサイトの田村篤司社長が、「another future.~ミドリムシが地球を救う~」というスローガンを掲げるユーグレナ代表取締役社長CEOの出雲充氏と対談。二人は東京大学時代からの付き合いだという。学生時代からの志を振り返りながら、経営者として、マーケターとして、ミッションやビジョンの大切さについて語り合った。

食べ物はある、足りないのは栄養素

田村篤司(以下、田村):私と出雲さんとは、東大時代の国際交流サークルの同期です。出雲さんは当時から、バングラデシュでインターン活動をしたり、文系から農学部に転部してミドリムシに注目したりと、すごく行動力がありましたね。

出雲充(以下、出雲):行き当たりばったりというか愚直というか……、私はサークル内ではマイノリティだと自覚していました。ほとんどが田村さんのように法律・政治・経済を学ぶ学生で、社会はどうあるべきかという大きな理想像から、何をすべきかを考えていらっしゃった。一方、私がバングラデシュに行ったのは、「最貧国は食糧不足で困っているのでは」というシンプルな問いについて、自分の目で確かめ、経験から学ぶためでした。

写真左から、株式会社ユーグレナ 代表取締役社長CEO 出雲 充/楽天インサイト株式会社 代表取締役社長 田村 篤司
写真左から、株式会社ユーグレナ 代表取締役社長CEO 出雲 充
楽天インサイト株式会社 代表取締役社長 田村 篤司

田村:それが起業の種になり、今のユーグレナ社があるわけですよね。

出雲:おかげさまで、東大発のベンチャーとして初めて東証一部に上場できました。バングラデシュで知ったのは、米という主食はあっても、栄養素が不足している事実でした。「食べるものはある、栄養素がない」んだと。現地の方と一緒にカレーを毎日食べていたのですが、具がひとつも入っていない。飽きます。でもそれしか食べるものがない。米と具のないカレーだけ、だから栄養失調になっていたんです。そこで私は、「豊富な栄養素を含む天然物を大胆に養殖する」という解決策を考えました。

「うまくいったら次へ」帰納的なアプローチ

田村:その“天然物”がつまりミドリムシだったわけですね。ミドリムシは、人間が必要とする栄養素のほぼすべてを含む、ということで一躍注目を集めましたが、それだけでなく優れた光合成による二酸化炭素排出削減への活用や、バイオ燃料化、飼料化に関しても注目し研究をされていますね。ただ、ミドリムシはとにかく培養が難しく、かなりのご苦労があったとか。諦めずにこられた成果ですね。

出雲:諦めなかったことは、確かに今につながっているでしょうね。アタマがいい人ほど見切りが早く、諦めも早いですね(笑)。一方、私は基本的に、考え方が帰納的なんです。やってみて、うまくいったら次へ、その次へと続けていく。農学がそもそもそういうスタンスで、新種の米だって植えてみなければわからないわけです。私共のビジネスパートナーについても、2004年の起業から丸2年、500社に営業してやっと1社目の伊藤忠商事と出会いました。

田村:先ほど愚直とおっしゃいましたが、出雲さんのその信念と粘り強さが今につながっているのは間違いないと感じます。

出雲:田村さんは、私からみると考え方がすごく演繹的だった。社会のあるべき姿を最初に構想する。法学部ご出身ですから官僚志望だったのではないですか? なぜビジネスの道を選んだのでしょうか?

田村:実は、東大の法学部で学びながらも、強い違和感があったんです。

学生時代の使命感と経営者への道

田村:私が学生だった2000年前後の日本は長い不況の中にありました。その一因として、官僚主導経済が問題となり、巨大な権力を誇った大蔵省が再編され、政治主導として内閣府が発足したりもしました。そんな社会のリーダーシップの形が議論されているにも関わらず、そういう議論ができる学生が法学部のなかでも少なく、司法試験や国家公務員試験といった試験合格を目指して予備校に通う学生が多いのが気になりました。もちろん、努力することは素晴らしいことですし、個々人の選択を否定しませんが、社会全体でみると、社会のレールが固定的で多様性に欠けると映りました。当時、シリコンバレーのIT革命のなかで多様なビジネスリーダーが生まれていたときでもありましたからなおさらです。なので、そこに危機感を覚えて、固定されたレールから降りることを恐れない生き方をしようと。一方、当時の金融危機に対する問題意識をもち続け、違うやり方でも日本経済の再生につながる貢献ができるはずだという考え方から、金融の仕事を選んだのです。

出雲:私が最初に金融の世界に入ったのとは異なる考え方ですね。

田村:そしてその後、ビジネスリーダーの大切さを考えさせられ、使命感を胸に、仕事に取り組んできたことは大きかったかなと思います。

出雲:そうだったんですね。私は当時から、田村さんや志ある仲間がまさに「天下国家」を語るように社会のあるべき姿を議論するのを聞きながら、こういう人材は日本にとって大事だし必要だと思っていました。一方で私自身には他にやるべきことがあるのではと思っていたのです。

田村:それは、なんだったんですか?

出雲:私が最も尊敬する日清食品の創業者、安藤百福さんの言葉である「食足世平」、やはり私はこっちなんです。天下国家を考えられる人には考えてほしいけど、でも全員がそうなっておいしいものがなくなったら困る。食足りて世が平和で、その上に複雑な国家社会機構が成立していくものだろう、と。そして、ミドリムシと出会ったこととの自然な延長で、経営の道に入りました。

強い中核技術がさらに強い技術を引きつける

田村:出雲さんの根幹にはそんな考えがあったんですね。それぞれの信念の下に突き進んで、今こうして話せているのはとても貴重です。

出雲:そうですね。私は天下国家のことをよく知りませんが、本当に同じサークルにいたんですよ(笑)。

田村:私も新卒入社した金融業界では、実力を含めて現実に直面して、使命感どころではなかったですよ。でも、当時の金融システムが標榜していたものがリーマン・ショックで破綻し、多くの社員が不幸になった経験から、リーダーシップの重要性を改めて認識しました。そこから自分自身が経営リーダーになると志し、縁あって今に至っています。ところで、ユーグレナ社は伊藤忠商事を皮切りに、複数の出資社が集まった経営の形になっていますよね。オープンイノベーションで大事なことは、なんだと思いますか?

出雲:ベンチャーのオープンイノベーションで大事なのは、やはり強力な中核技術です。絶対にリプレイスメントができない革新的な技術があれば、そこに同じくトップレベルの技術を有する企業が注目し、集まってくれる。たとえば日立製作所が設計したプールで日本ユニシスのAIを使ってミドリムシを培養するといった技術の掛け算の実現です。こうしてもう誰も入ってこられない強固なビジネスになっていくのだと思います。

理念とビジョンが人を惹きつける

田村:確かにそうですね。それに加えて、出雲さんが掲げる経営理念がパートナー企業を惹きつけてきたのではないですか。ユーグレナ社は経営理念に「人と地球を健康にする」と掲げられていますよね。出雲さんがその経営理念を掲げたことで、イノベーションに参加しようという人や組織を惹きつけている。私が今注目しているのは、マーケティングの世界でも、経営理念やミッション・ビジョンが人を惹きつけるようになりつつあることなのです。生活者を、商品やサービスを消費し便益を求めるだけの単なる「消費者」と捉えるのではなく、世の中をよくしようという価値を求める「人間」であるとする考え方が、フィリップ・コトラーなどのマーケティングの権威によって唱えられ、支持を得てきています。

出雲:そういう視点はとても新鮮ですね。確かに、ユーグレナ社の商品を買ってくださるお客様には、「健康にいい」といった物質的価値で買う方以外に、私たちの社会貢献の意図を支持してくださるお客様もいます。また、株主の数も非常に多く、約9万人の個人投資家に支持いただいています。

田村:それは素晴らしいです。ユーグレナ社が地球を救うことを理解したら、たとえば「健康にいいから」と孫に飲ませていたおじいちゃんが、その行為自体が「地球を後世に残していくことにつながる」という思いに変わり、さらに買い続けるようになる。これはもう、他のどんな企業も割り込めない商品価値、ビジネス価値になりますね。ミドリムシは、二酸化炭素の排出削減という環境価値など多様な可能性について研究をされていますし、世の中をよくしようという価値を求める人々が応援したいブランドとして成長してゆける可能性を感じます。その観点でも、ユーグレナ社はとても興味深い会社です。

マーケティングの変化

出雲:どうしたら、その最強のモデルを実現できますか?

田村:そうですね、逆説的ですが、企業がみずから社会のためになる会社だと情報発信をし過ぎるとしらけてしまうとも言われています。生活者から生活者への口コミが一番信頼される時代ですから。ですので、まずはこれまでどおり、機能性食品としての基本価値を経験いただいてリピーターを増やしていって、その信頼関係があるなかで、さらに「地球のためにもなる」というようなメッセージを添えるという順番でよいように思います。楽天インサイトとしては、ユーグレナ社はネットでよく検索され、オンラインで売れやすい商材でもありますので、我々が保有しているログデータを用いて購買者の購入導線やコミュニケーションの有効性を分析することもできます。そこから生活者の深層心理に迫る王道のリサーチサポートも含め、総合的に支援することができるでしょう。

出雲:なるほど。楽天インサイトはリブランディングを経て、かなりデータドリブンのマーケティングに注力されるのだと思ったので、そうした人間的な価値の話が上がるのは意外でした。

田村:生活者が求めるものがモノの便益だけでなく、ブランドのミッション・ビジョンに対する人間的な共感でもあるというのなら、それも含めて意識データと行動データを活用し、支援していくべきなのだと思います。人が求める価値、そしてマーケティングのあり方は進化していきますから、分析のあり方も柔軟に捉え、本質的なサービスを心掛けていきたいと思います。

株式会社ユーグレナ 代表取締役社長CEO 出雲 充

 1980年生まれ。東京大学農学部卒。2002年東京三菱銀行(当時)入行。2005年8月株式会社ユーグレナを創業。同年12月、微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養に世界で初めて成功。内閣官房知的財産戦略本部『知的財産による競争力強化・国際標準化 専門調査会』委員(2010年)等を務めた。2015年、第1回「日本ベンチャー大賞」内閣総理大臣賞受賞、第31回「企業広報賞」企業広報経営者賞受賞。著書に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。』(ダイヤモンド社)。

楽天インサイト株式会社 代表取締役社長 田村 篤司

 2002年に東京大学卒業後、米国系総合金融グループであるシティグループ(東京)に入社。2009年ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院にてMBA取得。米国系戦略コンサルティング会社であるブーズアンドカンパニー(東京)での勤務を経て、2012年に楽天インサイトに入社。同社では、分析組織の強化を進めながら、海外事業の強化、ビッグデータ分析組織の設置や広告事業との提携などを手がける。2016年より現職。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

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MarkeZine(マーケジン)
2018/12/20 10:00 https://markezine.jp/article/detail/28868