※本記事は、2018年8月25日刊行の定期誌『MarkeZine』32号に掲載したものです。目次はこちら!
●様々な生活者の視点からイノベーションを創発
株式会社LGBT総合研究所 森永 貴彦氏
●インクルーシブなマーケティング視点への発想転換
株式会社電通 電通ダイバーシティ・ラボ 阿佐見 綾香氏
●単に「市場」と捉えない姿勢が肝要
株式会社リクルート住まいカンパニー 田辺 貴久氏
様々な生活者の視点からイノベーションを創発
国内にLGBT市場など存在しない――。LGBT総合研究所では様々な調査・研究を経て、LGBTに対する理解が進まない国内において、カムアウトが進まない現状では巨大な市場は存在しないと結論づけました。
グローバル化や少子高齢化が進み、国内企業の多くが、ダイバーシティ&インクルージョン推進への取り組みを、単なるCSR活動ではなく、経営戦略の一環として、企業の収益性や成長性につなげようと考えているからです。こうした中、これまで注目されてこなかった「セクシュアリティ」というアイデンティティへの関心が一気に高まり、LGBTに対する経済効果への期待も高まっているのです。
LGBT総合研究所では、LGBTの消費意識や行動特性などを詳細に調査してきましたが、L/G/B/T各セグメントの傾向はそれぞれ異なっており、決して一括りにできず、セクシュアリティ別のマーケティングは非効率であると考えています。
一方、男女二元論や従来型の性年代によるマーケティングでは気がつかなかった視点をLGBTから学び、新たな機会領域の発見に活かしていくことの重要性を、トライ&エラーから見出しました。
多様性社会においては、様々な生活者の視点で、新たな価値創造をしていくことが重要です。LGBTマーケティングの本質とは、LGBTを知り、その感性を活かし、イノベーションを創発していくこと。生活者ドリブンなマーケティングにこそ、新たな市場創造が待っていると考えています。
株式会社LGBT総合研究所 代表取締役社長 森永 貴彦氏
2016年、LGBT総合研究所を博報堂DYグループ内で設立。LGBTに特化したマーケティングエージェンシーとして、傑出した成果をあげ、企業研修やコンサルティング、セミナー等で多数の登壇をもつ。著書に『LGBTを知る』(日経文庫)がある。
インクルーシブなマーケティング視点への発想転換
LGBTが受容される社会では、企業のマーケティング活動をよりインクルーシブなものへと進化させることが求められます。近年では、LGBTは特別な存在ではないという理解が主流になりつつあります。そしてLGBTフレンドリーな企業を応援する消費傾向が、当事者以外の層にも波及しています。弊ラボの調査では当事者以外の層の52.7%の人がLGBTフレンドリーな企業の商品・サービスを積極的に利用したいと答えました。
今、多様な人々の存在を前提とした新しいサービスの在り方が問われています。例えばジムや温泉など更衣室が必要な施設が、トランスジェンダーの人を含め誰にとっても使いやすくなると、皆で一緒に遊びに行けるようになります。LGBTフレンドリーを感じるレジャー施設では同性カップルと異性同士のカップルがダブルデートを楽しめるでしょう。
商品やサービスを考える時に重要なポイントは、対象をLGBT当事者だけに限定せず、LGBTの理解をしながら当事者の人たちと一緒に創るインクルーシブなマーケティング視点への発想転換です。当事者の目線から事実を把握して施策を考えることが必要不可欠で、一緒に商品・サービスを考えていくことが機会損失を防ぎ、新たな価値を創り、皆で一緒に楽しく消費できるインクルーシブな社会を創ります。もはや特定業種だけではなく、すべての業界で無関係ではなくなっています。多様化への対応の前例はまだ少なく、正解もありません。だからこそ、LGBTの課題へ向き合うそれぞれの企業の、各社らしいアイデアのあるアクションこそ今後注目するところです。
株式会社電通 電通ダイバーシティ・ラボ(DDL)
チーフ・リサーチャー 阿佐見 綾香氏
早稲田大学卒業後、2009年電通入社。戦略プランナーとして、化粧品・アパレル・食品会社を中心に数多くの企業のマーケティング戦略、事業・商品開発、リサーチ、企画プランニング、インナー改革プロジェクトなどを担当。ダイバーシティに関する企業向け研修や講演、施策やアイデアなどソリューションを提供し、みんなが楽しく暮らせるダイバーシティ社会の形成を目指す。日本におけるLGBTを取り巻く現状と、LGBTを中心として広がる消費に関する日本唯一(当時)の大規模調査を実施。「レインボー消費」の研究を重ねる。その他、聞き取りやすい音や音響環境の認証を目指すプロジェクトや、家族の形の多様化へ向き合う「ライフ・ユニット・プロジェクト」など、ダイバーシティに関する複数のプロジェクト開発に携わる。「LOVEのカタチが変わると消費が変わる」が持論で、LOVEマーケティングを専門としている。