新たなメッセージづくりでブランド成長を促進
次に考えるべきは、「ブランド成長」。ここでは、イントロダクションの段階とは異なった新たなメッセージづくりが求められる。寺田氏は、森永乳業のギリシャヨーグルト「パルテノ」のブランディングに携わった当時を振り返った。

「この時はまだキャズムという考えはなかったんですが、ある時気がついたら売り上げが伸び悩んでいました。それが2013年頃です。今思うとあれがキャズムだったんだと思います」(寺田氏)
「キャズム」とは「溝」を意味する言葉で、ブランド成長の初期段階から、大衆層(メインストリーム)へと転換していく際に訪れる、いわばマーケターにとっての1つの壁だ。
当時「ギリシャヨーグルト」という市場が日本で浸透していない時期にあって、寺田氏は上述のイントロダクションのステージにおける戦略を実施。マス広告でオールターゲットに訴求するのではなく、アーリーアダプターをターゲット層に設定した。レストランとのタイアップや、女性にとって憧れの的となるようなタレントの起用などで、「オシャレなデザート」というブランドイメージを打ち出したという。
しかし、その後売り上げの急激な伸び悩みに直面。「キャズム」を前に寺田氏は、商品の価格を見直すなど、マスに向けたリブランディングを行い、再びブランド成長の軌道に乗せることに成功した。
変化や流行に対する受容性が高いアーリーアダプターに対して、キャズム後のターゲット層となるマスは「実利主義者」だと寺田氏は語る。商品の概要を説明しただけのメッセージでは、マスには刺さらない。初期段階で発信したメッセージを刷新し、生活者のニーズを満たす利益を提示したアプローチが、ブランド成長には欠かせないという。
ブランドの提供価値を根付かせる、真のブランディング
続いて寺田氏は、ブランドステージの3番目に「真のブランディング」があることを述べた。
「なぜ3番目なんだと、最初からブランディングをしているじゃないかと思われる方もいらっしゃるかと思います。ただ、最初にやるべきことは、商品の提供価値をしっかり伝えることだと思っております」(寺田氏)
寺田氏のブランディングは、商品の提供価値を顧客にしっかりと伝えたところで始まる。コンテンツマーケティングやCRMなどの活動は、あくまでも「一定程度普及した商品の価値をさらに伸ばしていくためにある」と考えるからだ。

同社のチルドカップコーヒー「マウントレーニア」のブランディングにおいて寺田氏は、認知度が高いにもかかわらず想起率が低いという課題に着手。長年続けていたテレビCM施策によりストーリー性を持たせ、話題のタレントを起用しながら顧客との関係づくりに徹した。結果、SNSで投稿される口コミも「カフェラッテ」から「マウントレーニア」へと変わっていったという。
「マウントレーニア」というブランドの商品価値が顧客に根付いた状態での顧客との関係づくりが、成果に寄与したケースだといえるだろう。
ロングセラーブランドは「体験記憶」で活性化
4番目のブランドステージ「ロングセラーブランド」においても、適切な戦略を考えていく必要がある。

「ピノ」は、森永乳業が40年以上にわたって販売し続けるアイスクリームのロングセラーブランド。親、子、孫の3世代に愛されるブランドだが、寺田氏の言葉を借りれば、「嫌いじゃないけど好きな理由がない」状態に陥っていた。

そこで、チョコレートがコーティングされていない状態のピノアイスを自分たちでコーティングし、トッピングやチョコペンで自由にデコレーションすることができる「ピノフォンデュカフェ」をデザイン。これがInstagramなどSNSのシェアにつながり、ブランドの活性化に至った。「売り場で値下げをしなくても、売り上げが立つことがわかった」と寺田氏は語る。
体験によってブランドを顧客の記憶に残すことで、ロングセラーブランドは活性化する。