WebマーケティングにおけるUXデザインの必要性
それでは、製品・サービスを中心とした企業活動全体のうち、企業のコミュニケーション活動、それもWebマーケティングという限定された領域に絞って、UXデザインの重要性について考えていきます。
Web媒体と表現手法の多様化と利用シーンの複雑化
現在、Webでのユーザー行動は「大量の情報の中から必要な情報を絞り込んでいく」ことがベースになっており、Webマーケティングの手法も「必要な情報だということをどのようにして認識してもらうか」がポイントになってきています。

掲載位置や表現から「バナーである」と認知した瞬間に「自分と無関係」として無視されてしまう、いわゆる「バナー・ブラインドネス」がネイティブアドなどの新たなアプローチ手法を生み出したことはわかりやすい例でしょう。しかしWeb上での情報表現の手法が増えるということは、目的とするコミュニケーションに対する最適な手段を選定する難易度を上げることも意味します。実際、目新しく効率的な手法を採用した結果、ユーザーの閲覧文脈にそぐわない情報を掲載しているようなケースを目にすることも多くなっています。
また、製品やサービスに関する正確な情報が、企業の公式サイトの外にある第三者のメディアにも掲載されることで、情報を届けられる範囲が広がった一方、企業側の情報発信媒体の運営意義が不明瞭になってきています。たとえば価格.comなどの比較サイトでは、メーカーを横断して比較検討できるうえに、購入検討に必要な価格情報はメーカーサイトには掲載されていないのですから、ユーザーはメーカーサイトに訪れないままで購入検討が十分にできてしまいます。
スマートフォンの普及は、Webを屋外に持ち出しました。店頭で商品を見ながらスマホで情報を収集するという行動ももはや一般的です。Webメディアが、店頭POPやポスターといったリアルの媒体と同時に閲覧される状態です。
一貫性を持ったWebでのコミュニケーション
メディアの種類も、メディアの使われ方も、情報の表現の仕方も多種多様になったWebマーケティング活動において、それぞれのメディアや施策ごとに取り組みを最適化していくと、リソースやコストの意義や効果が見出せないだけでなく、メディアや施策によってメッセージが矛盾してしまい、信頼を損ねる危険性があります。そこで、一貫したコミュニケーション方針を策定し、各メディアの役割を明確にすることが、個別施策の最適化や施策間の連携を下支えし、Webマーケティング活動全体を効果的で効率的なものにしていくうえで重要になってきます。
「コミュニケーション全体を包括する方針の策定」と「各メディア・施策の役割定義」は、「ユーザーに提供する価値ある体験の設計」に相当します。また、策定した方針やメディアの役割をベースにした具体的な取り組みのためには、「体験を提供し続ける仕組みづくり」が不可欠です。
Webでのコミュニケーションに一貫性を持たせたまま、個別の取り組みを最適化し続けるために、UXデザインの考え方やアプローチは非常に有用です。
