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インターネット広告の歴史と未来

【勝負は意外な結末に】Yahoo! JAPANを巡るOvertureとAdWordsの攻防


AdWordsがOvertureに勝利 決め手は「品質スコア」

杉原:この頃は楽しかったですね(笑)。日ごとの売上がそれまでの記録をどんどん更新していくわけです。

佐藤:目標未達は1日たりとしてなく、大幅に売上目標を上回っていました。

杉原:急激に売上が伸びたのは良いのですが、その反動もありました。Overtureでは最初の見積もりやキーワードの入稿をOverture側で行っていたのですが、営業からのRFP(提案依頼書)を処理できない数が500~600件ほどに積み上がってしまい、何ヵ月も見積もりが出せなくなってしまったのです。

杓谷:市場規模が急激に大きくなっていくなかで、Overtureの営業オペレーションが追いつかなくなってきたわけですね。一方のAdWordsは完全セルフサービス型だったのでOvertureのようなオペレーション上の問題は生じませんでした。じわじわと両社に差が出てきました。Yahoo! JAPANでの勝負に決着がついたのもこの頃ですね?

杉原:はい、その通りです。Yahoo! JAPANのトラフィックをOvertureとAdWordsで50:50に折半していたので、AdWordsの様子はちらほらと耳に入ってきていました。とあるデータでAdWordsのクリック率がOvertureの倍だったという結果を見て、「これは負けた」と思いました

杓谷:次の図は、「広告ランク」を因数分解した方程式です。「広告ランク」は「上限入札単価」と「品質スコア」(当時はクリック率のみ)の掛け算で決まります。「広告ランク」を因数分解していくと最終的に「広告ランク」とは「上限インプレッション単価」であることがわかります。

杓谷:つまり、「広告ランク」とは、ユーザーの支持=クリック率を掲載順位の決定式に組み込むことで、1インプレッションあたりの収益が最も高くなる広告を上位に表示させる仕組みだったわけですね。

 OvertureとAdWordsの違いの1つがこの「広告ランク」だったことは冒頭で触れました。「品質スコア」を通じてユーザーの利便性を高めることが結果的に検索エンジンの収益と広告主の売上を最大化させる。このことが当時日本最大級のトラフィックを誇るYahoo! JAPANを舞台にした壮大なABテストで証明されたわけです。

杓谷:「品質スコア」はその後、デバイスの多様化などによって様々な要素を追加していきましたが、すべてはユーザーのクリック率をより正しく予測するためのものです。ユーザーの利便性を大事にするという姿勢はAdWordsの開始当初から「Google広告」と名前を変えた現在も一貫して変わっていません。

 現在まで続くGoogleの躍進は、この「品質スコア」の概念の発明から始まったと言っても過言ではないでしょう。後に登場するFacebook広告もこの「品質スコア」の概念を取り入れて大きく成長していきました。

米Yahoo! Inc. がOvertureの買収を決定

杉原:Yahoo! JAPANにどちらが売上を多くもたらすかという勝負では完全に負けたな、と思っていたタイミングで、運命のいたずらか2003年7月に米Yahoo! IncがOvertureを買収することが決定しました。その影響で、2004年6月からYahoo! JAPANの検索結果は100%Overtureになることが決まりました。Overtureのサービス開始が2002年12月なので、ここまで約2年弱の出来事ですね。

佐藤:勝負がついた矢先にOvertureの買収が発表されました。Googleとしては、次の契約更新でYahoo! JAPANの検索結果は100%AdWordsになるのでは、と期待していた矢先での出来事だったので大きなショックでした。Yahoo! JAPAN経由の売上はAdWordsの大きな部分を占めていたので、その後が大変でしたね。

杓谷:丁度同じ頃、2004年の8月にOvertureとGoogleの訴訟も和解になりましたね。

参考:『有料検索めぐる特許論争でGoogleとYahoo!が和解』(ITmedia NEWS)

杉原:その後、Google側が大手を振ってAdWordsを販売できるようになったことを考えると、この和解が結構大きかった気がします。当時としてはかなりの金額でしたが、その後のビジネスを考えると約300億円の和解金額はかなり小さいように感じます。

杓谷:これ以降、日本の検索連動型広告市場は圧倒的にOverture優位の体制となっていきますが、Googleは2004年に上場を果たし、成長の速度を加速していくことになります。

 Yahoo! JAPANを巡る攻防ではAdWordsが勝利するも、米Yahoo!がOvertureを買収したことで、Yahoo! JAPANの検索結果は100%Overtureが占めることになりました。少額の広告予算で中小企業が自由に広告を出稿できる世界を作ったのはOvertureとAdWordsの功績のひとつと言えるでしょう。

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この記事の著者

杓谷 匠(シャクヤ タクミ)

Jellyfish Japan株式会社 Data Strategy Director
2008年に新卒一期生としてグーグル株式会社に入社。2010年にスタートアップの立ち上げに参画したのち、しばらく川原でひざを抱える日々を経験。2013年からトリップアドバイザー株式会社にてSEMアナリスト、BIアナリストを経験したのち、20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/01/29 10:05 https://markezine.jp/article/detail/28982

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