食べ物はある、足りないのは栄養素
田村篤司(以下、田村):私と出雲さんとは、東大時代の国際交流サークルの同期です。出雲さんは当時から、バングラデシュでインターン活動をしたり、文系から農学部に転部してミドリムシに注目したりと、すごく行動力がありましたね。
出雲充(以下、出雲):行き当たりばったりというか愚直というか……、私はサークル内ではマイノリティだと自覚していました。ほとんどが田村さんのように法律・政治・経済を学ぶ学生で、社会はどうあるべきかという大きな理想像から、何をすべきかを考えていらっしゃった。一方、私がバングラデシュに行ったのは、「最貧国は食糧不足で困っているのでは」というシンプルな問いについて、自分の目で確かめ、経験から学ぶためでした。
田村:それが起業の種になり、今のユーグレナ社があるわけですよね。
出雲:おかげさまで、東大発のベンチャーとして初めて東証一部に上場できました。バングラデシュで知ったのは、米という主食はあっても、栄養素が不足している事実でした。「食べるものはある、栄養素がない」んだと。現地の方と一緒にカレーを毎日食べていたのですが、具がひとつも入っていない。飽きます。でもそれしか食べるものがない。米と具のないカレーだけ、だから栄養失調になっていたんです。そこで私は、「豊富な栄養素を含む天然物を大胆に養殖する」という解決策を考えました。
「うまくいったら次へ」帰納的なアプローチ
田村:その“天然物”がつまりミドリムシだったわけですね。ミドリムシは、人間が必要とする栄養素のほぼすべてを含む、ということで一躍注目を集めましたが、それだけでなく優れた光合成による二酸化炭素排出削減への活用や、バイオ燃料化、飼料化に関しても注目し研究をされていますね。ただ、ミドリムシはとにかく培養が難しく、かなりのご苦労があったとか。諦めずにこられた成果ですね。
出雲:諦めなかったことは、確かに今につながっているでしょうね。アタマがいい人ほど見切りが早く、諦めも早いですね(笑)。一方、私は基本的に、考え方が帰納的なんです。やってみて、うまくいったら次へ、その次へと続けていく。農学がそもそもそういうスタンスで、新種の米だって植えてみなければわからないわけです。私共のビジネスパートナーについても、2004年の起業から丸2年、500社に営業してやっと1社目の伊藤忠商事と出会いました。
田村:先ほど愚直とおっしゃいましたが、出雲さんのその信念と粘り強さが今につながっているのは間違いないと感じます。
出雲:田村さんは、私からみると考え方がすごく演繹的だった。社会のあるべき姿を最初に構想する。法学部ご出身ですから官僚志望だったのではないですか? なぜビジネスの道を選んだのでしょうか?
田村:実は、東大の法学部で学びながらも、強い違和感があったんです。